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第1章・パート4:「これが低ランクの依頼!?

【場所:冒険者ギルド・テラリス 支部訓練場】


朝の風は心地よかった。


だが、観客の沈黙はそうでもなかった。


十人ほどの冒険者が訓練場の周囲に集まり、円を描いていた。


皆、有名なカエル・ドレイヴァンが、新入りの馬鹿を辱めるのを見たがっていた。


──つまり、僕のことだ。


「カイト、まだ引き返せるわよ」


隣にいたリリエンが囁いた。


「言い訳をしてあげる。今朝、尊厳を傷つけたって」


「いや……大丈夫だ」


なぜそう言ったのか、自分でもわからなかった。


いつ逃げる意志を失ったのか、正確にはわからない。


だが、カエルが優越感に満ちた笑みを浮かべたのを見て、何かが目覚めた。


怒りではない。


誇りだ。炎の形をした恐怖。


カエルは訓練用の剣を抜き、場の中央へと歩み出た。それは武器というより、高価な装飾品のようだった。


「ルールは簡単だ」


彼は大きな声で言った。


「殺すな。ただし、手加減もするな」


僕は唾を飲み込んだ。


「武器はあるか、新人?」


「ええと……ない。でも反射神経はある」


観客が笑った。彼は笑わなかった。


【ミッション開始:決闘──「ニワトリ対ライオン」】


【目標:3分間生き延びる】


【ボーナス:お漏らししないこと】


【決闘開始】


「始め!」


カエルが突進してきた。


その瞬間、僕の体が勝手に動いた。


彼は胸を狙って、猛烈な速さで突きを繰り出した。


だが、僕の脚が先に反応した。


左へ飛び込み、ぎこちなく転がった。


剣は空気を切り、数センチのところを通り過ぎた。


【オート回避発動!】


【新しいサブスキルを発見:「パニック回避 Lv.1」】


「面白い」


カエルは片眉を上げて言った。


「完全に鈍っているわけではないな」


そして、再び攻撃を仕掛けてきた。


一連の攻撃、突き、薙ぎ払い。どれも完璧だった。


だが、どれもギリギリで回避した。


僕は息を切らし、走り、転がり、つまずいた。


しかし、彼の攻撃は当たらなかった。


「それが君の全てか?!」


彼は苛立ちを込めて叫んだ。


「そうだ!でも、うまくいってる!」


観客たちはざわめき始めた。最初は嘲笑、次第に驚きへと変わった。


「まだ生きてる?」


「恐怖を戦術として使ってるのか?」


「いや……訓練なしで全てを回避してる!」


カエルは歯を食いしばった。


「逃げるのをやめて、男らしく戦え!」


「君から離れてる方が、より男らしいよ!」


【2分30秒経過】


地面には痕跡が残り、服は汚れ、心は叫んでいた。


しかし、何かが変わった。


カエルが縦に斬りつけてきた。僕は再び回避し……


隙を見つけた。


考える前に、反応した。


膝を彼の腹に叩き込んだ。


カエルはうめき声を上げ、一歩後退した。


観客は歓声を上げた。


「一撃を与えた!」


「なんてことだ?!」


【経験値獲得:+45】


【オート回避がLv.3に上昇】


【新しい社会的称号:「カエルを少し倒した狂ったウサギ」】


【決闘終了:3分1秒】


カエルは剣を止め、手を上げた。


「……引き分けだ」


僕は膝をついた。


「まだ生きてる!ああ、神よ!無事だ!」


リリエンが駆け寄り、満面の笑みを浮かべた。


「すごかったわ!勝てなかったけど、生き延びた。そして彼を愚かに見せた」


カエルは僕を見た。もはや嘲笑はなかった。


ただ、静かな認識。


そして、もしかすると……怒りの火花。


「また会おう」


「できれば、すぐじゃないといいな!」


【決闘完了】


【報酬:ギルドの尊敬 +1。自信 +3。尊厳 -10(最後の叫びのため)】


その夜、肋骨に軟膏を塗りながら、これまで考えたことのなかったことを思った。


恐怖を克服する必要はない。


ただ、それと共に動くことを学べばいい。


【冒険者ギルド ── 任務掲示板ホール】


「Dランクの依頼。西の森にある廃墟の掃討作戦」

