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魔王な勇者~勘違いから始まる魔王たん~  作者: 大野かな恵
第0譚 魔王な勇者~ある日、森の中、勘違いに出会った~
4/15

◆ ◆ ◆






 設定の画面を凝視しながら硬直すること数十秒が経ち漸く落ち着きを取り戻した頃、私はその言葉の意味を吟味していました。


「難易度とはまた……ゲームみたいですね。いや、私としてはありがたいのですが」


 この世界が異世界だろうとゲームの世界だろうと現実とは異なり危険があることは確かなので喜ばしいことには違いありません。ただ、このチートの数々を持っている私は何者かということになりますが。


 ……やっぱり私は勇者なのでしょうか?


「殺したり殺されたりするのは……できれば勘弁してもらいたいですね」


 嫌な想像が頭を過ぎり不意に視線を頭上へと向けます。一面に広がる青空は地球にいた頃と同じく澄んだ青色をしていてここが異世界だということを一瞬でも忘れさせてくれました。けれども、ここは恐らく地球の日本ではないのでしょう。


 日本にいた頃に当たり前だった常識はここでは通じないはずです。もしかしたら戦争や殺し合いが当たり前な世界かもしれませんし、命の価値が著しく低い世界なのかもしれません。奴隷がいて、魔物がいて、或いは魔王がいるとしてもおかしくはないでしょう。


 そうしたとき、私はどうすればいいのでしょうか? 日本にいたときのように平和主義を貫き元の世界へと帰る方法を探せばいいのでしょうか? それともこの世界で何かを成すためにこの世界に染まりながら奔走すればいいのでしょうか?


「分りません。でも……」


 大切なのは私の気持ちでありどうすればいいではなくてどうしたいかを自らに問いかけてみます。私は……元の世界に帰りたい。大切な家族の元へ。私の好きな家族の元へ。


「なんにせよ、帰る手段がないのですから覚悟を決める必要がありそうですね」


 目的を成すための覚悟……たとえどんな手段を使ってでも帰る覚悟を私は持つ必要があります。誰かを犠牲にしてでも、とは流石に言いませんがそれくらいの覚悟が必要になるでしょう。


「だから……使えるものは全て……利用します。たとえ、チートと言われようと……私は」


 『帰りたい』。その一心から自然と虚空へと伸びた手が画面に触れます。


『難易度

  イージー

   

 ○ノーマル(標準)

   

  ハード

   

  スーパーウルトラスペシャルベリールナティックハード』


 表示された項目のイージーを迷うことなくタッチします。これで難易度がイージー、つまり私に有利になったはずです。……何が変わったのかは分りませんが。


「……はぁ。一先ずこれで全てのシステムの確認を終えましたが、これからどうしましょう」


 取り敢えず憂いを断てたことで大きく一息つき気持ちを入れ替えるとこれからの指標について思案します。


 大目標は元の世界へと帰ることです。そのために大きな町に行って情報収集をする必要がありますね。もし勇者召喚ならお城に行けば何か分るかもしれませんし。まぁ、その場合トラブルも付きまといそうですし慎重にならざるを得ませんが。


 中目標はレベルアップでしょうか? 元の世界に帰る前に死ぬわけにはいきませんし、何をするのでも力が必要になるはずです。また、単純な力だけではなくお金や権力といった力も必要になるかもしれませんが、これもレベルアップしていけば何れは手に入るような気がします。例えばギルドなどですね。仮にギルドなどがあればそこに登録することも視野に入れておきましょう。


 小目標は異世界を楽しむことですかね。折角異世界に来たのですから楽しまないと損ですし。……あまり考えたくはありませんが万が一帰れない可能性もありますので、この世界に愛着を抱くことは悪いことではないでしょう。愛着が湧きすぎて帰りたくなくなったらそれはそれでいいですし、帰れなくなってから絶望するよりは健全だと思います。


「さて、こうして目標も決まったことですし、さっさとこの森を抜けて人のいる場所に行きたいですね」


 目標も決まって多少でも前向きになれたことですし早速行動を開始しましょう。頬をパンッと勢いよく叩き気合を入れると木を降り始めます。


「よっ、ほっ、とうっ」


『技能を覚えました。

  闘魂注入Lv1

  身軽Lv1

  受身Lv1』


「……はい?」


 木の半ばくらいから勢いよく飛び降りたところでピロリーンという謎の効果音が聞こえると、頭というよりも目の前? に技能を覚えましたというメッセージが浮かび上がりました。……えぇ~。


 何故このタイミングなのかや効果音がショボイやら言いたいことは多々ありますが、取り敢えずシステムで技能を確認します。どうやら先程のメッセージに間違いはないようで、先程までなかったはずの技能が確かに増えていました。SPも減っていないことから新規に覚えたということなのでしょう。


