縁切り令嬢の幸せ
「エドワード様、お別れしましょう」
「……え?」
私、ルリカ・タルナードは婚約者であるエドワード・クリスナー様に言った。
「い、いきなり何を言ってるんだ、別れる、て……」
「他に好きな方が出来たんでしょう?、最近転入してきたエミリア・カリスキー男爵令嬢でしたっけ? 王太子様も含めてかなり良い関係になってる、と聞きましたよ」
そう言うとエドワード様はビクッとなり汗をかき出した。
「『私といてもつまらない』とか『貴族の結婚に愛なんてない』とか仰った様で……」
「そ、それは言葉のアヤと言うか、周りに乗せられたと言うか……」
「ご自身から出た、という事は少なくともそんな想いがある、という事ですよ?」
ウグッと言ってエドワード様は黙り込んだ。
「という訳で婚約は解消します。 どうぞご自由に」
「ま、待ってくれ! それじゃあ私の婿入りの話は」
「当然、無かった事になります。 良かったですわね、『決められたレール』から外れる事が出来て」
ニッコリ笑って私は呆然と立ち尽くしていたエドワード様を置いてその場を立ち去った。
……これで全て解決、とはいかなかった。
次の日からクリスナー侯爵家からお詫びやら婚約の存続の嘆願の手紙が届き始めた。
私は一度決めたらてこでも動かない性格なので手紙なんて一読しただけで火に焚べた。
そしたら、今度は両親からも『話だけでも』とか『浮気なんて若気の至りなんだから』とか私に折れる様な事を言ってきた。
友人達からも『あっさりと捨てるなんて冷たい』とか言われる始末。
こっちは被害者なんですよ? なんで私が折れなきゃいけないのか意味がわからない。
ここで許したら『謝ったらなんでも許してくれる』と甘く見られて相手が図に乗ってしまう。
しかし、このままだと国が出てきて大事になりそうな予感がしてきた……。
考えた結果、私は全てを解決する策を思いついた。
そうだ、貴族辞めよう、と。
それから数カ月後、私は王都から離れた小さな町に住んでいる。
私は両親に籍を抜ける、と宣言、『馬鹿な真似は止めろ』とか『一人で生きていけるほど社会は甘くない』とか言われたけど『このまま続いていくのであれば貴族令嬢としての私は死んだも同然、それだったら貴族を辞めて平民として生きる方がだいぶマシ』、と言った。
実の娘に『貴族より平民の方がマシ』と言われたのがショックだったのか両親は諦めたみたいで私は貴族籍からの離脱申請書を両親のサイン付きで提出、特に問題は無く申請は無事に通った。
勿論、貴族では無くなったので貴族学院も退学となり私は晴れて自由の身となった。
そして、私はこの町に引っ越してきて住んでいる。
この町の商会に採用されて商売のノウハウを学んで独立資金を貯めている状態だ。
そんな中、唯一私の決断を支持してくれた貴族時代の友人が遊びに来てくれた。
「貴族の頃より元気になってない?」
「自分でもそう思うわ、多分平民の方が向いてるのかもしれないわね」
「ルリカだったらそうかもね、あ、そういえば元婚約者のエドワード様、感謝していたわよ」
「え? なんで?」
「婚約が解消された後、なんとなく居心地が悪くなって王太子様達との付き合いを止めたんだって、そりゃそうよね、原因になったんだから。 それでね、その後、王太子様達、婚約者様に婚約破棄を一方的に宣言したのよ、でも婚約者だって公爵家とか高位貴族の令嬢が多いでしょ、今泥沼の醜い争いの真っ最中なのよ、『アレにもしかして巻き込まれていたのか』ってエドワード様、真っ青になってルリカの決断が正しかった、って実感したらしいわよ」
今、そんな事になってるんだ……。
「同級生達も最初はルリカが貴族籍から抜けた事を馬鹿にしていたんだけど、こんな状態でしょ? 貴族でいるかどうか家族会議をしている家が多いんだって、我が家もそうなんだけど」
「え、そうなの?」
「王族も頭を抱えているみたい、この国どうなっちゃうのかしら?」
そんな風に友人は苦笑いしながら言った。
その後、元両親から手紙を貰った。
内容は貴族社会が混乱している事から自分達も貴族籍を抜ける事を考えている事、私が言っていた事が正しかった、と謝罪の言葉が書かれていた。
この国がどうなるかはわからないけど私は私の道を歩いていく、ただそれだけ。