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裏話 聖女セシリアの治療院での出来事

 少し前に遡り、聖女セシリアが治療院の中へ入って行く所へ遡る。


「すみません」


 セシリアは治療院の扉をノックし、声を掛けてから中へ入った。

 治療院の中は沢山の長椅子が並び、そこそこの人数が長椅子に座っていた。治療院は大きくも小さくもなく、日本の現代の病院のような雰囲気を出していた。


 セシリアが受付に近づくと、職員が気づいて声をかける。

 

 「こんにちは、今日はどうされましたか?」


 セシリアは少し不安げに受付の人に治療院へ来た理由を話す。


 「こちらで研修員として病人を治療できると聞いたのですが……これが紹介状です。」


 セシリアはそう言って受付の人に紹介状を渡すと、受付の人は困った様子で紹介状を受け取った。

 受付の人は宛名と手紙の表に付いている印章(いんしょう)を見た瞬間、物凄く驚いた様子で話し始める。


 「すみません、あちらの椅子に座ってお待ちください」


 受付の人は長椅子の方を手で指すと、受付の人は慌てて奥へ行ってしまった。


 「どうしたのでしょう……」


 セシリアは受付の人の対応に少し戸惑いながら長椅子に座りおとなしく待っていた。

 セシリアは学園都市に来たばかりで知らなかった。セシリアが渡した紹介状に付いている印章(いんしょう)が騎士団のものであるということを。


 しばらくして、本を腰に携えシスターの服を着た年上のお姉さんと先ほどの受付の人が一緒に戻って来た。

 

 「あちらの方です」


 受付の人は手でセシリアを指すと、セシリアは急いで立ち上がった。

 

 「あら? 貴方が研修員になりたいと団長の紹介で来た人?」


 「団長? 私はレイ・ヨザクラという人の紹介で来たのですが……」


 女性はシンが正体を隠していることを察し、すぐに誤魔化した。


 「いえなんでもないわ。レイの紹介で来たのよね」


 「そうです」


 「まず貴方のことを聞きたいのだけど、立ち話もなんだし付いてきてもらえるかしら」


 女性はセシリアを二階の診察室へ案内した。


 「そこの椅子に座って」


 診察室に入り座るように言われセシリアは椅子に腰掛ける。


 「まずは、自己紹介からね。 私はここの治療院を運営しているリセシア」


 リセシアは自己紹介をしながらセシリアの目の前にある椅子に座る。


 「神聖システイム教国から来たセシリアです」


 「聞いているわ聖女セシリアさん」


 リセシアがセシリアの事をさん付けで呼ぶと、セシリアは静かに言う。


 「セシリアで構いません」


 「わかったわ。セシリアが研修員なりたい理由は紹介状に書いてあるから、セシリアが所持している患者の治療に使えそうなスキルを一通り教えてくれるかしら」

 

 セシリアは自身が所持しているスキルをリセシアに話した。


 「なるほど~その年で回復魔法レベル4とはなかなか高いね。それに所持している人が滅多にない神聖魔法を所持しているとは流石だね。」


 「ありがとうございます。ですがまだ神聖魔法のレベルは2なので……」


 セシリアは神聖魔法のレベルが低いのを少し落ち込んだ様子で言うと、リセシアはセシリアを励ました。


 「落ちこむ必要は無いよ、今持っている物を磨けばいいんだから、それに神聖魔法は大陸に一人いればいい方なんだから。診察スキルと一緒に経験を積んでいけばいいんだよ」


「はい、これからよろしくお願いします」


 セシリアは少し落ち着いた様子でリセシアに挨拶をすると、先程から気になっていた事を恐る恐るリセシアに尋ねる。


「リセシア様、先程から気になっていたのですが、その腰の本はもしかかして、創世の神システイム様がもたらした世界に五つしか無い神書の原書ですか!!」


「よく分かったね。そうだよこの本」


 セシリアは驚きのあまり食い気味に話す。


「なんてことを!! 世界に五つしか無い貴重な書物を持ち歩くなんて!! 大切に保管すべき書物なのに、もし、破損でもしたら!!」


 セシリアは神書の雑な扱いに少し怒り気味に話すと、リセシアは少し冗談交じりに笑いながら答える。


「落ち着きなよ。確かにこの本は大変貴重だけど私にとっては大事な仕事道具なんだから勘弁しておくれよ」


「……仕事道具?」


 リセシアの言葉に疑問を覚えると、次の瞬間、部屋の扉が強くノックされ、慌てた声が聞こえてきた。


「リセシア先生、急患です急いで来てください」

 

「話はここまでだ。 とりあえずついてきてくれ」


 リセシアはそう言って椅子から立ち、セシリアと共に急患の元へ向かった。急患は冒険者のようで、処置台に横たわる冒険者はすでに高熱と呼吸困難で意識が無い状態だった。急患を運んできた仲間の冒険者は慌てた様子でリセシアに何が起きたのか説明する。


