1戦目 人間嫌いな少女と親友ちゃんその2
「ねえねえ、さっきー。」
遠くをぼんやりと見つめたまま兎は沙紀に問いかける。
「どうしたの、兎。」
同じく遠くをぼんやりと見つめたまま沙紀は兎に問い返した。
「皆がやられてからってさ、絶対あれに勝てないよね。」
二人がぼんやりと眺めていた先にあったのは正しく一騎当千、無双状態の笹本が暴れている戦場だった。
ある生徒は笹本の拳を受け倒れ伏し、またあるものは拳により腹に穴を開けられ戦場の外へと転送されていった。
激戦の跡は至る所に見られ、凍った地面、鉄の鏃や剣の破片、焼かれ炭になった木がそこら一帯の地面に転がっていた。
「はっはっはっ、どうした、お前達の力はそんなものだというのか?答えろ、樋口!」
所々に傷を負いながらも樋口と呼ばれた生徒は立ち上がり、笹本をきつく見据え残る力を気力に換え魔法を放つ。
「くそがっ!吹っ飛べよ、炎帝の鉄槌!」
炎を宿した拳を掲げ笹本に向け放たれる笹本は動じることなく、魔力装甲で覆われた掌で受け止め、その力を利用して後方に投げ飛ばした。
「くそ、が……」
その攻撃によって転送されていった樋口を尻目に次の生徒に備え身構える。
「樋口先輩!……先輩の仇だ、受けとれ、炎槍群!」
後方にいた生徒が笹本へ向けて幾本もの魔法で編まれた炎の槍が降り注ぐが、それでもなお魔力装甲を貫くことが出来ず、笹本はただ無造作に掴み、潰し、叩きおった。
そしてその勢いのまま、その生徒へ向けて静かに魔法を放つ。
「……我拳に聖なる火を灯し、聖なる裁きをもたらせ、炎神の鉄槌!」
樋口の魔法よりも遥かに巨大な暴炎に包まれた拳が生徒を襲い、魔法を受けた生徒はその高温の炎に身を焼かれ、吹き飛び、バラバラに砕け散ったからだの破片は消し炭へと変わり戦場の外に転送されていった。
それはあたかも格の違いを見せつけるが如く。
その光景を眺めていた兎は流石に焦りを覚えたのか沙紀に無理は承知でといった感じで話しかけた。
「さっきー、そろそろ参加してみない?流石にあれはヤバイって。
「別にいいけど。」
……無理だとは思うけどさ、ちょっとくらい…………え?ごめん、もう一回言ってくれる?」
今の沙紀からは決して聞かされないような発言に耳を疑った兎はもう一度聞き返す。
「別にいいって言ったの。私にいい考えがあるから。」
「……嫌な予感しかしないんだけど。」
なんということはないといった感じでそう言う沙紀に対して、こういったナーバスな状態に陥った沙紀の良い考えなどろくなものではないとしかその経験則から兎は思えなかったのだが、沙紀はそんな兎を思いに構うことなく自分の考えを実行しようと行動を始める。
「兎、そこ危ないから私の後ろに居てくれる?あの魔法放つから。」
沙紀の隣で危ない、あの魔法、それらから兎は沙紀が何をしようとしているのかを粗方察してから抗議の声を沙紀に向けた。
「ちょっとさっきー、あれ撃つ気?そんなことしたら回りの人皆巻き込んじゃうよ!」
恐らく悪い予感は当たっていると焦りの表情を兎は浮かべるのだが、そんな兎の抗議の声を聞かずに沙紀は魔法詠唱を始める。
「……人の生とはなんぞや、犬の生とは、猫の生とは、動物の生とはなんぞや、木の生とは、花の生とは、植物の生とはなんぞや……」
沙紀が自身の前に掲げた杖から魔力の球が精製されふわりと浮かび上がり人が歩くくらいの速度で指向された方角、生徒達が戦う戦場に放たれていく。
「……育ち、栄えるとはなんぞや、……」
魔力の球は戦場の上につくと移動を停止し、その戦場の下にいる人々から魔力を奪い、吸収し肥大し始める。
「なんだ、魔力が取られる……」
「あの魔力の球のせいね、これは誰のよ!」
強制的に魔力を奪われる感覚に罵倒と困惑が飛び交い、笹本からさえ困惑の表情が見られる中、それでもなお気にすることなく沙紀は詠唱を続ける。
「……ならば、人の死とは、植物の死とはなんぞや……」
やがて魔力の球は保有出来る容量を越え、徐々に暴走を始め、膨張していった。
「……これら全ての答えにならざるとも、だが明確な答えを示そう。
全ては惑星にうまれ、惑星にて死す。惑星の成長を自らで行い、我疑似なる惑星と死すれ!『超新星爆発』!」
暴走、膨張、を続けていた魔力の球はそれら全ての変化が停止し、静まりかえった刹那、
辺りを包む昼間の太陽のごとき輝きと共にその中に蓄えられた魔力が解放された。
解放された魔力は地を飲み込み、木々を飲み込み戦場の下にいる全ての人を飲み込み、白く塗りつぶていった。
そして一瞬遅れた後、爆音と共に地が揺れ、剥がれ抉られ、木々は跡形もなく消し飛び、人々の姿は……消えた。
爆発の名残の粉塵が天高く舞い、離れていた二人の頭上にまで降り積もった。
「……やったか」
「さっきーって馬鹿なの!なんなの!あの爆音で居眠りの人起きたら本末転倒だって思わないの!それにやったかって完璧死亡フラグだよね!」
「一度は言ってみたいセリフ第4位。(沙紀調べ)それに色々片付いたから別にいいでしょ?」
「さっきー調べってそれさっきーオンリーだよね!片付いたって生徒の皆のことじゃないよね!現状の問題点の先生をどうするかってことだよね!」
「大丈夫だ、問題ない。我鈴鹿家の血縁系戦略魔法だよ?あの爆発に巻き込まれたものが生き延びられるわけがない。」
「更に死亡フラグ量産するのやめようよ!それにまともにエ○シャダイ知らないのにネタに使ったら怒られるからね!」
突っ込みに疲れてはぁはぁと肩で息をしながら兎はもう一つ忘れていたことに突っ込んでおく。
「……あと戦略魔法をこんなところで使うな。」
「それをついでのように突っ込むのはやめてね?」
沙紀も死亡フラグを量産するのに飽きたのか爆発跡、巨大なクレーターが出来た戦場に目向ける。
すると粉塵が晴れかけたクレーターに揺らめく一つの人影が浮かび上がりこちらを見据えていた。
「今のはなかなか危なかったな……一年にしてはよくやる、お前達!気に入ったぞ!」
とことどころ爆発により傷を受けた形跡が見られるものの、致命的なダメージが入ったようには見られない。
笹本はその場にただ1人悠然と立っていた。
「「うん、知ってた。」」
やっぱりなとめんどくさそうな顔をする兎と死亡フラグが成り立ったことがうれしいのか微かに笑みを浮かべる沙紀の姿が他にはあるだけだった。