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ワタシ達のフリルドレス

作者: 623

目の前で破かれたフリルのついた煌びやかなドレス。

それがあまりにも信じられなくて、現実だと思えなくて、自分の全てを酷く傷つけられたような気がして。

ワタシはその場で気を失ってしまった。


ーーー


「う…うぅん…?」


どのくらいの時間が経ったのだろう。

目を覚ますとそこは真っ暗な空間だった。壁もなく広々としたそこはポツリと呟いただけで声が反響した。

一体ここはどこだろう。そもそもワタシはどうなってしまったのだろう。不安になっていると後ろから声をかけられた。


「あの…すみません、ちょっと聞いてもいいですか…?」


その声も少し震えているようで、ワタシは慌てて振り返る。しかしその瞬間ワタシは目を疑ってしまった。


「ワ…ワタシ…!?」

「…ユージーン?」


目の前にいたワタシもワタシの顔を見て驚いているようだ。少し間をおいて顔をペタペタ触った後、またワタシに話しかけてきた。


「すみません、鏡とか持ってませんか?」

「鏡…?えっと、確かここに…」


反射的に持っていた鏡を渡すと、もう一人のワタシは小さく礼をしてその鏡を覗き込む。そして小さな声で呟いた。


「…ユージーンになってる…なんで…?」


困惑している様子のその子に、ワタシは思わず立ち上がり声をかける。


「あの…あなたは一体…?」

「えっと…私も考えながら話すので長くなってしまいますが、聞いてもらえますか」


まっすぐこちらを見られ、ワタシは色々言いたかったことをグッと飲み込んでしまった。それほどまでその子の瞳は真剣だったのだ。

ワタシ達は隣に並んで座り、話を始めた。


「まずは自己紹介ですよね。私の名前は有我友喜といいます。性別は女、年齢は17。日本という場所で高校生として暮らしていました」

「ニホン…?」

「あなたの世界でいうと、サムライ達の故郷みたいな場所ですかね」


そう言われるとすぐに理解できた。ワタシの従者にサムライがいたから尚更か。

アリガ・トモキと名乗ったこの女性は続けてこう話す。


「そこで…『リグレット〜神と夢の少女〜』というゲームを遊んでいました」

「ゲーム…?えっと、ごめんなさい…わたしゲームにはちょっと疎くて…」

「多分あなたが考えてるゲームとはちょっと違うんですが…手元で遊べるもので、小説に絵が付いて一緒に声が流れる物だと思ってもらえれば」


頭の中で想像してみたが、朗読劇と何が違うのだろうかと懐疑的になってしまう。

首を傾げ過ぎて真横になりそうなワタシに、彼女は変わらない瞳でこう告げた。


「ユージーン・ラビアスさん。あなたは、その物語の中の登場人物なんです」

「…えっ?」

「あなたはいわゆる友人キャラといって、ゲーム上でどれくらい頑張ったかとか、攻略対象の好感度を教えてくれるんです。で、ある一定のルートに行くとあなたも攻略対象になって…」

「まっ、待って!ワタシまだ着いていけないわ!」


慌てて止めると彼女は「ごめんなさい」と軽く頭を下げた。とはいえ、彼女の言ったことは一切わからない。ラブゲージって何?ルートって、攻略対象って…?

目をグルグル回すワタシを覗き込むように近づくと、彼女はピンと指をさしこう切り出した。


「ユージーンさん。私、あなたの苗字を知ってましたよね。それはどうしてでしょうか?」


それに思わずハッとする。確かにワタシが王族の…ラビアスの人間だということは重大機密事項で、お父様達しか知らないはず。口外されたとしてもこんな真っ暗な世界にいた彼女に伝わるものなのか?不思議と冷静なワタシは恐る恐る彼女に聞いてみる。


