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まぁ、生きてさえいれば

掲載日:2026/04/01

短編です

 先輩から言われた通りの住所に着いた。今まで見たこともない、妙に立派な日本家屋。なんか、やくざの映画に使われそうな、もはや映画のセットみたいな重厚感のある門。本当にここであってるのかな。

 不安になりつつ、チャイムを鳴らす。

「はい」

「あ、先ほど電話した、タカシの上司です」

 もちろん嘘だ。でも今日、この時間だけはタカシの上司だ。

「タカシ・・・・タカシなのか!?」

 インターホン越しの向こう側から、しわがれたお爺さんの声が聞こえた。いや、だから俺タカシではなくて上司なんだけど、と返事しようとしたら、門が開いて、着物を着たお爺さんが出てきた。

「タカシ!!」

 あ、やばい、完全に俺をタカシだと思っている。これはどうすれば良いんだろう。

 考えていると、じいさんに抱き着かれ、泣きだされてしまった。

 奥の家から、もう一人、どう見てもカタギじゃない、いわゆるそう言う雰囲気を漂わせた、スーツの男性が出てきた。

「オジキ、そいつは違うよ」

「いや、タカシだ!こんなに大きくなって!」

「はぁ、まぁいい。お前、面倒だから一旦うちに入れ」

 拒否することもできず、俺は、家の中に招かれた。

「悪いな、オジキは、今弱ってんだ」

「はぁ・・・」

「んで?お前どこの所属だ」

 これは、嘘をついても意味がなさそうだ。

「あの・・・俺は先輩に言われて・・・」

「そうか・・・どうするかな、お前はうちのオジキをそんなちゃちな演技で騙そうとした、その落とし前はつけてもらわにゃならん」

 これ、俺もしかして沈められちゃうの?やだやだ、バイト代を効率よく稼ぐだけのつもりだったのに。

 身分証を提示するように言われたけど、先輩たちに取られてしまったから、今は持っていないこと、先輩たちに逆らうと、酷い扱いを受ける事など、一度行ったことのある事務所の場所や、その時みた人数など、俺の持っている情報は洗いざらいだした。

 映画の知識的に言えば、多分若頭だと思うんだけど、その人はあまりに迫力があって、俺には太刀打ちできそうもない。他に何か有益な情報は無いだろうか、と考えていると、若頭が俺の目を見据えた。

「お前は今日からタカシだ。いいな」

「・・・へぁ?」

 若頭は、俺に新しい身分証を発行してくれた。そして、今日からこの家で暮らすようにと釘を刺された。家族や、大学にはどうすればと問うと、若頭はにやりと笑って「どうにでもなる」と言った。

 俺は、家から出ることを許されず、じいさんの世話を頼まれた。食事は準備してもらえるし、お小遣いと称して、じいさんからも、若頭からもお金を貰えるから、生活費には困らないし、外に出られないから使い道がなくて溜まる一方だ。

 半監禁生活が二週間に突入する頃、TVで、一つの詐欺グループが壊滅したことが報じられた。捕まった幹部たちの中には、先輩の写真もあった。

 そして、グループ壊滅の際に、亡くなった人間が何人かいた、と報じられ、そのうちの一人に、俺の名前があった。

 あぁ、俺は、死んでしまったんだな。

 俺は、一生、このやくざの家で、この爺さんの世話をしながら生きていくんだ。とぼんやり実感した。

 さようなら、俺の穏やかな人生。



——タカシ、おやつ食うか——

わーい!

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