第34話 懐かしい騎士団本部
食堂で皆と朝食を済ませると、一限の授業に参加するため自分の教室へ行く。教室に入ると数人の生徒がすでにおり雑談をしていた。教室に来た俺達は席に座る。俺は席に座ると、鞄から歴史学の教科書を取り出し、机の上に置いた。すると皐月が何やら疑問があったようで、俺に尋ねて来た。
「レイ、聞いてもいい?」
「どうした?」
「入学して最初の授業がどうして歴史学なのか疑問に思って。レイは理由を知ってる?」
「ああ、知っているぞ」
俺はそう言うと、皐月に理由を話し始めた。入学して最初の授業がどうして歴史学なのか、それはこの学園都市が出来た理由に関係する。その事を説明すると、歴史学の担当教員が教室に入って来る。
「みんな席について、出席をとるわよ」
そう言う担当教員の彼女は俺が見知った人だった。彼女は教室を見渡し、俺の事を見ると驚いた様子で、しばらくの間、俺を見つめていた。
どうやら彼女には俺の変装がバレて居るらしい、彼女は騎士団所属の団員ナンバーXXXII、名前はルナ。
「先生?」
生徒に声をかけられると彼女は咳払いをして、改めて話し始めた。
「済まないわね。自己紹介がまだだったね。私は、ルナ。非常勤講師よ。よろしくね」
ルナは簡単に自己紹介をすると、生徒の出席を取り始めた。出席確認が終わると、簡単に今後の授業の説明を行い、今日の授業に入った。
「今日の授業はミスリル戦争の所をやるよ」
ルナがそう告げた。
ミスリル戦争とは、今から約300年前、現在の学園都市周辺で勃発した戦争であり、「剣聖」の名が広く知られるきっかけとなった出来事の一つでもある。
この戦争の発端は、領土の境界線が曖昧だったことにある。学園都市が位置するこの地域は、周囲を川に囲まれており、東にラタトス王国、西にベルファルス帝国が隣接していた。両国は川を国境としていたため、この地域はどちらの国にも正式には属しておらず、街道からも外れた辺境であったことから、長らく両国とも領有権を主張することはなかった。
しかし、当時この地域には四つの村が存在し、それぞれ異なる国の庇護を受けていた。そんな中、ある村がミスリル鉱石を発見し、それを庇護国であるラタトス王国の貴族に報告した。ミスリルの存在を知ったその貴族は、すぐに人員を派遣して鉱山の採掘を開始。掘れば掘るほどミスリルが出てくる豊かな鉱脈だったが、辺境ゆえに人手が足りず、近隣の村からも労働力を集めようとした。
問題は、その近隣の村がベルファルス帝国の庇護下にあったことだ。ラタトス王国の貴族はその事実を把握せず、半ば強引に村人たちを連行してしまった。だが、運よく逃げ延びた村人が一人おり、ベルファルス帝国の貴族に事の次第を報告した。
もしミスリル鉱山の存在が知られていなければ、帝国側も動かなかったかもしれない。辺境の村人のために兵を動かすほどの価値はないと判断された可能性が高い。しかし、ミスリル鉱山の存在が明らかになったことで状況は一変する。村人救出という大義名分のもと、帝国は鉱山の奪取を目的に軍を動かした。
ここまで聞くと、俺はラタトス王国の貴族が悪いと思うが、授業では強引に村人たちを連行した件は教えない。言うまでもないがその事を言うと両国のどちらが悪いかで激しい口論になるからだ。だから授業では誤魔化して説明する。
こうして戦争は始まり、次第に拡大していった。村人たちは否応なく戦火に巻き込まれ、戦場と化したこの地に新たな組織が誕生する。それが、現在の学園都市の騎士団の前身である。
当時の騎士団は、戦争に巻き込まれた村人たちによって結成された。構成員の多くは若い女性や幼い少女たちであり、彼女たちは平穏に暮らしたいそのために立ち上がったのだ。
戦争終結まで、実に八年の歳月が費やされた。ミスリル戦争は、学園都市の歴史に深く刻まれた、血と涙の記憶である。
「今日の授業はここまで」
ルナがミスリル戦争の説明を終えたところで、ちょうど授業終了の鐘が鳴り、歴史学の授業が終わった。
その後の授業も滞りなく進み、放課後となる。
「レイ、みんなで部室へ行きましょう」
アナが誘ってくれたが、俺には向かうべき場所があった。申し訳なさそうに断る。
「アナ、ごめん。放課後は行くところがあって、外出してくる」
「そうですか。では、また夜に」
そう約束して教室を後にした。正門で外出届を提出し、学園を出る。向かう先は――騎士団本部。
だが、その道中。広場の噴水に腰掛け、困った様子でため息をつく見覚えのある人物がいた。システイム教のローブをまとった聖女セシリアだ。
顔なじみでもあるため、声をかける。
「クラスメイトの聖女セシリア様ですよね。何かお困りですか?」
セシリアは少し驚いたあと、俺の顔を見て思い出したように言った。
「あなたは……確かレイ・ヨザクラ様」
「困っているように見えたので声をかけました。よければ話していただけませんか。力になれるかもしれません」
丁寧に言うと、セシリアは少し考えてから口を開いた。
「そうですね……実は、教会に行きたくて」
「教会ですね。では案内しましょう」
俺はセシリアを教会まで案内しようと、歩き出した。しかし、道中でセシリアがなぜ教会に行きたいのか不思議に思った。
