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お金関係は後々変更になる可能性があります。深く考えないようお願いします。
◆ ◆ ◆
「見えて、来ました」
主に腹ペコ的な意味で疲労困憊な私の目には人の営みが確かに確認できる光景が映し出されていました。町、そう町が見えてきたのです。
謎の美少女集団と出会ってから体感時間で一時間ほど経ったでしょうか。漸くたくさんの人の気配を感じることができ、そこへ向った結果こうして町を視界に収める距離まで近づくことができました。
歓喜のあまり目が潤んで視界が悪くはありますが早速町へと向いましょう。……と言いたいところなのですがここである問題が発生しました。
「そういえば身分を証明するものがないのでした」
町の入り口には関所が設けられており門番? と思われる人が二人ほどいて町へと出入りする人たちを取り締まっていたのです。ここがもし村であったのなら身分証の心配はいらなかったのでしょう。しかし、ここは町で実際に門番がいるのですから異世界人である私は恐らく進入できないはずです。当然、学生証じゃ駄目ですよね。
「さて、どうしましょうか? はぁ」
折角町まで到達したというのにまさか、いや頭の片隅では浮かんでいたのですがこんな落とし穴があるとは思いませんでした。本当にどうしましょう?
一つ、素知らぬ顔で素通りする。……引き止められますよね、絶対。
一つ、門番に賄賂を贈る。……そのお金がないから困っているのではないですか。小説のテンプレでは身分証を作るのにお金がかかるのが殆どですし。稀に貸してくれたりもしますが……保留ですかね。賄賂の方ではなく貸してもらう案ですからね。
一つ、色仕掛けする。……いくら身体が女になったとしてもこんな容姿では成功しないでしょう。……彼らはロリコンではないですよね? そうですよね。
「後は強行突破するくらいしか……」
「あんさん、可愛い顔して一人で何物騒なこと言うてるんや」
「……え?」
あぁでもこうでもないと考えていると声を掛けられ思わず気の抜けた声が漏れてしまいます。途端に恥ずかしくなり慌てて声のした方へと振り向くとそこには前方に二つの膨らみがある帽子を被った二十代前半くらいの女性がいました。
彼女を一目見た瞬間、私は石像のように動けなくなりました。今の私に仮にタイトルを付けるとしたら『見惚れる美少女』ですかね。……自分で美少女と言うのは少し過大評価かもしれませんけど。
「どうしたんや? あんま見詰められると照れるやないか」
おどけたような口調の女性の声で漸く意識を取り戻し、少しでも情報を得るためにも改めて彼女を観察します。腰まで伸ばした黒い髪にルビーのように綺麗な赤い瞳。褐色の肌は健康的で釣り上がった目は活発な印象を与え、どこか聞いたことのある喋り方と合わせて押しの強そうな感じがします。
因みに胸部装甲は巨大、いえ強大だったりします。
……って何の役に立つ情報ですか、これは!
美人という言葉が相応しい女性にいつまでも心奪われ呆けている場合ではありませんし、外見上は照れた様子の彼女に慌てて言い訳をします。
「……あっ、えっと、その、すっすみません。あまりに綺麗だったもので、つい」
「そうなん? まぁ、お世辞でも嬉しいわ。ありがとさん」
「い、いえ」
慣れない美人のウインクにたじろぐと彼女はチェシャ猫のようににやにやと笑い出しました。まるで面白い獲物を見つけてどう甚振ってやろうか考えているかのようで、無意識のうちに背筋がヒヤッとします。私食べられたりしませんよね?
「にしし。で、あんさん。こないな所で一人離れて一体何をしてはったんや?」
「えっと、その……」
彼女の鋭い指摘に言葉が詰まります。確かに今の私の行動は傍から見れば怪しいと言えるでしょう。町にも入らず隠れて遠くから眺めているなんて明らかに不審者の行動だと改めて自分でも思います。ただ、そのことについて彼女に言い訳するにも、私が異世界人で身分証もお金もないためどうやって侵入するか考えていたとは言えないのです。……まぁ、彼女が私にとっての味方であると判明するまでは、と最後に付きますけどね。
よし、彼女を味方に引き入れましょう。
瞬時に考えを纏めると私は自分の人を見る目を信じて出来る限り全ての事情を話すことにしました。それに私の直感も悪いものを感じ取っていないということもあります。
「という訳でかくかくしかじかなのです」
「えっと、うまうま? って伝わるかい、ボケっ!」
「いたっ!?」
どこからともなく現れたハリセンのツッコミを頭に喰らい、予想以上の痛みにうずくまり頭を押さえます。
うぅ~、痛いです。これってもしかしてHP減っているのではないですか。……って本当に減っていますし。1だけですけど。
思わぬところで初ダメージを喰らい、理不尽な扱いを受けたと抗議の目を彼女へと向けます。その張本人はというと肩を竦め何食わぬ顔でハリセンを肩掛け鞄へと仕舞っていました。……どうやってあの大きさのハリセンを仕舞っているのでしょうか? もしかしてアイテムボックスでしょうか?
