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第五話〜出発〜

校長はいかにもっぽいドッシリした椅子に半分だけ座り肘をついて頭を支えていた。

横には校長よりもそれっぽいと評判の教頭が苛立ちを隠しきれない態度で俺をにらんでいた。


「自分が何故呼び出されたのか、理由を考えて答えなさい」


教頭の言葉で、学校裁判は始まった。


「わかりません」


俺はその言葉で様子を見た。

何とでも理由をとってつければ、俺の場合は呼び出すのは簡単なはずだ。それが学力の話であっても、部を辞めたことでも。


「この写真を見てほしい」


教頭の差し出した写真の右下隅には、「23:24」と記されていた。暗くてよくわからないが、どこぞの階段の近くにいる人物が堂々とピースなんてしてる。

俺……だ。


「こんな時間帯に、君は何をしていた」

……。

「ただの気分転換です」

これがいい答えだとは思ってないが、嘘でもない。

「条例違反、このことを考えなかったのか」

条例。

確か、「未成年は午後十時以降出歩いてはいけない」ってやつだったと思うのだが、それには例外があることを俺は思いだした。

「塾帰りだったんです」

そう、塾通いの友達が警察に見つかった時、この言い訳で逃げられたと言っていた。所詮は学校、これなら簡単に……。

「君は塾には行ってない、そうでしょ」

……!

何故、学校が生徒の塾通いまで知っている?

「最近、行き始めたんです」

「そのような情報はありませんでしたね。今度、親さんにも確認の電話を入れておきます」

……はぁ?

「ちょっと、待ってください。何で、わざわざそんなことまで確認が必要なんですか。プライバシーとか、そういう法律違反なんじゃないっすか」

越権行為だ、こんなの。

「私たちは生徒一人一人の個人情報を得ることを許されています。それは、あなたが入学当初提出した書類で認められたことです」

……馬鹿な。

俺は記憶を遡ってその「書類」とやらを探していた。

入学式の時、三〜四枚くらいのプリントを親からもらって、担任に提出した覚えはある。まさか、そのプリントが「書類」?

だとしたら、恐喝もいいところだ。あれは全員が提出するように言われてたプリントだ。

この学校に入る奴は、そんなことを強制されてたのか?

「君は、昨日部活も辞めたそうですね」

教頭は抑揚のない声を放った。

「担任に訊けば、君は最近成績も急激に落ちているとか」

……だから何だよ、と言いかけたが、寸前のところで理性は助けた。

「それと……これに関係があるんですか」

素行が悪くなっている、とでも言いたいのか。条例違反なんてこの学校に何人いると思ってんだ。


「退学」


……???????????????


「君を、退学処分にする」


なん……だとぉ!??

「待ってください!この条例違反については申し訳ないと思います。ただ魔が差しただけなんです。だから、今回だけは許してください!」

こんなことで、辞めさせられるなんて話があるもんか!

「学校の評価にも関わる」

「今後、このようなことがないようにします。反省してます」

俺は必死になった。別にこの学校にこだわってるわけじゃないが、高校中退なんて出来るわけがない。

「そんなことで」

「教頭先生」

それまで無言を貫いていた校長が、とうとう口を開いた。

「本人も反省してます。退学はあまりに酷すぎる処分です。これは一回目です。今回は様子見としましょう。それでいいじゃないですか」

「しかし、それでは」

「守谷君」

教頭のヒステリックな声を聞き流し、校長は穏やかな声で俺を呼んだ。

「はい」

俺は校長をまっすぐ見た。今、俺を救ってくれるのはこの人だけだ。

「放課後、担任の先生から処分を伝えます。お昼休みも終わることです。もう、教室に戻ってください」

……え?

「校長!」

「もう行きなさい」

俺は無言のまま校長に一礼して校長室を去ろうとした。

「待ちなさい、最後に一つだけ訊きたいことがある」

教頭は俺の背に声をかけた。


「屋上に、興味を持つ人を知らないか」


俺は、首を横に振ってすぐに部屋を出た。


こうして学校裁判は、弁護士の裁判中止要請によって検察が追求を辞めたため、被告は釈放されたという結果に終わった。それでも、被告の心は全く晴れなかった。


宮野の言っていたことは、真実……。

異常な管理、監視体制。この学校の真実を、俺は目の当たりにしていたはずだったのに……。

俺は最後の言葉に違和感を覚えた。覚えはある。しかし、それを知って奴らに何の利益がある?興味くらいで何かが起こるというのか?人の興味まで学校は知らなきゃいけないのか?

……まさか、俺と宮野の話を聞かれていた?

そんなはずはない。だったら呼び出すのは宮野が先だ。

待て待て。それより、何故屋上?

……ああ!もうわかんねぇよ!


放課後。

担任から渡されたのは、四百字の原稿用紙五枚だった。

俺の文章力は今でも評価されているほどなので、頑張れば四十分くらいで終わりそうだった。

誰もいない教室に、シャーペンの音だけが響く。

要は、これからはちゃんとすればいいんだろ?だったら軽い話だ。

……ちゃんと?それじゃぁ、昨日俺は何で宮野を否定できた?俺がしようとしているのは、宮野なんじゃないのか?

「あれ?守谷君?」

背後から、いきなり声がした。

「宮……野?」

それは、いつもの宮野だった。妙に優しい笑顔を誰にでも振りまく、宮野だった。

「何これ?反省文?大変そうだけど、頑張ってね。ファイトだよ」

……嫌み、だな。

「二人きりなのに、そのまましゃべるのか」

宮野はその笑みを止めた。

「……警告はしたはずよ。退学にならなかっただけ、マシだったと思いなさい」

冷酷に告げる宮野に、俺は反論出来なかった。

全てこいつが正しかった。異常すぎる学校に、つまらない社会に逃げていた俺はその事実にすら気づけなかったんだ。だからあいつは言ったんだ。「楽」と。真実を知らなければその真実の存在も考えないで過ごせるんだから。逃げてれば、汚れを受けた時のダメージが少ないから。

「……教えてくれ。お前は……何を知ってるんだ」

こいつは俺が知らなかった真実を知っていながら、それでも世の中のきれいな部分とだけつき合っているように生きている。少なくとも俺にはそう見えた。

俺には、今までみたいに逃げるか、こいつみたいに尻尾を振って生きるしかないのか?

「昨日、君が言ったことを一つ否定するよ」

……?

「私は社会に尻尾を振って生きてるわけじゃない。自分というものを失わないで、この学校の中、社会の中で自由を得るにはこうしていくのが一番手っ取り早いの」

……自由?

「私は屋上を目指す。こんな日常の中で、非日常的な景色を見たいの。それが私の自由で、抵抗なの」

こいつの、強い意志を感じた。俺を圧倒させて、何か、知らないものを見せつけた。

宮野はまっすぐ俺の目を見て、俺に手を差し出した。

「今なら間に合う。いや、今しかないよ。君はわかったんだから、助かるよ。だから」

宮野は一呼吸置いて、俺に言い放った。


「一緒に、屋上へ行きましょう」


俺は、もう迷わなかった。


「言っとくけど、俺は前科持ちの、犯罪者みたいなもんだぞ?」


「逆らうなら、とことん逆らってやる」


俺と、宮野の、屋上協定は、堅い握手によって成立した。



失ったもの、求めていたものを、全部奴らから取り戻してやる。

ここまででやっと序盤終わり……です。

話数が重なるわりに全然書けてないのは許してください。

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