 「魔物の討伐に行ったら突然、いるはずのない霧喰獣(むぐいじゅう)が現れて、俺の仲間が霧喰獣(むぐいじゅう)の吐き出す霧を吸い込んじゃって」


 「なるほど、 魔物由来の病気の霧喰い熱(きりくいねつ)だね、すでに呼吸困難まで症状が進行しているから急いで処置したほうがいいわね」


 リセシアはそう言って腰に下げた本を出すと、横にいたセシリア止めた。


 「ここは私にやらせてください」


 セシリアは自身が治療すると名乗り出た。しかし、リセシアはそれを止める。


 「いや、ここは私がやるよ。こいつが、仕事道具である説明は見せたほうが早いからな」


 リセシアはセシリアに本を見せてから患者の前に立ち栞紐(しおりひも)のある本のページを開いた。


 「第一 シェプフング・トレーネ」


 リセシアがそう唱えると、栞紐(しおりひも)の先に付いている人造神器(レブリオン)のコアが青く輝き、リセシアが人差し指を出すとそこから一滴の雫が患者へ落ちる。すると、患者の呼吸が徐々に落ち着いてきた。


 「これで、しばらく安静にしていれば時期に良くなります」


 「ありがとうございます」


 仲間の冒険者はリセシアに礼を言うと、リセシアは後のことを他の職員に任せ、セシリアと一緒に元の部屋に戻った。リセシアは椅子に腰を下ろし、神書をそっと机に置いた。セシリア不思議そうにリセシアへ尋ねる。


 「創世の神システイムの神書にはあのような効果はなかったはずですが……」


 「詳しいことは言えないがさっきのは、対象の免疫力と自然治癒力を大幅に向上させる効果を持っていてね。」


 リセシアは人造神器(レブリオン)の力の一端をセシリアに説明すると、少し驚いた様子だった。

 

「さて、給料の話がまだだったね。研修員といっても、治療院は学園都市の税金で一部が賄われているけど、働く人にはちゃんと報酬を払うよ」

 

「給料!! いりませんそんなの私はお金の為にやるのではありません!!」


 リセシアが給料の話をすると、セシリアは慌てて断る。


 「……いや、気持ちは分かるけどね。セシリア、これは施しじゃなくて契約なんだよ。あなたが働いた分の対価を支払うのは、雇う側の義務なんだ。」

 

「で、でも私は……!」

 

 セシリアは胸に手を当て、真剣な表情で言葉を続ける。

 

「聖女として、人を救うのは当然の務めです。そこにお金を貰うなんて……」

 

 その言葉に、リセシアはふっと息をついた。呆れたようでいて、どこか嬉しそうでもある。

 

「セシリア。あなたのそういうところ、嫌いじゃないよ。でもね――」

 

 リセシアは机の上に置かれた帳簿を指で軽く叩いた。

 

「薬草も、包帯も、治療院の維持費も、全部タダじゃない。あなたが無償で救いたいと思うなら、そのために必要なものを揃えるお金は、どこかから出さなきゃいけないんだ。」

 

「……っ」

 

 セシリアは言葉を失う。理想と現実がぶつかり合う音が、胸の奥で響いた。

 

 リセシアは優しく微笑む。

 

「あなたが受け取る給料は、あなたの善意を売る代金じゃない。あなたが救える人を増やすための力だよ。」


 セシリアの瞳が揺れた。


 「わかりました。」


 セシリアはリセシアに説得される形で給料を受け取る事を了承した。

 

「さて、話の続きだ」

 

 リセシアは机の引き出しから書類を取り出し、セシリアに見せる。

 

「研修員として働いてもらう以上ルールがある。治療院の規則を守ること、勝手な治療行為は禁止、危険な患者の処置は必ず上の治療師の立ち会いが必要、この三つだね」

 

 セシリアは真剣に頷いた。

 

「はい、わかりました」

 

「それと……セシリアの神聖魔法は、正直言って貴重すぎる。だから、研修員とはいえ、してもらう事が通常の研修員よりも多いから、給料も普通より少し高いよ。時給で銀貨一枚だね」

 

「えっ、そんなに貰えません」

 

 リセシアは困った様子で言う。

 

「未熟でも神聖魔法を使えるというだけで価値があるんだよ。それに、さっきの急患を見たろう? 魔物由来の病気は普通の回復魔法じゃ治らないことも多い。神聖魔法はそういう時に強い」

 

 セシリアは少しだけ胸を張った。

 

「……頑張ります」

 

「うん、その意気だ。じゃあ今日から正式に研修員だよ。制服と識別証を渡すから、明日からはそれを着て来ておくれ」


 こうして、聖女セシリアは治療院で働くことになった。

すみません次回の投稿は2月の上旬になると思います。


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