プロローグ
もし誰かが教えてくれていたら──
「お前の死(か、それに近い何か)はあくびから始まるぞ」って。
…そしたら、あの朝もっとちゃんと歯を磨いてたのに。
まぁ、ちょっと巻き戻そうか。
俺の名前は秋山カイト。17歳。高校生。神レベルの先延ばしスキル保持者。
生まれ持った才能? 社会的にギリギリ生存できるレベルで目立たないこと。
俺はデスクトップにずっと残されてる「いつか使うかも」っていう謎のファイルみたいな存在だ。
天才じゃない。スポーツもダメ。ムードメーカーにもなれない。
でももし「心優しいNPC」っていうキャラ職があったら、たぶん俺はレベル99だ。
俺の毎日は、最低限の努力で構成されたアート作品みたいなもんだった:
– 電車で寝ても乗り過ごさない技術。
– ノートを取るフリしてスライムの落書き。
– 中身が謎のパンを食べながら、自分が何かの主人公だったらな〜って妄想。
(たとえそれが椅子と床の恋愛ストーリーでも。)
野望? うーん。特殊能力? 一応、パソコンを壊さずに自作したことある。
でもひとつだけ、ちょっと変わってるところがある。
俺、本気で思ってたんだ。
「現実の人生も、経験値バーと魔法の剣があったらマシになるのに」って。
で、ある夜、それを声に出しちゃった。
めっちゃ大声で。イライラしてたし、現実にスキルポイントもインベントリもないのが嫌で。
「アクションでも! 魔法でも! ドラゴンでもいいからよこせ! クソみたいなこの世界、いっそ異世界にでも飛ばしてくれ!」
(※注:宇宙の謎存在には絶対に叫ばないように。
ユーモアのセンスがないか、あってもかなり歪んでる。)
次の朝は、いつも通りの月曜日だった。
賞味期限切れのクッキーを朝食にして、左右で色の違う靴下履いて、貧血気味のゾンビ並みのテンションで学校へダッシュ。
そして教室に座って──あくびをした。
長い。
そして、なぜか魂が抜けるような、謎にドラマチックなあくび。
そしたら、起きたんだ。
空中に閃光。
空間に亀裂。
そして、[対象を確認] とかいう浮かぶ文字。
当然、俺は夢だと思った。
もしくは空腹による幻覚。
もしくは、夢の中で空腹。
──ネタバレすると、全部違った。
なぜか知らないけど、宇宙は俺を選んだんだ。
俺を。
カイトを。
ガチャ運ゼロのこの俺を。
そして、全てが真っ白で耳鳴りの中に包まれる直前、俺の最後の思考はこうだった:
「これ、絶対ヤバいだろ。」
……正解だった。
超正解だった。
でももう、後戻りはできなかった。