「…じゃあもしかして…もう一つの秘密も知ってるの?その、ワタシがイクスの実の弟ってことも…」

「えぇ」

「それは…あなたが話すゲームとやらが関係しているの…?」

「はい。ずっと見てました」


なんとなく全貌が見えてきて思わず息をつく。

どうやら彼女はワタシの人生そのものをゲームとやらを通して覗き見していたらしい。とんでもないことだ。いつ彼女から国家機密が漏れ出るかわからない。いやそれよりもイクス兄様に…次期国王にこの秘密がバレたりしたら何をされるかわからない。確実に継承権を得るためにワタシを殺害しようとするんじゃ…。

そんな不安をよそに、彼女は話を続けた。


「私はそのゲームが…あなたが大好きで。で、ゲームをやりながら歩いていたら、赤信号に気づかなくて、それで…えっと、鉄の馬車、みたいなものに轢かれたんだと思います」

「鉄の…馬車…?ご、ごめんなさい、想像してみたのだけど、それって大変な状況なんじゃ…?」

「元の世界の私は気を失っているか…もしくは、亡くなってるんじゃないかと」

「な…亡くなった…?」


一瞬思考が冷たく凍ってしまった。

彼女がいるということはここは天国か地獄なのか?というか、もしかするとワタシも死んでしまったのではないか?

…それに、なんでこうも簡単に、ワタシとそう歳の変わらない彼女が死んでしまったのか?

まさか死んでいるなんて夢にも思わなかったから、酷く悲しみを抱いてしまった。


「…でも私、安心しました」


そんなワタシの考えとは裏腹に彼女は優しくワタシの手を取った。


「ここで大好きなあなたに出会えて、ちょっとだけ不安な気持ちがなくなったんです。…ありがとう、ユージーンさん」


そう言って微笑む彼女はとても美しく、思わず胸が高鳴った。やだワタシったら、顔はワタシ自身なのに…。

すると彼女はワタシの手をパッと離し遠くに見える光の方を見た。


「でもまずは、あなたを元の世界に戻さないと。起きて状況を把握して…変えなくちゃいけない未来があるはず。最初のイベントは主人公のコトカと、悪役令嬢のマキナのケンカを仲裁かな」


ツカツカと歩き出そうとする彼女。

…いや、急に何を言ってるの!?慌てて腕を掴み止めると彼女は少し驚いた顔を見せた。


「どうしました?」

「いや!えっと…トモキさん、だったかしら?あの二人の喧嘩は入学式の日にあったのよ?それを止めるって…どういうこと?」

「そうですね…正直賭けですけど、こういう物語って大体過去に戻って始まるからいけるかなって…」


本当に何を言っているのこの人!?

…先ほどから言っている入学式の喧嘩は、ウチの学年が悪い意味で目立つ原因となるほど苛烈だった。

入学試験主席で次期王女…兄の婚約者であるマキナさんと、特別入学枠で入学した平民出身のコトカさん。彼女達は自分達が出せる限りの魔法を繰り出し床や天井を真っ黒に焦がしていた。教員が3、4人がかりでやっと止められたからいいものの、あのまま行ったら校舎が消し炭になっていたんじゃないかと言われていた。

確か原因はマキナさんがコトカさんのお父様のことを罵ったからとか、コトカさんの礼儀がなってないことを指摘したら逆に怒り出したとか…いろんな話が出過ぎていて詳しくはわからない。


とにかく、あの魔法が飛び交う空間に生身で行くなんて危険すぎる。そう伝えたら彼女はニコリと微笑みワタシの手に触れた。


「大丈夫です。私、できます。完璧なあなたを守りますから」


言葉の真意はわからないまま、彼女は光の中へと向かっていった。ワタシは一人真っ暗な空間で心配の気持ちでいっぱいだった。


ーーー


あれからかなりの日数が経った。



彼女…トモキさんが光の向こうに行った後、突然ワタシの目の前に大きな水鏡が広がった。そこにはワタシが…厳密にはワタシの体に憑依したトモキさんが映っていた。自分を遠くから見ることなんて初めてで、心底不思議な気分だった。


