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第51話 封印
”精霊の曲”で魔王と共に一度浄化された”闇の石”は、まるで燻るような波動を出していた。
勇者は掴めるほど近くまで来ると、”闇の石”に両手を添えて、流れるような詠唱を始めた。
いつもの古代魔法の詠唱ではない。
もっと、別次元の・・・。
そう、それは遥か遠い過去より刻まれた、精霊由縁の”封印の呪文”。
”封印の呪文”に呼応するように、”闇の石”が牙を剥いた。
既に浄化がされているとは思えぬ威力。
鎌鼬のような真空の刃を含んだ強風が吹き荒れ、一撃で精神を崩壊させるような闇の波動が勇者を襲った。
勇者の姿は漆黒の暗闇に呑まれ、仲間達からは見えなくなる。
こんなに近くにいるのに、何も出来ない。
マリンは震える手で、勇者から預かった”精霊の竪琴”を握り締めた。
「お願い・・・無事でいて・・・!」
皮膚を裂かれ深手を負っても、どんなに精神攻撃を受けても、命を抉り取られても、勇者は詠唱を止めなかった。
誰かの笑顔が、勇者の脳裏に浮かぶ。
「今こそ、”闇の石”の封印を!」
(続く)