リリエンが掲示板を読み上げる。

「危険度は中程度。報酬はまあまあ。初心者向けってところね」


「掃討って……ホウキで掃くの?」


「違うわ。“中にいるモノを殺す”って意味」


「……なるほど、最高だな」


【新規ミッション:「忘れられし聖域の浄化」】

【目標:廃墟に巣くう魔物を排除せよ】

【推奨レベル:5~10】

【現在のレベル:4(慢性的な恐怖持ち)】


【西の森 ── 廃墟入口】


辺りは霧と苔に包まれていた。

ひび割れた石、倒れた柱、根に覆われた半ば隠れた入口。

ゲームならこう言う場所だ──「罠があるに違いない」。


「リリエン、これ本当にDランク?」


「ええ。ゴブリンと雑魚獣だけ。簡単でルーチンワークよ」


「それって誰にとって?ドラゴン?」


彼女はただ笑った。


「信じて。今回は一人じゃない」


その一言が、思った以上に僕を支えてくれた。


【廃墟内部】


僕たちはゆっくり進んだ。リリエンが前を歩き、僕は後ろで5歩ごとにHUDをチェック。


【警告:敵を感知】

【種別:下級ゴブリン×3】

【レベル:3~4】


こっちが見つける方が早かった。ぼろぼろの装備に錆びた刃物。ゴブリン三体。


「決めて」

リリエンがささやいた。

「避ける?攻める?」


唾を飲み込む。

逃げるのは簡単。攻めるのは……勇気がいる。


だが、僕はもう一週間前のカイトじゃない。


HUDを起動。


【スキル発動:「半神の敏捷」── 反応速度強化モード】

【効果:リアクション速度+30%(20秒間)】


走り出した。


一体目をかわす。


二体目の剣を踏みつける。


三体目に、なぜか回し蹴りが決まった。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」


【クリティカル発生:パニックブースト】

【獲得EXP:+80】

【新状態異常:「完全に驚いた(敵も自分も)」】


リリエンがすぐ後から入り、的確な斬撃で残りを一掃した。


「悪くないわね、ウサギくん」


「尿漏れ寸前だった!」


「でも漏らさなかった。進歩よ」


【廃墟の中央ホール】


通路の先にあったのは、ルーンで覆われた祭壇のある広間。


その上に、何かが動いた。


大きく、暗く、ただならぬ存在感。


【ミニボス発見:ホブゴブリン・バーサーカー】

【レベル:8】

【状態:敵対。狂乱中】


「これって本当にミッションの一部ぅううう!?!?」


「違う!これはランダムイベント!超運が悪い!」


ホブゴブリンが咆哮し、紫のオーラを纏ったメイスを振り上げて突進してきた。


僕は得意のアクションに出た──逃げた。


「時間を稼いで!」

リリエンが魔法を詠唱しながら叫ぶ。


「どうやって死なずに時間稼げばいいんだよ!?」


僕はひたすら走った。攻撃を紙一重で避け、地形をフル活用。

石、崩れた壁、柱──すべてがゲームの足場みたいに見えた。


そしてついに──


「今よ、カイト!」


振り向いた先、リリエンが放った光球がホブゴブリンの胸に炸裂。


奴は膝をつき、動きが止まった。


考えるより先に、僕は跳んだ。


そして──


顔面に飛び蹴りをかました。


【トドメ一撃:カイト・アキヤマ ──「勝利のやけくそキック」】

【獲得EXP:+120】

【レベルアップ:Lv.5達成】

【新スキル獲得:「ゴーストスプリント」── 極度の恐怖時に5秒間スピード2倍】


【ギルド帰還後】


僕は泥と他人の血とアドレナリンまみれで戻ってきた。でも、笑ってた。


「よくやったわね」

リリエンが言う。

「もう、私の背中に隠れてない」


「怖いのは……まだあるけど」


「それでいいの。恐怖は消えない。ただ、上手く使えるようになるの」


【ギルド内評価上昇:「本物の見習い」】

【リリエンとの関係+1:「戦場の信頼」】


その夜は、ぐっすり眠れた。


夢の中で、間違えてカエルに蹴りを入れていたけど。


最高の夢だった。

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