そして間も無くやってきた入学式。まさか本当に時間が巻き戻っているとは思わなかったけど、そんなことよりワタシはトモキさんの奇行に驚いていた。

だって彼女、魔法がぶつかる戦場に真正面から突っ込んでいったのよ?それも、自分を守る鎧も魔術もなしで!先生方がコトカさん達を止めなければ危うく真っ黒焦げになっていたというのに彼女ったら、「二人の白い肌に火傷ができなくてよかった」って歯の浮くようなセリフまで言ってしまって…あの場にいた誰もが呆れていたはずだわ。


それから彼女は件のゲームとやらの知識を元にワタシの従者、果てにはお母様に振り返る災難を全て払い除けてしまった。

魔法の扱いは素人同然なのに向こう見ずに突き進んで、怒られることも珍しくなくて。それでもそんな彼女の姿勢に惹かれた人は少なくなく、入学式で喧嘩をしていたはずのマキナさんとコトカさんと三人合わせて「親友」と呼ばれる間柄になっていた。


かく言うワタシも見ているうちに目が離せなくなっていた。心配なのか、尊敬の念なのかはわからないけれど…とにかくトモキさんはまっすぐで、力強くて、本当にかっこよかった。


また会えたらそれを本人に伝えられるのに、彼女とは一向に会える様子はない。そういえば、ワタシはいつまでここにいればいいのかしら…。


ーーー

そして戻れないまま三年の月日が経ち、卒業パーティーの日になった。

ワタシが倒れたのは確かこの日。正直ここに居る時間で元々霧がかかっていた記憶が余計朧げになってしまい、何があったのか忘れてしまっていた。


「…あら?」


ふと気がつくと目の前で水鏡が揺れ出した。ゴミでも入ってしまったのかと思い近くまで向かい覗き込むと、そこには見たことのない景色が広がっていた。


一面灰色の世界の真ん中に、一人のお婆さんが立っている。下から見上げる彼女の姿は静かに威圧されているように感じる。

すると女性は力一杯こちらに向かって手を振り下ろした。瞬間荒れる水面。途切れ途切れに聞こえる声。



「友喜…ちが…!!……えは……だから…!!」



聞こえた名前に耳を疑った。

トモキ?ということは、この映像はトモキさんの記憶かなにかなの?こんな痛々しい出来事が、トモキさんに起こったの?

しばらくすると揺れは止まり水鏡にはワタシのよく知る世界が映り出した。


「一体なんだったのかしら…」


ワタシの不安をよそに、向こうのトモキさんは進み出した。


滞りなく進むパーティー。和かな雰囲気のその裏で、トモキさんはお父様とお母様を前に話をしていた。


「…お父様、今なんと?」

「だから言っているだろう?お前が国王になれ。エクスに国営を任せるのはやめだ。アレは合理主義が過ぎる。損得勘定でしか物事を図らず、人を慮ることができん!あれなら下手くそな操り人形の方がまだマシだ!」


…改めて痛感したけれど、イクス兄様はお父様にそっくりね。言っていることが自分に返っていることがわからないのかとお母様の目が言ってるわ。

そんなことなどつゆ知らず、お父様はトモキさんの肩にポンと手を乗せる。


「あいつに向けた絶縁状も書いたんだ。今までご苦労だったな。争いを避けるためとはいえそんな格好をさせて悪かった。さっ、これに着替えなさい」


そう言ってお父様が持って来させたのは、国王を継承する時に着る伝統的な礼服だ。きっとこれを着せてワタシが王になるという事実を見せつけたいのだろう。

ワタシだって今日、素敵なフリルドレスで着飾っているというのに、それを知りもしないで…。


「…ドレス?」


瞬間、全身を駆け巡る刺激。

思い出した。ワタシはこの後お父様に抵抗したんだ。そして揉み合いになっているうちに、着ていたドレスを破かれて…そしてここに来たんだ。トモキさんと出会ったんだ。

なんで今まで忘れていたんだろう。目を伏せ嘆いていると遠くの方から声が聞こえて来た。もしかして、トモキさん…?



