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勇者物語  作者: 野川真実
21/62

第21話 みつめる先

乗り物は、荒野を高速で走る。

勇者は何が起きたのか総て知っているかのように、いつもと変わらず無言で外をみつめていた。


突然轟音が鳴り響き、何かが土煙を上げて近付いてくる。

大型動物の群れだと気付いた時には乗り物は巻き込まれ、二転三転してひっくり返った状態で止まった。


「参ったな・・・。今日はもう動けそうにないか・・・。」

車輪が上になった状態の乗り物は、重くとても簡単には元に戻せそうにない。

中も滅茶苦茶で、日も沈みかけた現在、この場で野宿しかなかった。

戦士(男)は乗り物の状態を確認して、皆に伝えに来る。

全員打ち身だらけなので、勇者が回復魔法で忙しそうだ。



焚き火を中心に、静かな時を過ごす。

勇者が竪琴を奏でていた。

美しい音色が闇夜に溶けていく。


勇者の横には、朔夜がいた。

片時も離れようとせず、ずっと勇者をみつめ続けていた。

同じような視線を、また別の人間にだが、送る者がいた。

戦士(男)はじっとマリンをみつめている。そのマリンは、勇者を見ていた・・・。


戦士(男)の視線に気付いて、マリンは一度戦士(男)を見ると、すぐに俯いてしまった。

”沈黙の湖”での出来事が蘇る。


『マリンは勇者の事が好きなのか?』

『俺は好きだぜ、マリン・・・。』


マリンは戦士(男)の言葉を思い出して、頬を赤らめると同時に困惑した。



・・・自分の気持ちが判らない。


心が読めるマリンには、戦士(男)の一途な想いが痛い程通じていた。

戦士(男)ならきっと、命を賭してでもマリンを守り、必ず幸せにしてくれるだろう。

だけど、気付けばマリンの瞳に映るのは勇者だった。


マリンは首を振った。

(違う、勇者なんか好みじゃない。

筋肉なんて全然ないし、私より弱い勇者なんて恋愛の対象にさえならない。

こんな大ボケ勇者なんて・・・。)

それでも、マリンは勇者を見続けていた。





(続く)

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