「これは……難易度の恩恵ですかね?」


 画面を凝視し暫く思考した結果、この現象は難易度をイージーにしたことが関係しているのではという推測が立ちました。その根拠は最初に木を登ったときと降りたときの違いで原因となりそうなのがそれしかないからです。


 これまでに私が変更したのはステータスの増加と装備の変更、そして難易度の変更だけです。したがって、やはり怪しいのは難易度ということになります。


「ふむ。えぃ!」


 試しに木の棒で素振りをしてみます。これはステータスを変化させてからもしたことですから、もしこれで何かの技能を覚えることがあれば難易度の影響ということになります。


『技能を覚えました。

  剣術Lv1』


 ピロリーンという効果音と共に頭に浮かぶメッセージから予想が当たったことを確認します。それにしても軽く素振りしただけで剣術ですか。……他にも色々と覚えられそうですね。レベルアップも大切ですがある程度技能がないと戦闘経験のない私は苦労しそうですし、技能の取得を先にしたほうがいいかもしれません。


 そうと決まれば早速色々と試してみましょう。例えば周囲に自分を馴染ませ溶け込むようなイメージで気配を断ちます。気分は忍者、くのいちです。


『技能を覚えました。

  気配遮断Lv1』


 どうやら成功したようです。しかし、こうも簡単に取得できるとなんだか楽しくなってきました。では、どんどん参りましょう。


 先程は気配を消しましたが今度は周囲の気配を探ってみます。音、匂い、視界、肌に触れる空気、あらゆる感覚を駆使して気配を探ろうとします。


『技能を覚えました。

  気配察知Lv1』


 これも成功しました。では次は助けを呼ぶために叫んでみましょう。もしかしたら救難時の技能とかがあるかもしれません。唯一心配なのは声に気づいた魔物などの危険が迫ってくることですが、気配遮断と気配察知のレベルを上げることで対処することにします。


 すぐさま気配遮断をレベル4、気配察知を最大レベルの5まで上げます。因みに気配遮断のレベルが4なのは気配が無さ過ぎても怪しいと思ってのことです。これも小説情報だったりします。


 準備も整ったことですしそれでは早速助けを求めてみましょう。


「すぅ~、誰かいませんか! 助けてください!」


 深呼吸によって威力を増した声が森に轟きます。その声に驚いたのか周囲にいた鳥が飛び立つのが視界に映ります。なんだか驚かせてしまい申し訳なくなりました。


『技能を覚えました。

  咆哮Lv1

  音撃Lv1』


 目的の技能は取得できなかったようですが異なる技能を覚えることには一応成功したようです。技能を開いて確認してみるとどうやら咆哮は自分よりレベルの低いものを怯ませる効果みたいです。音撃は言葉通りで音を利用して相手に攻撃するようです。衝撃波みたいなものでしょうか? でもそれだと風魔法になるのですかね。要検証です。


 その後も色々なことを試しながら気配察知と新たに覚えた探索――マップみたいなもの――を合わせた索敵――生物の位置が頭に浮かび上がるようになる技能――を頼りに人の気配を探して回ります。


 しかし、暫く歩いても人っ子一人見当たりません。異世界に来てからぼっちを味わい続け精神が疲弊していますし、そろそろ独り言で気を紛らわすのも限界なのですが。どうしましょう?


 はぁ、誰でもいいので誰かいませんかね。


「ん?」


 そう思ったとき、レベルの低い索敵よりも先にSPでレベルを最大の5まで上げた気配察知に引っかかるものがありました。気配の感じからしてどうやら人のようです。


 異世界に来て初めて会う人に興奮しつつも逸る気持ちを抑え急いで気配を感じた場所へと向います。一人五十メートル走をして覚えた閃駆――ダッシュみたいなもの――を駆使すると直ぐにその場所へと辿りつきました。


 そこには二十代半ばくらいのザ・村人という感じのする女性がいました。……村人Cの私が言うのもあれですが。


 やっと人と会話できると感激しつつ潤む瞳を拭い早速声をかけてみます。言葉が通じない可能性もありますがシステムメニューにあった言語が日本語になっていましたし恐らく大丈夫でしょう。異世界ものなら翻訳魔法とか自然に掛かっていそうですしね。


「すみません」


「っ!? えっと、女の子? こんな森の中でどうしたの? もしかして迷子かな?」


「いえ、その色々と事情がありまして……」


 女性は森の中で私が一人でいたことを不思議に思っているようで何だか視線が痛いです。私の容姿は小柄で加えて日本人は童顔なので若く、もしくは幼く見えるのでしょう。こう見えて私は高校生なのですから子供扱いは少し傷つきます。


