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魔王な勇者~勘違いから始まる魔王たん~  作者: 大野かな恵
第0譚 魔王な勇者~ある日、森の中、勘違いに出会った~
2/15

 主人公視点。


※主人公視点はですます調で読み辛いかもしれませんのでご注意ください。

◆ ◆ ◆






 私ってどんな子ですか?


 周りの人に私のことについて聞くと大抵の人はこう言うに違いありません。




『男の娘』と。




 こう呼ばれるようになった経緯は私が産まれたときにまで遡ります。当時、女の子が欲しかった両親は私が産まれたときに母親似な私を見て女の子として育てることにしました。流石に女の子の名前を付けることはしませんでしたが、どちらにも取れる名前を付けられた私はすくすくと成長していきます。そうして薄かった頭髪が耳に掛かるくらいの長さになった頃には傍から見れば私の見た目は完全に女の子のようになっていました。


 時がさらに流れても私の女の子扱いは変わることはなく、今思えば妹が産まれてからは寧ろ一層強くなっていたような気がします。姉妹揃ってスカートを履くのは当たり前で、髪は腰まで伸ばした状態から短くした記憶はありません。


 暫く経ち幼稚園に通うようになってもそれは続きます。先生にはちゃん付けで呼ばれ、私の遊び相手は女の子たちが中心でした。


 その頃好きだった遊びはおままごとで私の役は大抵がお嫁さんでした。……そういえばこの頃から妹の優璃(ゆり)ちゃんが夫を名乗って旦那さんの役をやっていましたね。


 まぁ、それは置いておきその後も女の子としてすくすく成長し遂に小学生になりました。因みに当然ランドセルは可愛らしいピンクです。一目ぼれでした。


 この頃には妹がお姉ちゃんからハニーと呼ぶようになり、学校には何故か私専用のトイレが作られている始末です。当時は不思議に思っても柔軟な頭で受け流していましたが、これほどまでに男の子として見られていなかったのかと思うとなんだか悲しくなります。……ハニーについては未だに謎なのですけどね。


 まぁ、そんな女の子人生を送っていた幼少期の私でしたがある事件を切っ掛けに男の子として扱われるようになりました。


 あれは私が小学校四年生くらいだったと思います。相変わらず女の子していた私ですが、どうゆう因果か当時世間を騒がせていた女児誘拐犯の男性に誘拐という名のアプローチを受けたのです。……えぇ、男児ではなく女児誘拐犯で正しいので間違いではありません。


 男性の話を聞いてみると彼は重度のロリコンであり、誘拐の途中で偶然見かけた私に一目ぼれしたらしいのです。しかし、奥手で紳士を自称する彼は普通に告白する勇気を持てず、苦肉の策として私を家へと誘拐(しょうたい)したそうです。……どう考えても奥手でも紳士でもないですよね。


 それはさておき、突然攫われた上に十歳以上も年が離れている男性から愛の告白をされ、初めは戸惑っていましたが好意を抱かれることに悪い気はしていませんでした。気持ちが揺れ動く中、彼は私を愛の巣という名の監禁部屋に案内してくれます。


 しかし、そこには私の他に誘拐された子供たちがいました。両親に助けを求め叫び、また悲しみに暮れ泣く大勢の女の子たち。そんな彼女たちを見てしまった私は浮かれた気持ちが一瞬で冷めてしまい、そして心の奥底から沸々と怒りを湧き上がらせました。


 浮気はいけませんと。


 ……えぇ、分っていますよ。いくら告白してくれた相手が他の女の子を寝室? に連れ込んでいたとはいえ、誘拐された子供の一人である私が思うことではないですよね。というか怒るポイントがズレているのはご愛嬌です。……あの頃は嬢ちゃんだったのです。若さ故の過ちというものなのですよ。


