第32話 水色楕円形の物体
物体は奇妙な鳴き声を上げて、勇者の遥か後方まで吹き飛んだ。
今迄誰も気付かなかったのは、勇者の衣服が物体と同じ系統の色だったせいもある。
物体は平たくなり動きを止めていた。
「だ・・・駄目だよ、マリン。」
勇者は慌てて物体を拾いに行った。
僅かに透ける水色楕円形の得体の知れない物体。
皆の目には、どう見てもモンスターにしか見えない。
しかし勇者はあまつさえ治癒魔法をかけているようだった。
「彼は悪いモンスターじゃないよ。」
動き出した半透明の物体に、優しい瞳を向ける勇者。
物体はこの村が襲撃された際、井戸の中に落ちて、今迄出る事が出来なかったのだという。
「まさかと思うけど・・・それを助ける為に、井戸に落ちたんじゃ・・・。」
武闘家(男)の問いに勇者は否定していたが、どちらが副産物か判らない。
果たしてわざと落ちたのか、落ちたから物体をみつけたのか。
どちらにせよ得体の知れない物体と勇者は仲良くしていた。
勇者は、このモンスターの言葉さえ理解しているようだった。
夕暮れが近付き、闇が濃くなってくる。
タオルに包まっているとはいえ勇者は濡れたままだし、こんな気味の悪い場所に長居は無用だ。
乗り物に戻ろうとすると勇者の肩に乗っていた物体は飛び降り、少し離れた場所まで行くと振り返って、こちらをじっと見た。
「まさかと思うけど、誘導してる?しかも行くつもりじゃ・・・。」
武闘家(男)の不安は的中する。
勇者は笑顔で答えると、物体の後を追った。
(続く)




