第四話〜拒否〜
『一人で帰っちゃうなんて酷いよっ!!知らないから!!』
すっかり忘れていた高本を思いだしたのは午後十一時のこのメールが届いた時だった。
明日、昼休みにパンでもおごって謝れば何とかなるよな……?
俺はベッドに横たわり、流行のロックバンドの新曲をイヤホンで聞き流していた。こんなの、どこがいいのか全然わからなかったが、高村が熱心に勧めてたから仕方なく聴いているだけだ。
ボーカルの喧しいシャウト、無意味に響くエレキ、鳴らしすぎのドラム、横文字並べただけの歌詞……。
そんな音の中、俺は正に「心ここにあらず」だった。
心はただ、今日の放課後に置いてきたのかもしれない。
……今なら、いるかもな。
俺は部屋を出て、玄関に向かった。
シーンという漫画の擬音が本当に存在すると思った空気の中、俺は学校に着き、始めに宮野を見た非常階段に近づいていた。
「……あるな」
非常階段の入り口、上を見ればカメラはあった。
「……これに写るだけで……」
時は遡る。
「……は?」
「言葉の通りよ」
大まじめな顔をして、宮野は言った。
「……何で、俺なんだよ」
「暇でしょ?剣道部辞めたんだし」
待て待て。こいつが何で辞めたことを知ってるんだよ。
「太田君、今日ずっと荒れてたわよ」
……あの馬鹿。
「何で、屋上なんだよ」
「あなたは気にならないの?」
……屋上。
んなとこ行ったところで、田舎町が広々と見えるだけだろ。
「一人でやってろ」
俺はその場を離れようとした。
こんな、いかれた青春乙女なんかにつき合ってられるか。
「辞めた本当の理由、私が代わりに言ってあげる」
止まってしまった。本当の……?
「社会に絶望してるくせに、自分からは何も出来ないからって、何もかも捨てて求めるふりだけして逃げて諦観してれば、楽なのよ。ただ逃げてるだけなんて、卑怯者のすることよ」
……。
「じゃぁお前は何なんだ。そうだとわかった上で、あたかも人間として自分は清らかであるように見せかけて、ヘコヘコしてるのが辛いとでも言いたいのか。成績優秀で、周りから慕われてるお前に何がわかる!」
俺が叫んだのは、確かこういうことだったはずだ。もっと、汚かったかもしれないけど。
俺は走りだした。
「最後に一つ!」
無視。
「これから、むやみにカメラに写らないで!この学校にいられなくなるから!」
「嘘、だよなぁ……」
くだらねぇ。
カメラに見つかるだけでそんなこと有り得ねぇっつの。
証明してやる。
俺はわざとカメラの写る位置に動き、笑ってピースして見せた。
宮野の奴、これで何もなけりゃ高本の分まで謝らせてやる。
俺は勝った気になって、踵を返した。
校長室から呼び出しを受けたのは、次の日の昼休みだった。