 言い訳をさせてもらえるのなら、当時私は誘拐されたとは思っておらず自分のことを本当に女の子だと思っていたのです。だから告白され舞い上がった気持ちを裏切られたような気がしまして、その……女の子特有の嫉妬心がこう、メラメラっとですね? ……はい、反省しています。


 何はともあれ嫉妬の炎を燃やした私は彼に自分だけを見てくれるようにO・NE・GA・I(おねがい)し、結果誘拐された女の子たちを解放させました。正確に言うと追い出したが正解ですけどね。


 こうして二人っきりになった私は彼との甘いひと時を過ごしました。そしてその場の流れでその……えっえっちなことをすることになりまして、こう……バレたのですよ。彼は最初、見間違いかと思ったようでしたが二度見した後呆然と呟きました。


私だけの天使(マイエンジェル)たんだと思っていたのに、男、だなんて……」


 呆然としていた彼でしたが途端に目が据わり、私を無価値な物を見るかのような視線で見下ろすと一方的に暴行――殴る蹴るのほうです。流石に男の子にその、えっと……えっえっちなことをする気はなかったようです――を加えてきました。今まで優しかったのが嘘だったかのようにです。


 一方私はというと、彼を騙して深く傷つけた後悔や暴行による痛みから涙を流してごめんなさいと許しを請いていました。しかし、許してもらえるはずもなく次第に意識は薄れていき、気がついたら病院のベッドの上にいたのです。


 後から聞いた話ですが、どうやらあのとき解放した女の子たちが無事保護され彼の家の情報を警察に伝えていたそうです。その結果、彼は捕まり治療が必要な私は助け出されて直ぐに病院へと送られたらしいです。


 病院に送られ治療を受けた私は命に別状はなく両親は一安心していました。しかし、これまで女の子扱いをしてこの事件の切っ掛けを作ってしまったと責任を感じた両親は酷く心を痛めてしまいます。


 そしてこれを切っ掛けに心を改めることにした両親は私が退院してから男の子扱いをするようになりました。妹や近所の人たちも同様です。


 しかし、これに戸惑ったのは私自身でした。男の子のようになろうとしても長年の習慣を唐突に変えることなど直ぐにできるはずもなく、心のしこりが取れないこともありいつまで経っても女の子らしさが抜けることはありませんでした。


 それならと両親は見た目だけでも何とか男の子に近づけようと、今まで短くしたことがなかった私の髪の毛を切ることにしました。けれども、中性的な容姿になっただけでこれも失敗に終わります。


 習慣や仕草などの内面は変えられず、容姿は中性的、加えて声変わりは中学生を過ぎても訪れないと男の子要素が皆無に成長した私は結果男になれず、けれども女の子でもない。そんな中途半端な存在となるのでした。


 まぁ、こうした理由があって周りのみなさんは私のことを『男の娘』と呼ぶのです。


 さて、長々と私の過去について回想してきましたが、今私が何を言いたいのかというとですね。こういうことなのですよ。


「あぁ、私の半身さんがお亡くなりになりました」


 男の子にあって女の子にないもの。私を男と足らしめる最後の砦であった半身さんが気がついたらなくなっていました。


 あぁ、お母さま、お父さま、そして優璃ちゃん。あれほどまでに苦労して私を男の子にしようとしてくださったのに誠に申し訳ございません。私はどうやら本当の女の子になってしまったようです。


 両手と膝を着き頭を下げる形で愕然とし嘆く私の声が人気のない森の中に空しく消えていくのでした。






◆ ◆ ◆






 あれから暫く経ち、漸く落ち着いた私は現状を確認することにしました。決して半身さんをなくした喪失感から目を逸らすためではありません。


「えっと、まずはここはどこでしょうか?」


 言葉に出しながら周囲を見渡してみます。視界に映るのは生い茂る木々だけであり、どこかの森の中だということが推測できます。


 しかし、ここで目が覚める前に森に入った記憶がありません。ということは、私は何らかの方法でここに連れてこられたか何らかの理由でここに放置されたということになるでしょう。まぁ、夢の中という候補もありますが夢の中で目が覚めたり、五感を感じ取れたりすることから恐らくありえないでしょう。


