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パッチワークド・メモリー

「開発者」


私室のスクリーンに呼びかける。すぐにあの開発者がスクリーンに現れる。


「なんで、その一言で僕が呼び出されるのかな? 」


「コンピュータがそう学習したんだろうさ」


50億年という永さを我々は耐えられるのかと疑問をぶつける。


「先日は艦橋だったら言わなかったが。当然、無理だよ。事故も起こるだろう。君の体はデザインされたものだが、だからといってその体をつぎはぎにしていっても、もつわけがない」


「人間とは違うだろうが、この船も世代船なんだな」


「そうしたければね」


この船は、我々であれば世代船にもできるだろう。


「だが、世代船にすると、遠くない将来にこの船にはSingularityと、Ascended―― —いずれは君達もそうなるだろうが―― だけになる。あるいは、Singularity達に誰も頭が上がらなくなるかもしれない。それでも構わないだろうが、多様性は確保しておきたいな。だとしても記憶は計算機に依存するようになるだろうけどね」


「すると、Ascendし、新しい体にダウンロードするのか? だが、ダウンロードするまでの短い時間とはいえ、エイリアス問題が発生しないか?」


開発者が自分のペットのフェレットを二匹呼び出す。一匹は銀色が濃く、もう一匹はほとんど白い。


「まずこっち側――ポゴっていうんだけどね――を コピーしよう」


彼は銀色が濃い方の一匹を持ち上げた。するといつの間にか彼は二匹を抱えていた。


「この片方をあっち――パゴっていうんだけどね――の方に放してやろう」


開発者が抱えていた一匹をもう一匹の方に放り投げた。二匹はすぐさまじゃれ始めた。


「さて、これでポゴは同時に存在している。これを統合したら、君の言うエイリアス問題が起きる」


開発者は、何が起こるのかを知っているように思える。


「さて、では二匹のポゴを一匹に統合してみよう」


じゃれていた一匹が消え、開発者が抱えている一匹になる。少し呆けているようにも見える。だが、すぐに開発者の腕から逃げ出そうともがき始める。


「今の場合、じゃれていた方の記憶、あるいは感覚が優位になったようだ。問題は、記憶がある程度ひとまとまりになっている、あるいはそのように任意の視点から組み替えられることだ。実のところ、複数の記憶や、記憶がどこにあるのかは問題ではない。とは言っても脳に記憶についての何らかの回路があるかどうかは大きな違いになるがね」


開発者がフェレットを離すと、すぐにもう一匹の方に走りだした。


「開発者、あんたはこの程度以上のことを知っているな?」


「1年程度のものだから、これから先にどれくらい役立つかはわからないがね」


「統合後に異常は?」


「ないようだね」


開発者が二匹のフェレットを捕まえて抱えた。


「地球を出て数年。にも関わらず、『ないようだ』という言い方をするということは、今も経過観察中のように聞こえるが?」


「そう言いたければそうだ」


「この船には人間は乗っていない。となればデザインの誰かか? それは知っておく必要があるように思うが」


「いや、デザインじゃない」


開発者はフェレットをカメラに――いや仮想的なカメラに――近づける。フェレットにもカメラが見えているのだろうか? 鼻をつきだしたりしている。


「私だよ」


「あんたはAscendedだろ」


「一度Ascendされた後、オリジナルに統合した。その後、この船に乗るために改めてAscendされた。統合中も大した副作用は出なかったな」


開発者は二匹のフェレットを撫ではじめた。


「それに、君が僕をよく呼び出すものだから、誰かが僕を呼び出したらプロセスをコピーして出せるようにしている。僕もコピーだよ。僕もこの後、統合される。これまで何回かやっていたけれど、問題はないな」


疑問が思い浮かぶ。


「あんたは、今、何人いるんだ? コピーのあんたを除いて」


「オリジナル、最初のAscended、そして私。私が知っているのはその3人だ。私達が出発した後にどうなっているのかは知らないが」


「なぁ、例えば1000年後に地球に立ち寄ったとする。その頃にはあんたのオリジナルも改めてAscendされているかもしれない。あるいは長命化してまだ生きているかもしれない。そうしたら、いったいどれがあんたのオリジナルなんだ?」


「全部別物でいいんじゃないかな。そういう機会があれば、統合して再度Ascendしてもらうのもいいと思う。そうなったら面白いかもしれないな。そういうのを嫌がるヒトがいるのも知っているけど」


知らない自分との統合、そして分離。気味が悪くはないのだろうか?


「その顔は知っているぞ。もしかしたら、そこにこだわりがないのが重要な条件かもしれないな。いずれ必要になることだから、そこは検討中だよ」


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