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10.大団円のその後で~マクシミリアンと悪役令嬢~ 【最終話】

最終話です。



その後、どうなったかと言うと。


俺の元には、クラリッサ嬢からよく文が来るようになった。雰囲気も何も無い明け透けな文章だが、理想の美女からのアプローチに俺はドキドキして浮かれた。


「困ったなぁ…身分が違い過ぎるから、惚れられても応えられないんだけど……」


と独り言を言いつつ、雑草を抜く。今では婚約者となった二人と、何だかお邪魔虫な俺の三人で薬草園を切り盛りしている。


しかし今の俺はこれまでの俺とは違うのだ。バルツァー少尉がいくらデレデレしていたって、平気だ。俺はモテているのだから。

ハハハ。

何せ休日に公爵令嬢からご招待を受けて、お茶を振舞っていただくのだ。


わーい。


俺は授業中もずっと、すごい笑顔だったらしい。講義の度、全ての教師に何度も注意を受けた―――「ニヤニヤするな」と。

しかしその内、何を言われても笑っている俺を不気味に思って誰も注意しなくなった。


『アイツはショックでおかしくなっているんだ。やっぱり、大好きな従妹を奪われて自棄になっているっていう噂はホントだったんだ』


と周囲は確信を持ち始め、だんだん彼等の俺を見る目が嘲笑から同情に変化してきている。


でも、俺は気にならなかった。


だって、『女神さま』にお屋敷うちデートに誘われたんだぜ!

ハハハ。

なんとでも言いやがれ。

モテる男は余裕なのですよ。







** ** **







当日俺は花束と、姉達が常々騒いでいる令嬢達に今大人気の菓子を携えて、心の中でスキップを踏みながら瀟洒で洗練されたアドラー公爵家の門をくぐった。

迎えてくれたクラリッサ嬢は相変わらず美しく、そして最近は快活で、とても愛らしい。


「いらっしゃい、マクシミリアン!」


頬を上気させてニコリと微笑む女神に心を奪われていると、いつの間にか庭園に案内されて、茶器を握っていた。




庭園では、二人でとても楽しい時間を過ごした。


俺は鬼姉達の武勇伝を披露し、クラリッサ嬢を腹を抱えさせる程笑わせた。公爵令嬢が腹を抱えて笑う所なんて初めて見た。夜会と違って子供のように無邪気な様子が、とても可愛くて眩しかった。

一方クラリッサ嬢はバルツァー少尉との思い出を懐かしい様子で、カー少尉の最近の女性事情を面白可笑しく打ち明けてくれた。

俺には何でも包み隠さず話してくれるんだな……としみじみジーンとしてしまう。

あっという間に帰る時間。ああ、名残惜しい。


これが、恋か?

そうなのか?

だから二人の時間を、一瞬に感じてしまうのか?


エントランスで別れる時、彼女が俺の両手をキュッと握りしめた。


はっと顔を上げる。


いやいやいや……まずいだろう。執事さんも控えているし、ここ誰が来るか分からないし……と慌てて手を引こうとするが、柔らかい手の感触に本気で振り払う事が出来ない。胸が高鳴る。


「クラリッサ様、いけません……」

「マクシミリアン……私もマックスとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「え……あ、はい!も、もちろんです!」


どっきどっきと、体全体が心臓になったように脈打つ。俺はもう全身真っ赤になっているに違いない。クラリッサ嬢の瞳が潤んで、恥ずかしいのにその妖しい魅力に目を離す事が出来ない。


「マックス……ふふ、恥ずかしいわね。私の事は、クラリッサと呼び捨てて下さい」

「そんな……私達は身分が違い過ぎます……」


「まあ!」


クラリッサは、批難するように目を見開いた。




「友情に身分など、関係ないわ!」


「そう、友情に身分は……はいぃ?」




「私、初めて家族以外で、こんなに何でも打明けられる人に出会ったの!友情に、身分も男女も関係無いわ……何人も私達の友情に否やを告げられる者はいないわ!神に誓って、後ろ暗い所は何にも無いのですもの!」


グッサー!


あ……こいつは……


スゴイ剣の使い手なのかもしれない。

コリント流派で五本の指に入るこの俺の心臓に、致命傷となる一刺しを突き刺しやがった。


「ははは……そうですね……『友情』に身分はカンケー無いですよね……そうですよね……別に婚姻関係を結ぶ訳じゃなし……」

「そうよ!だから、堂々と『クラリッサ』と呼んでちょうだい!」


グサッ


「……そうですね、ははは……」


「ぷっ」


二階からエントランスに伸びる歴史を感じさせる重厚な階段の上から、優雅に降りて来た人物が、ニヤニヤと僕らを見下ろしていた。


「兄様」

「やあ、マクシミリアン」

「アドラー少尉……」


見られた―――一番、見られたくない、弱みを握られたくないタチの悪い悪魔に、見られた……。


「僕も、『マックス』って呼ぼうかな?」


麗しい『薔薇の騎士』は、とても楽しそうにニンマリと微笑んだ。


「駄目よ!兄様はマックスをからかいたいだけでしょう?気持ちを分かち合ったりしてないじゃない」

「いや……分かち合っているよ……これ以上無いほど……マックスの気持ちは痛いほど、理解しているよ……」


と、肩を震わせて今にも吹き出しそうだ。


「僕の事も、『カー』って呼んでね」

「兄様!」


俺はわなわなと拳を握りしめ、体を震わせた。




こ……この、鬼畜兄妹きちくきょうだいめぇ……!




俺を挟んでじゃれ合う時も無駄に色気を振りまくアドラー兄妹を、俺はキッと睨み返した。俺は、お前らの都合の良い『おもちゃ』じゃ無いっ!

そう引導を渡そうとして、美しい兄妹の大輪の華の様な微笑みに、息を呑む。




「また、お茶しましょうね!」

「今度、呑もうぜ」




「兄様と呑みに行ったら、悪い女癖がうつるでしょう!私の『親友』のマックスに変なこと吹き込まないで!」

「ぷぷっ……またな、『マックス』」

「マックス!兄様は無視してね、またいらして!」




俺を取り合う兄妹に引き攣った笑顔で礼をして、ほうほうの体で逃げ出した。俺って、どーして女性に男として扱われないんだろう……。


預けていた愛馬にひらりと乗り移り、腹を蹴って走り出した。強い風に瞳が晒され、左目から冷たい物が飛んで行く。目から雫が零れるのはただの生理現象だ。決して悲しいからじゃない。




俺は泣いていない!……泣いてないぞぉ……‼







【変わり者の従妹と婚約することになりました・完】

続編も投稿しておりますので興味を持っていただけましたら、そちらにも立ち寄っていただけると嬉しいです。


お読みいただき、有難うございました。

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