1戦目 人間嫌いな少女と親友ちゃんその3
粉塵と煙幕が収まり、その全貌が明らかになる。
木々は跡形もなく、地は大きく抉れ、巨大なクレーターが出現したその場所にただ1人笹本だけが仁王の如く立ちふさがっていた。
「……あり得ない。魔法師でさえも一度に数十人は殺すことの出来る魔法だぞ、いくら私が未熟だからといって立っていられるわけがない!」
驚愕の表情を浮かべる……演技をする沙紀から始まる前に比べどこか嬉しそ、楽しそうな気配が漂っていた。
「さっきー、その主人公に最強の魔法(笑)を撃って綺麗に乱立した死亡フラグを回収するモブその3ごっこをいつまで続ける気?」
そんな沙紀に対してめんどくさいことが始まったとばかりに兎はため息をついた。
「せっかく血縁系魔法であそこまで爆発を起こせたんだからやってみたいじゃない。あんまり撃てる機会ないし。」
「……やる気なくて死んだ目をしてた沙紀さんはどこにいったんですかねー。」
そりゃあんな魔法をポンポンと撃たれたらたまったものではないと呆れた目を向ける兎。
「取り合えずモブごっこは置いといて、蹴っ飛ばして燃やしといて、本題はここからだよ。」
「いやいや、そこまでしなくてもいいでしょ。」
「いい考えがあるんじゃなかったの?普通に笹本ぴんぴんしてるんだけど。」
沢山いた生徒を片付けるついでに撃ちたかった魔法を撃っただけだったらただではおかないと兎は目で訴える。
「それなら大丈夫よ。確かに対して傷を負ったようには見えないけど、『超新星爆発』は私自身の魔力はほとんど使わず他人の魔力を奪い発動する魔法。」
「……いつ聞いても酷いよね、あの魔法。」
「それによって他の人達によって削られていた魔力装甲、魔力に追い討ちがかかって、もうほとんど魔力が残っていないはず。所々に火傷なんかの傷が見えるのがその答え。」
沙紀の考えを聞いた兎は最後の答えを自らで導く。
「なるほどね、つまりこれからが最後の仕上げ、私達で止めをさすってことだね。」
「そう言うこと。兎、前衛は任せた。」
「後衛は任せたよ、さっきー。」
二人の会話が終わったことを確認した笹本がゆっくりと歩みをすすめ構えを取る。
「作戦会議が終わったようだからな、そろそろ行かせてもらうぞ。」
「わざわざ待っててくれるなんて律儀ですね。それじゃあ私もやるよ~。」
そのセリフとともに兎はそれまで纏っていたふざけた空気を一変させ、鋭く笹本を見据えると腰に吊るしていた鞘からゆっくりと刀を抜き放つ。
「柊流剣術免許皆伝柊兎、推して参る!」
名乗りとともに身体強化と武器を魔法を付加する。兎の名乗りに従い沙紀も杖を構え直し、僅かな詠唱で複数の魔力の球を召喚する。
「柊の娘か、なるほど。森明拳術師範笹本信之、正々堂々と参ろう。」
兎と笹本が睨み合うこと数瞬。
先に仕掛けたのは兎の方だった。
地面を大きく踏み込み喉を目掛けて突きを放つ。
笹本は体を横にずらし、兎の突きをかわすしカウンターを放とうとするが沙紀の魔法弾により阻まれる。
刀を引き戻した兎は腹、脚、首に三段の斬撃を放ち後方へと距離を取る。
兎からの首と脚への斬撃を避けきるも腹は避けきることができず、浅く切られ、笹本もまた後方へと距離を取った。
「さっきーの言うとおりだね。浅いのしか入らなかったけど攻撃は通ったから魔力を少ないみたい。それにほとんどを攻撃に回してる見たいだからダメージはそのまま入りそうだよ。」
兎が攻撃の感想を沙紀に伝えると沙紀から一つの指示がそっと出された。
「わかったよ、さっきー。」
指示を受けた兎は小さく頷くと笹本に向けて前に出た。
「……身体強化弐式」
魔法により自らの身に更に負担がかかるがそれに構うことなく極限までに強化された肉体をもって笹本に斬りかかる。
「……柊流剣術参之型桜吹雪!」
「……森明拳術清厘!」
桜吹雪を思わせる無数の突きに対して笹本は一撃に力を篭った拳を放った。
自らの身をものともせず、ただ一撃を浴びせようとした笹本の行動に意表を突かれ対処が遅れた兎に隙が生まれた。
その隙を笹本は見逃さず、体の幾つかに兎の斬撃をもらいながらも拳を振るった。
避けきれなかった兎は急所を免れたものの大きく吹き飛ばされ、少なくないダメージを負う。
だがそれは笹本も変わらず、防御に魔力がほとんど回っていないため幾つかの場所からは血が流れだし、見方によれば兎よりもダメージを食らっているようにも見えた。
(あれだけ魔力を消費してるのに身体強化弐式でも引き離せないなんてほんとに強すぎるね。けど……私達の方が強い!)
身体強化の魔力の多くを脚へと回すと兎は最後の攻撃へと打って出た。
これまでとはくらべものにならない負荷が脚にかかり骨が軋む音がする、だが兎は後ろを信じ前へ駆け出した。
魔力がかなり枯渇してきたのか少しずつ動きが鈍る笹本を相手に速さをもって避け、交わし、斬撃を放つ。
「柊流剣術弐之型枝下藤!」
上からの流れるような斬撃が放たれ、笹本の体を傷つけていくがそれでもなお倒れることなく最強の一角と言われる由縁を体現するかのようであった。
(やっぱり笹本先生は強い。魔力を枯渇しても戦う術を持っている。私1人なら止めを刺すのもなかなか大変だったかも。だけどね……)
兎は迫り来る笹本をただ見つめるだけだった。
(……私は1人じゃない、私達で1つだから!)
目の前まで迫っていた笹本の体が突如爆発しはぜ、後方へと吹き飛び、更に空中から迫り来る飛来物により何度でも爆発を起こした。
「遅いよ、さっきー。」
疲れた色が顔に出ているがそれでも笑顔を沙紀に向け、沙紀の元に駆け寄った。
「間に待ったからいいでしょ、ぐはっ、ちょっ、兎身体強化切らずに飛び付くな!死ぬって、肋骨軋んでる、軋んでるから!」
「遅かった分のお仕置きってことで~。」
最後には苦しむ沙紀と笑顔の兎だけが戦場に残り二人を包むように太陽が燦々と輝いていた。