この学園都市には多くの種族が集まる関係上、教会はあるが信仰する神を決めていないので、教会はシステイム教と関係がない為、セシリアが教会に行こうとする理由が俺には分からなかった。
セシリアがなぜ教会に行きたいのか気になり尋ねた。
「ところで、どうして教会に行きたいのか聞いても良いですか?」
「怪我人の治療がしてくて。どの教会も怪我人は一定数いますから、特に回復魔法では癒やすことが出来ない、病気に罹った方、それはどの教会もいますからそのような方の治療をしたいと思いまして」
「流石、聖女様ですね。でしたら行くのは教会ではなくて治療院ですね」
俺は聖女の言葉に関心しつつ、行く場所は治療院だと言うと、セシリアは足を止め立ち止まった。
「それは、どういうことでしょうか?」
俺は行く場所が治療院である理由をセシリアに説明する。
「この学園都市での教会の役割はあくまでも孤児院で、怪我や病気の治療は治療院が担っているんですよ。その代わり治療費は税金である程度負担しているので、条件はありますが安く済むのですよ。」
「なるほど……国民の負担を減らす良い制度ですね。それでしたら目的地を変更して申し訳ありませんが、治療院へ案内していただけますか?」
セシリアの言葉からは国民を案じている気持ちが伝わってきた。俺はさすが聖女だなと思いつつセシリアに笑顔で答えた。
「構いませんよ。ですが治療には資格がいるので治療院に行っても治療はできませんよ」
俺がそう言うとセシリアは肩を落として落ち込む。
「そうですか……ではどうしたら……」
落ち込んでいるセシリアに俺は励まそうと解決策を話す。
「安心してください、抜け道はありますから」
「ぬ、抜け道……? それは違法ではないですよね……?」
不安そうなセシリアに、俺は少し笑ってからセシリアに話す。
「安心してください、合法ですから。私の知り合いに治療院をしている人がいるのですが、その人に研修員として患者を治療できるよう手紙を書くのでそれを持って行って下さい」
「ありがとうございます。レイ様」
セシリアは先程までとは違い少しやわらかな表情で俺に礼を言った。
「礼には及びません」
俺は笑顔でそう言い、再び歩き出すと知り合いの治療院へ向かった。
治療院の前へ付くと、俺はアイテムボックスから紙とペンを取り出し、紙にセシリアを研修員として患者を治療させてもらえるように、その旨を書き記してセシリアへ渡した。俺はセシリアが治療院の中へ入って行くのを見送ると、俺は本来の目的である騎士団本部へ向かった。
俺は騎士団本部の門の前に着くと建物を見上げた。門には「騎士団本部」と書かれた縦看板があり、建物の外装は三百年前とほとんど変わっていなかった。その姿を目にすると、自然と当時の記憶が蘇るようだった。
騎士団は若い女性や幼い少女たちが始まりだった、今でもそれは変わらず女性だけの少数精鋭だ。だが設立した当時、村人である彼女たちは当然だが剣や武器など触れたこともなく、ある程度武器の使い方を教えたところで帝国や王国の兵士と渡り合うなど到底不可能だった。そこで当時の俺は学園都市辺りにある遺跡から古代兵器を手に入れ、古代兵器を百五十個量産して1つずつ彼女たちに持たせた。それが人造神器だ。人造神器は強力な技を繰り出せる武器で彼女たちに持たせた所、単騎で複数の熟練兵士と渡り合うほどの戦力強化に繋がった。
しかし、人造神器を彼女たちに持たせた俺の判断は正しかったのか、俺は今でもわからない。違う方法があったのではないかと考えてしまう。そうすれば彼女を失わずに済んだのではないか、そんな後悔が胸を刺す。
「懐かしいな……」
思い出に浸りながら門をくぐり、本館へ向かう。俺は本館の扉に手をかけると、謎の寒気がした。俺は嫌な予感がしつつも扉を開けて中へ入ると、ドタバタと足音とが聞こえて来ると次の瞬間。
「あるじ~~~~~」
その嬉しそうな声とともに勢いよく飛びつかれ、俺は床に倒れた。
「あるじ会いたかった~~~」
黒色の髪に白色の髪の毛が混じった彼女は狼の耳をピクピク動かし、尻尾を振りながら俺の上に乗り顔を舐めまわす。彼女は団員ナンバーXIIIのクウ。俺は笑いながらクウに声を掛ける。
「よせ、顔を舐めるな」
「あるじ、あるじ、あるじ」
嬉しそうに俺の顔を舐めるクウに、俺はなぜかほっとした。そして、クウに優しく言った。
「ただいま」
俺の言葉にクウは顔を舐めるのをやめて、嬉しそうな笑顔で答えた。
「おかえりあるじ」
その後も暫くの間、クウは俺の顔を舐め続け、俺の顔がよだれまみれになったところで、俺の顔が違うことでに気づいた。
「あるじ?匂いはあるじなのになんで顔が違うの?」
俺はクウに言われて変身スキルを解いて元の姿に戻る。
「誰ですか貴方は?」
突然声をかけられ、俺は驚いて肩を震わせた。それもそのはず。小柄な少女が俺の上に跨ってのているこの状況、第三者が見たら通報待ったナシだ。俺は弁明しようと声が聞こえた方を見ると、中央の階段から鎧の下に着るインナー姿の少女が驚愕の表情でこちらを見ていた。
「待って俺は……」
言いかけた瞬間、彼女は大声で悲鳴を上げた。
「キャーーーーー! 男の人がいるーーー!」
(え……そこかよ!!)