『技能を覚えました。
耐痛の守護Lv1』
疑問と技能の取得はさておき、一先ず説明を再開します。簡単にとですがこちらの話が終えると彼女は神妙な面持ちで私を上から下まで見詰め口を開きます。
「へぇ~。あんさん、噂の勇者様やろ」
「いいえ、村人Cです」
彼女の指摘を即座に否定します。誰が好き好んで勇者になるというのですか? 私は元の世界に帰りたいだけで世界を救いたい訳ではないのですよ。……この選択肢がエンドレスだったりしたら詰みですけどどうやら違ったようです。……一先ず安心ですね。
「なんやそれ。……まぁ、ええか。あんさんが何であれ、うちは気に入ったのやからどうでもいいことやし」
「気に入ったって、唐突ですね」
「そうでもないで。うちのこの魔眼があんさんが悪い娘やないってことを教えてくれたし」
「魔眼、ですか?」
あぁ中二病患者でしたか、と一瞬失礼な考えが頭を過ぎりましたがここは異世界だったと思い直し、宝石のように綺麗な自称魔眼を改めて確認してみます。
これが魔眼、ですか?
一見普通の目に見えますが実際は自称魔眼と言うのですから胡散臭く感じてもおかしくないでしょう。あちらでどれほどの中二病患者たちが同じことを言っていたことやら。
本来なら即座に嘘ですっ! と言うところですがここは異世界です。魔眼が当たり前に存在するのかは分りませんが、彼女の言葉が嘘だとは思えませんし本当の話なのでしょう。魔眼については話からして悪意を感じ取るとかそんな感じの効果でしょうし、技能の直感なども反応していないことから特に害はないと思います。要するに彼女を警戒する必要はないということですね。
何はともあれ胡乱気な視線を外し敵対関係にならずに済んだとほっとし安堵のため息を吐きます。魔眼さまさまですね。
「そういえば自己紹介がまだやったな。うちは巷で有名なさすらいの行商人。神出鬼没のスカートさんとはうちのことや!」
「えっ、ストーカーさん?」
「スカートやっちゅうに!」
「いたっ」
パシーンと小気味よい音が鳴り響き再びHPが減少します。大して痛くもないはずなのに瞳から溢れてくる涙を拭い、異世界で初めて友好的な関係になれたスカートさんに私はとびっきりの笑顔で名乗り返します。
「痛いじゃないですか、もう。私の名前は……マオって言います。これからよろしくお願いしますね、スカートさん」
「っ!? よ、よろしゅうな、マオはん」
褐色の肌をほんのりと赤く染めそっぽを向いて返事をする照れた様子のスカートさんが可笑しくて、私はこの世界に来て初めて良い意味で微笑むのでした。……心に多少の罪悪感という名のしこりを残して。
◆ ◆ ◆
自己紹介を終えた後、昼食にするということで私もご一緒することになりました。因みに未だに町には入っておらず、昼食は町の中ではなくて出来合いのものを外で食べるそうです。
「へぇ~、そうなんですか」
現在、世間知らずな私は食事の合間を縫って一般常識をスカートさんから教わっていました。私の頼みを快く受けてくれたスカートさんは商人ということもあって話し上手な上、知識が豊富なため色々なことについて話してくれました。質問にもしっかりと答えてくれましたし嫗の知恵袋みたいです。……それを伝えるとツッコまれましたけどね。その後、微妙な顔をしていたスカートさんが何故か強く印象に残っています。すみませんでした。
閑話休題。スカートさんの話にはここの町についての情報もありました。ここの町はヤマト王国にあるアルフェンという町で特に特徴もなく王都に比べるとこじんまりとしているそうです。まぁ、特筆するべきことはたったこれだけですけどね。
それよりも重要なのはヤマト王国で、嘗て魔王を討伐した勇者が建国した国であり、神が降りたと云われているスカイフォール大陸の中で一番大きな国だそうです。ヤマト王国の他にも多様な種族が集まった亜人国や、魔族の生き残りが暮らす真魔国という国が存在するとのことですがあまり交流はないらしいです。どうやら仲があまり良くないのでしょう。
因みにスカートさんは真魔国の出身で魔族と呼ばれる種族なのだと苦笑混じりに話してくれました。よく分りませんが嘗て魔族は魔王と共に世界を敵に回した経緯があるとのことなので、その影響から魔族はあまり良い扱いをされていないのでしょう。
それにしても昔のこととはいえ魔王がいたのですね。……勇者と魔王って伝説というか御伽噺のようなものみたいですし大丈夫だとは思いますが、特殊な力を持っている身としては変に勘違いされないように気をつけないといけませんね。気を引き締めないと。
「でも、世間知らずな私からしたら種族は関係ありませんけどね。スカートさんは良い人で美人ですし」
「全く、褒めてもなんも出えへんで。……ありがとな」
照れたスカートさんのボソッと言った呟きは鈍感系主人公ではありませんが聞こえない振りをしてあげます。これ以上からかうと流石にスカートさんが可哀想なので。肌の色が真っ赤になったら大変ですからね。あれ、異世界ならありなのでしょうか?
