第5話 再来
「私はマリン。村の人からは”魔女”と呼ばれているわ。」
自虐的な自己紹介をする乙女。
よほど人に恐れられる事に慣れてしまったのだろう。
しかし”魔女”の由来を聞いても、二人は臆することはなかった。
「どうして?私は心を読むのよ?」
「僕は世界中、旅してるからね。
希少になったとはいえ、特殊能力者なんてまだまだいるさ。それに・・・。」
ぼんやり外を見つめる自称”勇者”に目をやり、武闘家(男)は笑って言った。
「彼と一緒にいると、その位じゃ驚かないよ。」
自分を恐れない人間がいる事に、マリンは驚いた。
あの少年に一体何があるんだろう。
夕日が暮れようとしていた時、自称”勇者”が突然立ち上がり、外へ駆けて行った。
何が何だか判らないが、とりあえず後を追う武闘家(男)。
マリンもその後を追った。
村の外まで来ると、悲鳴が聞こえた。
自称”勇者”の姿が見え、その正面に大きな身体と翼を持った魔物が立っていた。
この地方では見た事がない。
悲鳴を上げた見張りが、恐怖に駆られて魔物に矢を射かけようとする。
「駄目だ!攻撃してはいけない!」
自称”勇者”の制止は空に消え、門番は矢を打ち放った。
見事に命中したその時、魔物は高らかに咆哮を上げると、射掛けた門番は白目を剥いて倒れてしまった。
「攻撃した相手の魂を食うタイプか!?」
武闘家(男)は自称”勇者”の横へ位置し、構えながら叫んだ。
「こんなのどうするんだよ!」
魔物の前足が振り上げられ、二人が先刻までいた場所を鋭い爪が抉る。
「僕に任せて。」
自称”勇者”は、対盗賊で見せた見事な回避で、上手に魔物と距離を取って行く。
魔物の攻撃が僅かに届かなくなった刹那、その手に持っていた美しい竪琴を奏でた。
澄んだ音色が響き渡る。
その瞬間魔物の動きは止まり、やがて苦しみ悶え・・・塵となって消えて行った。
誰もが立ち尽くし、呆然とした。
美しい竪琴の音色で魔物を殲滅する姿は、まさしく「伝説の勇者」の再来。
そう・・・、彼は確かに、紛れもない「勇者」なのだ。
翌朝、旅立つ二人に、マリンが言う。
「私も・・・連れて行って。」
魔物が闊歩する危険な旅に女性を連れて行くなど・・・と思ったが、マリンの必死の訴えに、せめて彼女が穏やかに暮らせる場所までという気持ちで迎え入れた。
彼女の名は、マリン。
心を読む、美しい乙女。
(続く)