表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スーパープレイヤー

作者: 木村太郎

7月。夏の暑さがピークに達する時期、とある中学校で映画研究部が学園祭で発表する映画の製作にはげんでいた。

この映画研究部の部長“黒川哲二”が今回製作する映画は、不良達が戦うアクション映画となっている。

主演は新入部員の“青木輝男”と“花山桃香”。

二人とも身内が映画関係者という接点がある。


放課後、この日のロケ地は学校の中庭。主人公とヒロインが会話をするというシーンの撮影だ。

通行人のエキストラも交わって撮影は行われる。

「よ〜い!スタート」

黒川の合図で撮影が始まった。

「何よ、急に呼び出して」

「実は君に話があるんだ」

「話って何?まさか、別れようって事」

「実は……、そうなんだ」

主人公とヒロインの会話が進むなか、

「カットー」

演技中、いきなり黒川が大声を出した。

役者二人もその原因にすぐ気付いた。

一人のエキストラが立ち止まって二人の会話を聞いていたのだ。

「こら白石、なに興味津々で聞いているんだよ」

「ごめん。つい夢中で聞いちゃった」

このエキストラは“白石純平”。

黒川と同様に1年の頃から映画研究部に属し続けている。

演技力は好評だが、役に入りすぎると暴走する癖があり、これには歴代の映画研究部の部長達は悩まされていたのだ。

白石は脇役という役柄に誇りを持っているらしく、主演を志望したことは今までなかった。

しかし、白石が起こすハプニングを迷惑がるものが入れば、それをおもしろがるものもいた。それを見た黒川からは映画の妨げにならない程度という条件が出されていたのだ。

「さすがに今のはやりすぎだぞ。おかげで撮り直しになっちゃったじゃないか」

「そこの加減って難しいね」

「あれは明らかにやりすぎだろ。エキストラが主演より目立とうとするな」

すると主人公とヒロインを演じていた、輝男と桃香がクスクス笑った。

「だって二人の絡み合いが面白いって聞いたので、どんなものかと思ったら聞いたまんまでしたから」

笑いを隠せない輝男に対し、

「今の二人のやり取りをそのまま映画に入れてほしかったですもの」

桃香は大爆笑だった。

そんな二人を見た黒川はメガホン片手に溜息をついた後、暑さで部員達の体力が限界だと気付くと部員達に指示を出した。

「みんなお疲れ、今日はここまでにしよう。明日は学校近くの公園で撮影を行う。それまでに機材のチェックや台本の読み直しをやっておくように」

こうしてその日の撮影は終了した。

家に帰った輝男は明日のアクションシーンに備えて、台本を読み返していた。

明日は重要なシーン、自分がメインなので誰よりいい演技をすると心に誓った。

「明日は絶対に成功させるぞ」

同時刻、桃香は明日の撮影が成功することを天に祈っていた。

「いい映画になりますように」


翌日の放課後、撮影が再開された。

この日は休日のため、午前中から撮影が始まる。

部員達は黒川に言われた通りに学校近くの公園に集まった。

撮影前、黒川は部員を集めてミーティングを行った。

「えぇっ〜と、今日は主人公と不良達が戦うシーンだ。主人公は一人で不良達をなぎ倒すんだったね」

輝男は映画の見せ場であるアクションシーンを控え、緊張気味だった。

「まぁ、そんなに堅くなるな。お手柔らかにやれば、上手く行くって」

白石が長いパイプのような棒を片手に輝男に寄ってかかってきた。

輝男はゾクッとした。一瞬、本当にその棒で殴られるのではないかと思ったのだ。

映画の演出ならともかく、演出で無いならそれはそれで怖くなるのだ。

「後で本当に殴るけど」

「そんな事を爽やかに言わないでくださいよ。」

輝男は白石にビビらされまくりだった。

「ねぇ、白石先輩。前から気になってたんですが…」

桃香が割って出てきた。

「白石先輩はどうして主役をやりたがらないんですか」

その問いに白石はこう答えた。

「俺はヒーロー役が苦手なんだ。 なんか目立ちすがて照れ臭くなっちゃうし。だから脇役をやっているほうが、自分らしくいられると思うんだ」

輝男と桃香は滅多に真面目な顔を見せない白石の意外な一面を見た。

すると、黒川が三人を呼んだ。

「三人共、そろそろ撮影が始まるぞ」

「監督がお呼びだ。じゃあ、行こうか」

「「はいっ」」

白石の言葉に二人は大きな声で返事をした。

黒川が監督で進行した映画撮影もいよいよ大詰めに入った。

主人公とその仲間達が敵の不良達と決戦を行うクライマックスシーンの撮影だ。

武器を手にした敵役が大勢で襲いかかるのを、主人公と仲間達がなぎ倒していくというシナリオだ。

映画の一番の見せ場となるシーンだけに、役者だけではなくスタッフにも緊張がはしった。

黒川も緊張を押しのけメガホンを取った。

「よーい!アークショーン」

合図と同時に決戦がはじまった。

主人公の仲間と敵が交わり合うなか、輝男は白石と相見えることとなった。

白石は新入部員の初舞台ということで、特別に不良のボスという黒川からのオファーを受け入れていた。

互いに棒状の武器をぶつけ合いあっていたが、次第に輝男が劣勢になってきた。

(やはりこの人、名優だ。動きに余韻がない)

そう考えながらも、輝男はなんとか逆転しようと武器をがむしゃらに動かした。

それを防いでいた白石が一瞬バランスを崩したところを、一気に攻めたおした。

仲間達が次々に倒れる中、二人は互角の勝負を続けていた。

二人とも汗で服がビショビショだったが、そんな事に構わず戦いを続けていた。

勝負は実力では白石が上手だった。

輝男はまた劣勢になろうとしていた。

「もらったー」

白石はそういって武器を真っ直ぐに振り下ろそうとしていた。

輝男はそれを防いだ。

次の瞬間、白石は身体に衝撃を感じた。

輝男の武器が白石の左腰辺りに当たっていたのだ。

輝男は武器ではなく、なんと左腕で防いでいたのだ。

「見事…だぜ」

白石はそう言いながらたおれた。


「カット!OK」

黒川の声と共に倒れていた役者全員が起き上がった。

左腕をさする輝男に白石が近寄った。

「いいガッツ見せてもらっぜ。俺の攻撃を腕で防ぐとはね、君なら名優になれるかもしれない」

「いや、僕はこれが初舞台。まだまだやるべきことがありますよ。僕こそ、白石さんの本気を間近で見られて光栄です」

二人が互いの演技を称え合っていると桃香がやってきた。

「二人とも凄かった。輝男君、左腕大丈夫?すごい無茶してたね。後で冷やそう」

「そうだね。」

この後の夕方での主人公とヒロインが互いに愛し合うラストシーンも撮影が終わり、映画撮影はついにクランクアップを迎えた。


部員達が心を一つにしたからこそ完成できた渾身の映画を学校中に見てもらうことを部員達は待ち遠しくしていた。


どうも木村太郎です。「小説家になろう」に登録して最初の作品となります。

短編ですがそこそこの出来栄えになっていると思いますので、ご朗読の方をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