暫く他愛のないことを話しながら食事を続けました。そして食事が終える頃にはすっかり仲良くなった私たちは揃ってごちそうさまをします。……こちらにもあったのですね、ごちそうさま。
細かいことが気に掛かりましたが一先ずお腹が膨れ満足です。ご馳走してくれたスカートさんには感謝しかありません。どうにかお礼できないでしょうか?
「さて。うちはこれから商売に出掛けないかんのやけど、マオはんはどないするんや?」
「私は一先ずアルフェンの町で暮らそうと思います」
「そか。じゃあ、ここでお別れやね」
「はい、……そうですね。その、色々とありがとうございました」
「かまへん、かまへん。貴重な体験ができたしお互い様やで。にししっ」
彼女の言葉に自然と頬が赤く染まります。思わぬ攻撃にジト目を向け抗議の視線を送ります。というかあれはスカートさんが勝手にやったのではないですか。
「まぁまぁ、堪忍してや。うちが悪かったって、この通り」
「……もう」
頭を下げ土下座する勢いのスカートさんに逆に申し訳なくなり、外観は不貞腐れつつも許してあげることにします。そんなこんなでお別れの時間が近づいてきました。私は先程から思考の片隅で考えていたお礼を実行します。
「スカートさん、これ受け取ってください」
「なんや? ってこれは!?」
「つまらないものですがお礼です。スカートさんには色々とお世話になりましたから。それ私の国の硬貨なのですけど記念に受け取ってください」
驚愕した表情を見せるスカートさんは私の顔を改めてじっと見ると大きなため息を吐いた。……私何かしましたか?
「はぁ~。つまらないものってマオはん、これ1イェン硬貨やないか」
「1円硬貨を知っているのですか!?」
意外な返答が帰ってきてつい詰め寄ります。後ずさり顔を引きつらせながらもスカートさんは訂正します。
「マオはんの国ではどうかは知らへんけど、ここでは1円硬貨やなくて1イェン硬貨や。これ一枚で1万イェンはするはずやで」
「え?」
1イェン硬貨なのに1万イェンもするのですか!? というか意外なことに価値があったのですね。ということは私以外にも異世界から来た人がいた、或いはいるということなのでしょうか。初代勇者も日本人のようですし意外と捜せば出会えるかもしれませんね。思わぬところで希望がわいてきました。
因みにイェンというのはお金の単位で20イェンもあればそれなりに満足な食事ができるらしいです。一般的な宿に泊まるのに100イェンあれば十分とのことですし……私って意外とお金持ちだったりしますか? それにもしかして普通に町に入れたのでは?
暫く呆けているともう一度大きなため息の音が聞こえ思考を止め現実へと戻ります。なんだか私を見るスカートさんの視線が痛いです。これって威圧じゃないのですか。耐性、効果薄いです。何やってるのですか!
「はぁ。マオはんやもんな」
「むぅ」
「何はともあれ、これはどないしようか」
困った様子でスカートさんが尋ねてきます。私としてはそのまま受けとって欲しいのですがその価値が高価なだけに受け取りづらいのでしょう。
「では私の依頼を受けてくださった依頼料とお礼ということにしてください。貴重な話も聞けましたし私は問題ありませんよ」
「う~ん。まぁ、マオはんがそういうのなら受け取るのやけどな。……せや、マオはん今手持ちの小銭があらへんよな。身分証も作れないほど文無しな放浪少女やし」
「まぁ、はい。……最後の言葉は気に食いませんが」
「ほんとのことやしな、にっしっし。じゃあ、おつりを返すから受け取ってや。これから何かと入用やろ?」
微かに抱いた怒りを抑えスカートさんの提案に頭を捻ります。確かに日本の硬貨はたくさん持っていますがこちらのお金を正直言って持っていません。例えれば金塊を持ち歩いているけど現金は持っていないみたいなものです。……こう考えてみると厄介事に巻き込まれそうですね。
ここは妥協して彼女の厚意を受けたほうがいいのでしょう。申し訳ない気もしますがここは甘えてまた次に会ったときに恩返しをするということにして無理にでも納得します。
「分りました。何かとありがとうございます」
「マオはんとうちの仲やろ。かまへんって」
恐縮しつつも早速、スカートさんから教わった理魔法――魔力があれば誰にでも使えるテンプレで言うところの生活魔法――でマジックカードを取り出し彼女のマジックカードからお金を移してもらいます。これで残高が0イェンから9000イェンになりました。え、多くないですか?
