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最強執事と第三皇女~異世界だと思っていた世界は、実はゲームの世界だった~  作者: シン
第1章

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第36話 二人のガチケンカ

 「あ、戻ってきた! 遅いよ〜〜〜!」

 

執務室の前では、クウが俺の帰りを今か今かと待ち構えていた。

そして、クウだけでなく、もう一人ネルまで待っていたことに俺は少し驚く。

 

小柄な少女が、自分の体よりも大きな浮遊大剣の面を枕にして器用に眠っていた。

彼女こそ、団員ナンバーXIVフォーティーンのネル。浮遊する大剣こそが、彼女の人造神器(レブリオン)である。

 

「だんちょうさん……お帰り……」

 

ネルはそう呟くと、再び眠りに落ちた。

その様子にクウが眉をひそめ、強い口調で怒る。

 

「眠いならこんなところにいるな! あるじに失礼!!」

 

「……うるさい」

 

ネルがぼそりと反論し、二人の間に火花が散る。

 

(相変わらずだな)

 

俺は心の中でため息をつく。

この二人は昔から仲が悪く、顔を合わせれば喧嘩が始まる。そして、喧嘩の行き着く先は決まって戦闘だ。

 

「修練場に来い!! 決着をつけてやる!!」

 

「望むところ……」

 

いつもの流れだ。

すぐ止めても後で爆発するだけなので、俺は適度にガス抜きさせてから止めるといういつもの方針で、二人の後をついていくことにした。

ナナカは仕事があるため執務室に残った。

 

俺はため息をつきながら別館の修練場へ向かう。

 

「あるじがねぼすけのせいでため息ついてる! 謝れ!!」


「それはイヌッコロのせい……」

 

「何を!!」

 

(お前らのせいだよ……)

 

俺は心の中でだけツッコミを入れた。

道中ずっと喧嘩を続ける二人の背中を見ながら、早く終わらないかと願うばかりだった。

 

修練場に着くと、そこは昔と変わらず、白い石のタイルで覆われた巨大な静謐(せいひつ)空間だった。

 

俺は壁に寄りかかり、二人の言い争いを眺める。

 

「今日こそ決着をつけてやる!!」

 

クウは腰のガントレット――鋭い爪を備えたヴァナルガンドクローを装着する。

それが彼女の人造神器(レブリオン)だ。

 

「それは、こっちのセリフ……」

 

ネルは浮遊大剣から軽やかに飛び降り、手をかざすと大剣がふわりと手元に収まる。

彼女の人造神器(レブリオン)、グラウィターティオエンシスマグヌス。

 

静寂が満ちた瞬間、戦いの火蓋が切られた。

 

最初に動いたのはクウだった。

 

「グワゥゥゥ!!」

 

右手の爪に魔力を込め、斬撃を飛ばす。獣人族特有のスキル爪斬撃(そうざんげき)

ネルは迫る斬撃を大剣の面で受け止めた。

 

「単調だね……」

 

ネルは細い腕で、自分の体より大きな大剣を軽々と持ち上げる。

彼女のユニークスキル『超剛力』が常時筋力を強化しているからだ。

 

ネルは続けて特殊技を発動する。

 

「第二 グラウィターティオキルクムスタンス」

 

人造神器(レブリオン)のコアが青く輝き、ネルの周囲にあるタイルが浮き上がる。

次の瞬間、タイルは勢いよくクウへと射出された。

 

クウは爪斬撃(そうざんげき)でタイルを切り裂くが、その刹那、ネルが距離を詰め、大剣を横薙ぎに振るう。

クウは右腕のヴァナルガンドクローで受け止めようとするが、かち合った瞬間、衝撃でクウは壁に叩きつけられた。

 

「グゥッ……!」

 

ネルの人造神器(レブリオン)は重力に由来するもので、クウが壁に叩きつけられたのは重力による力だ。


人造神器(レブリオン)には爆発型と発電型があり、それぞれ特徴が異なる。

 

爆発型は解放技と全解放技があり瞬間火力が出せる。 一方で発電型は蓄えた魔力を消費して発動する特殊技を前提としているため全解放技はなく解放技しかない。 もちろん両方にそれぞれデメリットがある。 爆発型は技の発動後、コアが劣化するため個体差はあるが連続使用には制限がある。 発電型は瞬間火力ではなく常に少しずつ魔力を生成して蓄えているためコアの劣化はほとんど起きないが蓄積した魔力量が不足している場合は威力が低下したり、技そのものが発動しないことがある。


瞬間火力の爆発型と、持続火力の発電型、戦いはその構図だった。

 

「解放」

 

壁に叩きつけられたクウが呟くと同時に、獣化スキルを発動。

黒と白の毛を持つ巨大な狼へと変身し、ヴァナルガンドクローは大剣へと姿を変え、口に咥えていた。

 

「ようやく本気……出したね」

 

ネルは鼻で笑う。

 

クウの体と大剣に黒い稲妻が纏い、稲妻のような速度でネルの周囲を駆け回る。クウはネルを撹乱させつつ襲い掛かる。

二人は大剣同士の激しい打ち合いに突入した。

何度も繰り返される撹乱と攻撃に、ネルは徐々に痺れで動きが鈍り疲弊して行く、しかし、クウも徐々に稲妻が弱まって行く。

 

おそらく、ネルが大剣の特殊技を使わないのはコアの魔力切れが近いのが理由なのだろう。ネルは普段から楽をするため浮遊する大剣の上に乗っているからその分、魔力を消費している。


 その一方でクウの稲妻が弱まっているのは人造神器(レブリオン)が爆発型なので体と大剣に纏った黒い稲妻が攻撃と移動の度に徐々に消失して行っている。

 

「負けない……」

 

ネルは少し必死そうに小さな声でそう呟く。

 

ネルが解放技を使おうした次の瞬間、それを察知したクウも全解放技を使おうとした。

 

「解……」

 

「全解……」

 

このままでは危険だと判断した俺は、大声で制止した。

 

「ストーーップ!! 二人ともそこまでだ!! いい加減にしろ!!」

 

「でも……」

 

「まだやるもん」

 

「でもじゃない。やらんでいい」

 

不服そうな二人を俺はあしらうが、二人は納得しない様子で渋々武器を収める。

あの場で止めなかったら両者とも全力のぶつかり合いになり二人共ただでは済まなかっただろう。

俺はホッとして大きく息を吐いた。

 

しばらくすると、ネルとクウの戦闘で破壊された修練場の壁や床のタイルが魔道具の力で徐々に修復されて行った。

 

そこへ、セリナと見慣れない団員が修練場へ入ってきた。

 

「何があったんですか!!」

 

「これは一体……」

 

修練場の惨状に二人は目を丸くする。

俺は尚も言い争うネルとクウをよそに佇んでいる二人へ歩み寄った。

 

「セリナと……隣の君は初対面だよね」

 

俺が声を掛けると彼女は少し緊張した様子で名乗った。

 

「はい。団員ナンバーLIフィフティ・ワンのセリーゼです。セリナと同じ時期に入団しました。話はセリナから聞いています。よろしくお願いします、団長」

 

「よろしく、セリーゼ」

 

「はい。……ところで、ここで一体何があったのですか?」

 

恐る恐る尋ねるセリーゼに、俺は親指で後ろを指した。

 

「見ての通り、あの二人の喧嘩だ……」

 

「「ああ〜なるほど……」」

 

二人は同時に納得したように頷いた。

 


次の投稿は3月になります。


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