 他に思いつくものとしては……まさかですよね。流石にこれはないと思いますが一応候補の一つとしておきます。


 一先ず誘拐の線で考えて見ましょう。私の最後の記憶は自宅でRPGゲームをしていたところで突然途切れています。その際に後ろから襲われ気を失い誘拐されたと考えられますが……恐らくありえないでしょう。


 あのとき家にはお母さまとお父さま、優璃ちゃんが同じ部屋にいましたし最後に鍵をかけたのは私ですのでしっかりと覚えています。加えて窓には侵入者がいれば警報がなるようになっていますので侵入は不可能に近く、誘拐の線は候補から外れますね。


 ……あのときの犯人が私を誘拐し本当の女の子にして添い遂げようとしたなんて考えが一瞬浮かびましたが頭を振り払います。あぁもう、鳥肌が立ったじゃないですか。


 トラウマが呼び起こされ鳥肌が立ち震える身体を両手で抱えながら落ち着くのを待ちます。暫くそうしているうちに症状は治まり一先ず安堵のため息を吐きました。


 あの事件の後、私はトラウマから特定の男性以外が苦手になりました。お父さまや子供、近所の仲の良い男性などは問題ないのですが見知らぬ男性、特にあのときの彼と同じような雰囲気を持った男性が近くにいると思うと身体が竦み、震えと鳥肌が止まらなくなります。


「……全く、本当に困った身体ですね」


 大きく深呼吸し新鮮な空気を肺に脳に、全身に送ります。よし、もう大丈夫です。


 森の新鮮な空気を吸い気持ちを入れ替えると思考を再開させます。


 他に考えられるとすれば……あのとき近くにいた家族のだれかによる悪戯ですかね。しかし……両親や優璃ちゃんがこのようなことをするとは思えませんしこれもないでしょう。……寝ている間に去勢手術されたとは考えたくありませんし。


 突拍子もなく現実的にありえそうなこともありでしたら、私は現在なんらかの原因で脳死状態でありこの世界はヴァーチャルリアリティの世界だというのはどうでしょうか? この世界に私の意識を送り込み目が覚めるのをサポートしているというものですが……。


「ですが、そんな話は聞いたことありませんし」


 現在の地球の技術でそのようなことは不可能に近いでしょうね。仮に試作品が完成していたとしても私が選ばれる理由がありませんし、女の子にする理由が分りません。


「あと思いつくのは……やはりこれはどうかと思いますけど」


 私が先程まで避けていた案が頭を過ぎったのですがその考えを振り払うかのように頭を振るいます。現実的ではないと。


 何故ならば私が思いついたのはよくある小説の話だったからです。転生、憑依、転移、召喚、VRMMOなどのお約束ともいえるテンプレな単語です。……私って意外とこういうの好きなのですよ。実際に体験したいとは思いませんが。


 まぁ、兎に角あまり考えたくありませんが出来る限り候補を減らしていきましょう。


 転生は……恐らくないでしょう。この身体は半身がないこと以外は私自身のものですし、そもそも私はまだ死んでいません。……恐らく。


 憑依は……どうでしょうか? 身体に関しては異世界の私に憑依したとも考えられますし、ないとはいい切れませんね。保留で。


 異世界転移、召喚は……これもどうでしょうか? 突然森の中にいるというのはよくありそうな話ですよね。転移ミスや召喚ミスなどもテンプレになりつつあるみたいですしこれも保留で。


 VRMMO、所謂仮想現実なゲームの世界に閉じ込められてしまったというのは……微妙ですかね。先程も考えましたが技術的に無理でしょうし、そんな話は聞いたことがありません。