「これでも減らしたほうなんやで。うちの身体はそんなに安くないしな。にししっ」
「っ」
耳元で囁かれた言葉で理魔法を教わったときのことを思い出し無意識に顔が赤くなります。いくら魔力の流れを感じ取る必要があるからって密着することはないと思います。……わがままボディは反則です。
「にしし、赤くなっちゃって可愛えなぁ。せや、あとこれもオマケや」
続けてスカートさんが肩掛け鞄から取り出したのは、ファンタジー小説の魔法使いが羽織るような黒いクロークでした。それを彼女は一度広げてみせると私に手渡します。
「えっと、これって」
「あんさんのその格好は目立つからなぁ。大して価値のないものやけど折角やからもらってぇな」
スカートさんに指摘され改めて自分の格好を確認します。確かに彼女の言う通り私の格好は異世界の街中では目立つかもしれません。私の考えでは最新のファッションと言うか東方の国の流行の服装と言って誤魔化そうと思っていたのですが。流石に無理がありますかね。
ですから恩を受けっぱなしで申し訳なくなりつつも厚意をありがたく受け取ることにします。実はこういう格好に憧れもありましたしいい機会かもしれません。早速貰ったクロークを装備してみます。
「ありがとうございます。……どうですか?」
「どういたしまして。似合ってるで」
「本当ですか! 実はこういう服装は憧れだったので嬉しいです」
「そか、良かったなぁ」
似合っていると言われ多少照れくさくはありますが嬉しさで顔が緩みます。やはり、男のロマンはいいですね。……え、元男の娘で現女の子ですが何か?
そんな様子を慈愛に満ちた目、あっ魔眼で微笑ましく見詰めるスカートさんは咳払いをして話を元に戻す。
「……さて、それじゃあそろそろうちは行くとするわ。元気でな、マオはん」
「はい、スカートさんもお元気で。また会いましょう」
軽やかに去っていくスカートさんに声をかけ彼女の旅立ちを見送ります。また彼女と会える日を楽しみにしながら。
彼女の姿が見えなくなると気持ちを入れ替え、私も早速町へと向います。その足取りは軽く直ぐに町の入り口へと到達するのでした。
さて、関所を攻略するとしますか。
あとがき
名前 只野真央
レベル 1
職業 学生
HP 100/100(0)
MP 50/50(0)
攻撃力 2(0)
防御力 4(2)
知力 1(0)
精神力 1(0)
素早さ 3(0)
運 1(0)
BP 0/10
称号
異世界人、楽する者、
技能
システムメニュー、闘魂注入Lv1、身軽Lv4、受身Lv1、剣術Lv1、気配遮断Lv4、気配察知Lv5、咆哮Lv1、音撃Lv1、閃駆Lv1、高跳躍Lv1、闘術Lv1、投擲Lv1、採取Lv1、鑑定Lv1、鑑定眼Lv1、探索Lv1、索敵Lv1、直感Lv1、危機感知Lv1、予知Lv1、耐硬の守護Lv5、耐恐の守護Lv5、威圧Lv5、耐混の守護Lv1、耐光の守護Lv4、光魔法Lv4、耐痛の守護Lv1、魔導回路Lv1、理魔法
SP 0/10
装備
武器
右 木の枝
種類 片手剣
攻撃力+0
左 なし
防具
頭 なし
体 異世界の服
防御力+0
魔修繕のクローク
防御力+2
自動修繕
足 異世界の靴
防御力+0
装飾
足 異世界のニーソックス
防御力+0、魅力+2
真央「魔導回路って何ですか?」
スカート「詳しくは本編で紹介するらしいんやけど、簡単に言うと魔法を使うのに必要なものなんやで」
真央「へぇ~」
スカート「ただし、マオはんみたいな人族には本来なら備わっておらんのやけどな」
真央「えっと、……先祖返りですかね? は、はは」
スカート「ふ~ん。因みにうちら魔族だけが生まれつき備わっているんやで(ジ~ッ)」
真央「ははは。人類? 皆兄弟ってことですよ、きっと(冷や汗)」
真央、魔族の血筋疑惑が浮上中。やっぱり魔王? いいえ、イージーモードのお陰です。