そう、騎士団の建物は、逮捕した犯罪者を裁く手続きを行う一号館を除き、基本的に全館男子禁制だ。約一名を除いて。
俺は悲鳴を上げられて焦りながら慌てて、この状況を説明しようとした。
「待って俺はこの騎士団の……」
俺が言いかけたところで出入り口の扉からルナが入って来た。ルナは悲鳴を上げる彼女とクウに押し倒される俺の状況を見て察したのか大きなため息をついてジト目で呆れたように言った。
「入口で何をしているんですか? 団長……」
「これはその……」
俺はルナにどう説明しようか迷っていると、ルナは悲鳴を上げる彼女に声をかける。
「貴方も落ち着いて」
ルナが彼女に落ち着くよう声を掛けると、彼女はルナの方を見て少し落ち着いた様子で話す。
「先輩……男の人が……」
「落ち着いて、この人がこの騎士団の団長だよ」
「え……えーーーーー!」
彼女の驚きの声が建物中に響いた。その後は俺に跨るクウを押しのけて起き上がったが、クウは俺の腕に嬉しそうにしがみつく。俺は仕方なくその状態で騎士団に来た理由を話した。
「なるほど、その件で来たわけですか……」
俺は少し気まずそうに、ルナから目を逸らして、自信なさそうに彼女へ自己紹介を始めた。
「自己紹介がまだだったな。俺はシン。一応、騎士団長ということになっている。……まあ、団長らしいことは300年間何もしてないけどな」
「私は団員ナンバーLIIのセリナと言います。先程は失礼な態度をとり、すみませんでした。騎士団長がまさか男性の方だとは知らなくて……」
セリナは申し訳なさそうに何度も頭を下げて俺に謝った。俺は申し訳なさそうに謝るセリナにフォローの言葉をかける。
「騎士団は女性しかいないから正常な反応だと思うよ。」
「セリナは2年前に騎士団へ入ったばかりの新人なので、団長あとでセリナの稽古をお願いします。昔やっていた新人の洗礼をね」
ルナはニヤリと笑いながら言うと、セリナは団長にどんな洗礼を受けるのか震えながら恐れていた。
俺はどんな洗礼を待っているのか恐れるセリナを見て冗談混じりに笑いながら答える。
「そんな恐れるほどの事は無いよ。たぶんね……」
俺はそう言って右腕に抱きつくクウと一緒に副団長もとい代理団長の執務室へ向かった。
セリナはシンが最後に言った。たぶんねの言葉に唾を飲み込んでシンが立ち去るのを見守った。
「あるじ~~~遊ぼうよ~~~」
俺は右腕に抱きつくクウと一緒に代理団長の執務室へ向かい廊下を歩いていた。その道中、クウは久しぶりに俺が会いに来たからか一緒に遊ぼうとずっと駄々をこねていた。俺は駄々をこねるクウを諭すように言った。
「忙しいからまた今度ね」
「え~~~絶対だよ」
そんな何気なく、懐かしさもある会話を繰り広げている間に代理団長の執務室の前に到着した。クウは俺の腕を離した。どうやら話が終わるまで部屋の外で待つようだった。俺は部屋の前に立ち止まり唾を飲んだ。俺は何も言わず彼女の前から居なくなり、ある日突然用事があり戻って来た。彼女が怒らないわけがない。
(あいつ、すごく怒ってるんだろうな……)
そんな申し訳なさが俺の心にあった。それと同時に逃げたい気持ちもあったが、向き合わなければならない。覚悟を決めて扉をノックする。
「どうぞ」
俺の耳には懐かしくて優しい、そんな声が執務室の中から聞こえた。
扉を開けるとそこには、クリーム色の金髪に、エメラルドのような瞳を持つ女性が鎧姿で机の前に立って、俺の方を見ていた。そして、彼女は優しい声で言った。
「お帰りなさい。団長」
少し安心したように微笑む彼女。
団員ナンバーII、副団長。
そして、団員ナンバーゼロである俺の代理を務める――ナナカだった。
投稿が遅れてすみません。友人がコミケに出店するのですが、イラストのアシスタントで忙しくて投稿が遅れました。
今回はクリスマススペシャルということで話が長めになっています。
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