「ユージーン…しっかりなさい」

「……えっ?」



顔を上げると揺れていた水鏡はどこかへ行ってしまった。

いや違う。これは鏡越しの景色なんかじゃない。

現実だ。ワタシは、自分の体に戻って来たんだ。ドレスは破け、投げ捨てられる様に礼服が落ちている。慌てて取り繕いお母様に向かう。


「お、お母様、申し訳ありません!その、はしたない姿で…」

「…いいのよ。お父様の言動は目に余るものだったから。それよりもユージーン、あなたの服が…」


そう言われ、ようやく私はドレスに目を向けることができた。

襟から大きく下げ、胸元が顕になっている。フリルは宙に揺れ、小さく散りばめられていたパールは床に転がっている。

少し呆然としたけど、すぐに立ち上がる。きっと前のワタシならここで諦めてしまっていたでしょう。


でも、今は少しだけ自分のことを愛せる。

ずっと見ていたんだもの。今はワタシのことを好きだと言ってくださる方が周りにいる。

それに彼女だって、きっと今も見てくださってる。

だからワタシは前を向くんです。


「お母様…針と糸はありますか?」


首を傾げるお母様に、ワタシは不安を拭ってもらおうとニコリと笑って見せた。


ーーー


ブーツを低く鳴らしながら会場へと向かう。

ワタシを見る目はいつもと違い、驚きと感嘆でいっぱいだった。少し離れた場所で中央の惨劇を見ていたマキナさんもこちらに気付くと見たことないほど目を見開いた。


「ユージーンさん…あなた…」

「ふふっ、似合ってますか?」

「え、えぇ、とても…いえ、そうではなくて!」


止めようとするマキナさんの横を通り中央へ…兄の前へ向かう。呆然とした兄はロマンチックにひざまづいたまま固まっていて、それを他所にコトカさんは私の元へ駆け寄る。


「ユージーン!!」

「大丈夫ですか?コトカさん」

「平気だよ!もう少し遅かったら顔面蹴ってやってたんだから!」

「あはは…なら、もう少し遅く来た方がよかったかも」


そんな話をしていると、兄は立ち上がり鬼のような剣幕でこちらを睨みつける。


「ユージーン…!貴様はまたそんなふざけた格好を!なんだその服は!私の為の礼装をそのように改造するなど…!恥を知れ!」

「ふざけているのはどちらですか?お兄様」


口答えしたことに驚いたのか、兄は一歩後ろに下がる。でも逃さない。ここであいつを逃してはならない。


「マキナさんという婚約者がいる身でありながら、コトカさんの方が有能だからと大衆の面前で婚約破棄からのプロポーズ…なんの冗談ですか?次期国王ともあろうお方が、恥を知りなさい」


グッと怯みながらもまだ口を閉じようとせず、「未来の国王の妃は有能でないといけない」だの「マキナは前々から無愛想で嫌いだったんだ」だの「僕は寛大だから平民生まれでも構わない」だの、二人に対して失礼なことを並べている。

当然二人の顔は見るまでもなく怒りに満ちている。周りの観衆も同じだ。厳密には呆れと憂いなのだけど。

こんな耳障りな戯言に付き合うことはない。ワタシは早々にお父様が投げ捨てていった書面をお兄様に見せつける。


「…なんだこの紙クズは」

「絶縁書です。現国王デウス・ラビアスはあなたの日頃の行いにお怒りです。日付は今日、しっかりとサインもあります。エクス兄様…あなたは今日この時をもって国王から縁を切られたんです。継承権を剥奪されたんですよ」


そう告げるとようやく現実に戻ってきたのか顔を真っ青にして二人の顔を見る。お母様は申し訳なさそうに目を逸らし、お父様は軽蔑したような眼差しでお兄様を見ている。…きっとあの瞳にはワタシも写っていたことだろう。