 あっ、そういえば自己紹介がまだでした。こういうときは第一印象が大事ですし、しっかりしないといけませんね。もしかしたらテンプレでいう最初に出会うハーレム要因の一人かもしれませんし。……今の私は女でした。


 うな垂れそうになるのを堪え改めて姿勢を正し何故か最初からずっと腰に手を当てている女性へと向かい合わせになるように移動します。そんな私の様子を眉間にシワを寄せて凝視する女性の視線は無視して私は名乗りを上げます。


「私は只野真央(ただのまおう)と申します。気がついたらこの森の中にいまして人をこうして捜しているのです」


「ただの……魔王。気がついたら復活していて人を殺して捜している?」


 私が自己紹介をして事情を話すと女性はぶつぶつと呟き顔を青白くしてその場に腰を下ろしてしまいました。どうやら腰を抜かしてしまったようで立ち上がれないようです。何故かは分りませんが。


「大丈夫ですか? 宜しければ手を貸しますよ」


「いやぁーーっ! そうやってわっ私に酷いことするんでしょ、御伽噺みたいに!」


「……はい?」


「やっぱりそうなのね。いゃぁーーーっ! だれか助けてぇーーー!」


 手を貸そうと女性に近づくと何故か叫ばれてしまいました。一心不乱に助けを求める様子に私はどうしたらいいか途方に暮れ困惑してしまいます。この差し出した手の行方はどこに向けたらいいのでしょうか?


「はぁ。……ん? これは人の気配、それも複数?」


 行き場のない手をぷらぷらとさせ大きなため息を吐いていると気配察知の範囲内に複数の人の気配を感知しました。その集団はこちらにもの凄い速さで近づいており、……何やら嫌な予感がします。


 女性の悲鳴と急いで駆けつけようとしている複数の人の気配。……何やら勘違いされそうですね。頭の片隅がもの凄い勢いで警報を鳴らしているのが分ります。


『技能を覚えました。

 直感Lv1

 危機感知Lv1

 予知Lv1』


 っと……これは洒落になりませんね。技能に確定されたとしたらもう逃げ場はなさそうですし腹をくくりましょう。


 流れ落ちる冷や汗を無視して気配の元が現れるのを待ちます。暫くすると馬の走る音が聞こえるほど騒がしくなりすぐそこまで来ているのが分るようになりました。


 覚悟を決め音のするほうに視線を向けます。それと同時に視界に現れたのは、薄暗い森の中でも光輝く金色の長髪にエメラルドのように美しい瞳を持つ少女と、それを護衛するかのように囲む鎧を纏った数人の男性の姿でした。


 あまりの場違いさと少女の現実離れした美しさに呆気に取られ呆けていると、不意に少女の視線が私に向います。宝石のように綺麗な瞳で見詰められ、思わず身体が硬直するも直ぐに元に戻して平然を装います。見惚れていたと思われたくはありませんので。


 暫く見詰め合う少女と私。二人の間に言葉はなくただただ視線を交差させるのでした。




名前 只野真央(ただのまおう)

 レベル 1

 職業  学生

 HP  100/100(0)

 MP  50/50(0)

 攻撃力 2(0)

 防御力 2(0)

 知力  1(0)

 精神力 1(0)

 素早さ 3(0)

 運   1(0)

 BP(ボーナスポイント) 0/10

 称号

  異世界人、楽する者、

 技能

  システムメニュー、闘魂注入Lv1、身軽Lv4、受身Lv1、剣術Lv1、気配遮断Lv4、気配察知Lv5、咆哮Lv1、音撃Lv1、閃駆Lv1、高跳躍Lv1、闘術Lv1、投擲Lv1、採取Lv1、鑑定Lv1、鑑定眼Lv1、探索Lv1、索敵Lv1、直感Lv1、危機感知Lv1、予知Lv1、

SP(スキルポイント) 0/10

装備

  武器 

   右 木の枝

      種類 片手剣

      攻撃力+0 

   左 なし

  防具

   頭 なし

   体 異世界の服

      防御力+0

   足 異世界の靴

      防御力+0

  装飾

   足 異世界のニーソックス

      防御力+0、魅力+2




真央「いつの間にか技能が増えているような気が……」


作者「それはあれだよあれ。書籍化したときに加筆されたり店舗特典用のフリーペーパーに載せたりする話なんだよ」


真央「……書籍化予定は?」


作者「…………(視線を逸らす)」


真央「はぁ。今後に期待ですね」


作者「ということで書籍化のためにも今後ともよろしくお願いします」


 その後、書籍化されることはなかった(涙)


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