 そういえばここが異世界、またはゲームの世界なのかを確かめる手っ取り早い方法がありました。


「確認するのは魔法、ステータス、鑑定、アイテムボックスあたりですかね」


 思い浮かべたのはどれも異世界にやってきた際に主人公が持っている代表的な異能の力です。大体は神様から授かったり元から持っていたりゲームのキャラクターが覚えていたりする能力ですね。


 ……いや、まだ異世界って決まったわけではないのですよ。ただ、男の娘の本能がこういうのに憧れを持っていまして……。そういえば私の記憶では最後にやっていたのが某有名RPGゲームでしたっけ。……少しだけなら。


「メ、メ○」


 私は周囲に誰もいないことを確認すると片手を近くの岩に向け呪文を唱えてみました。もちろん木に燃え移って森が火事にならないように細心の注意を払っています。


 しかし、恥ずかしがりながらも唱えた呪文が発動することはありませんでした。何も起こらなかったことで更に顔が火照るのが鏡を見なくても分ります。私の勇気を返してください。


 ゲーム的に言えば私はメ○を唱えた。しかし、MPが足りないようだ。というのが相応しいのでしょうね。まぁ、私にMPがあるのかは知りませんが。


 それにしても周りに誰もいなくて助かりました。そうでなければ私は死んでいました。……社会的に。例えば小学生がかめ○め波とやるのは微笑ましいのですが、社会人が真面目にやっていると引かれるようなものです。まぁ、外人さんと偉大な声優さんは別ですけどね。


「うぅ、恥ずかしいです。しかし、呪文が違うだけかもしれませんし……そもそも私が魔法を覚えているとは限りませんでした。職業が村人Cの可能性もあることですし。……とっ、兎に角他のを試してみましょう。す、ステータス」


 恥ずかしさで若干早口になった私の言葉が虚しく森へと消えていきます。くっ、しかしまだ挫けるわけにはいきません。


「ステータスオープン。ステータス表示。オープンステータス。開けステータス」


 何度か言葉を変え唱えてみますが結果は何も起こらず再び森は静寂に包まれます。しかし、ここまで試してあとに引けなくなった私は息を切らしながらも自棄になりながらさらに続けます。


「ステータスカード表示。出でよステータス。ステータス、お前もか。ヘイカモン、ステータス。チェーンジ、ステータス、スイッチオン! スタンドアップ・ザ・ステータス! ファイナルターン、ドライブトリガーチェック、ゲットステータストリガー! 効果は全て私に。リバースカードオープン、ステータスカード! 効果でステータスを呼び出す。私のバトルフェイズはまだ終わっていません。ドローっ! ステータスカード!」


 遂には私のライフポイントが0になり言葉も体力も尽きました。……自分でも本当に何を言っているのか分りません。


 酸欠気味でおかしな思考は呼吸を整えているうちに少しずつまともになっていきます。次第に気恥ずかしさがこみ上げてきますが今更な気がしてため息を吐きます。


「はぁ、ステータスじゃないのでしょうか? 例えば……システム? システムオープンって、え!?」


 適当に呟いたら目の前に半透明な画面が表示されました。気分は宝くじで一等が当たったようなものです。まぁ、実際は当たったことはおろか買ったことすらありませんが。


「システムメニュー?」


 何はともあれ、興奮する気持ちを胸に画面を確認すると見出しには大きくそう書かれていました。……異世界決定のお知らせですね、分ります。


 苦労の末に到達した真実に私は辟易し重いため息を吐くのでした。あぁ、地球が恋しいです。


ビフォー


幼優璃「お姉ちゃん、笑って~」


幼主人公「にぱ~(満面の笑み)」


周囲「きゅん♡」


幼優璃「っ!?(鼻血垂ら~ん)」


アフター


現優璃「ハニー、笑って~」


現主人公「にこっ(控えめ)」


周囲「どっきゅーん♡」


現優璃「っ!?(鼻血垂ら~ん)」


 意外と変化なし?


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