「マ、マキナ!!」


お兄様はこちらに向き直ると突然マキナさんに向かって必死な表情で口説き始める。


「キミは僕を愛しているんだろう?ならこいつを説得してくれないか?なぁ、頼むよ!」

「…本当にバカな人。貴方のその値踏みをするような目に気付いてないとでも思ってらっしゃるの?貴方を愛したことなんてありませんわ。幼い頃から一度もね」

「コ、コトカくん…!」

「うっせぇ触んな!前から気に入らなかったんだ、自分が困った時には助けられて当然みたいな顔してありがとうの一つもない!そのくせちょっと頼ったらダルそうな顔しやがる!周りの人間のことを都合のいい道具扱いすんじゃねぇよ!」


コトカさんの蹴りがお兄様の顎に入りドサリと倒れこむ。…絶縁されたとはいえ、王子を蹴るなんて大胆ですわ…。


会場が静まり返る中、コトカさんはマキナさんの手を取ってワタシの元へ向かってきた。


「行こう、ユージーン!やっぱりあたし、こんな堅苦しいパーティーより二人とパーティーしたい!」

「私、今はお友達と卒業をお祝いしたい気分ですの。お付き合いくださる?」


二人は笑顔でワタシに手を差し出してくれる。

…あぁ、どうしてここにトモキさんがいないのかしら。この二人の気持ちを受け取っていいのは彼女のはずなのに。

少し罪悪感を覚えながら、ならせめて彼女らしくとワタシは答えた。


「…どこまでも、エスコートしますわ。麗しいお姫様達」


ーーー


パーティーを終えたワタシは疲れと緊張の糸が切れたせいか気がつかないうちに眠っていた。


ふと目を覚ますとあの真っ暗な空間だった。

そこにはあの水鏡はなく、ただポツンと手紙が置いてあった。白に花柄の模様があしらわれた便箋には、こう書かれていた。


『ユージーンさんへ

まずは突然いなくなってごめんなさい。

あのドレスが目の前で破かれた瞬間、今までのことがフラッシュバックしてしまったんです。

自分が男に生まれてこなかったこと。それが原因でお母さんが苦しんでいること。おばあちゃんに、自分の全てを否定されたこと。 

嫌な記憶に耐えられなくて、倒れた後はここであなたのことをずっと見ていました。

ゲームの中とは違う展開になってしまってどうなるかと思ったけど、


それでもあなたはカッコよかったです。

都合のいい綺麗な言葉だけ並べていた私なんかより、ずっと、ずっと。


マキナさんとコトカちゃんに対して好感度が上がるようなセリフばかり言ってたのに、二人はいい人だから私のことを親友って言ってくれて、嬉しかったことより罪悪感の方が強かった。

ゲームの中で本当の姿を曝け出し、なお凛々しかったあなたのようになりたかったけど、私にはできなかった。

だって嘘ばっかりついて生きてきたから。都合がいい存在として振る舞っていたから。


私は、私が救われたあなたになりたかった。



でも、そう考えるのはもうやめます。

水鏡で見たあなたは、あなたの世界を自分の足で歩いていたんです。ゲームの展開やシナリオなんかに左右されない生き方で。

だから私も、誰にも左右されない生き方をします。大切な人を守り、自分を愛し、ちょっとだけ髪を伸ばします。


そしていつかは、あの破かれる前のフリルドレスが似合う女性になりたいと思います。


離れた場所にいても、あなたを愛しています。

ありがとうございました。


有我友喜より』



顔を上げると、遠く遠くの方に僅かに光が見える。

きっと彼女は元いた世界に帰ったのだろう。生きていてなによりだ。


「…トモキさん…」


寂しいと震える心を薄く滲んだ手紙と一緒にギュッと抱きしめる。


ワタシの方こそありがとう。何もできなかったワタシに勇気をくれたのは紛れもなくあなたよ。


「愛しているわ、トモキさん…」


そう呟き、目を閉じる。


目を覚ますとコトカさんとマキナさんが朝ごはんを作りながら朝日に照らされていた。

もうあの真っ暗な空間には戻らないのだろう。そう確信したワタシは髪をテッペンで結い、二人に声をかける。



「おはようございます!」



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