第23話 クラス分け試験当日
あれから翌日、エルセリアの話によると、捕らえた三人組はどうやら何も知らされていない雇われただけの下っ端だったようだ。事件の捜査が進展しないまま、数日が過ぎ、トウリス第二学園のクラス分け当日が、ついにやって来た。俺は前日のうちに姫様のいる屋敷近くの宿を確保し、当日の早朝、俺は鏡の前で姿を整える作業に追われていた。
「ステラ、どう?」
「うーん……」「目の色……」「もうちょっと濃くてもいいかも」
俺は地球で手に入れたゲーム雑誌を参考にしながら、スキル《変身》を使って少しずつ容姿を調整していく。
「よし、準備完了」
「マスター……」「メガネ似合ってる」
「ありがとう」「ステラも制服、よく似合ってるぞ」
俺が制服姿のステラを褒めて頭を撫でると、ステラは少し嬉しそうに俯いた。ちなみに俺がかけているのは、伊達メガネであり魔道具だ。透視、暗視、熱源探知、光魔法のスキルが付与されており、その他にも望遠の機能がついているすぐれものだ。特に光魔法のスキルに関しては、メガネから光線を放てるというロマン満載の仕様になっている。威力はそこそこだが、これは心をくすぐる夢機能なのだ。
「ステラ」「そろそろ行くぞ」
俺はステラに声をかけ、姫様のいる屋敷へと向かった。
その道中、ステラがふいにマスターと口にしようとしたので念のため、釘を刺しておいた。
「ステラ、俺の名前間違えないようにしてくれよ?」
ステラは一瞬きょとんとした表情になったが、すぐに小さく頷いた。やがて屋敷の門前に到着すると、俺は胸元からヨザクラ家の紋章を取り出して門番に見せた。事前に紋章の持ち主は通してよいと伝えてあったため、門番はすぐに門を開いてくれた。門がゆっくりと開かれていく中、ステラは物珍しそうに門の装飾を見つめていた。その横顔を見ながら、俺はふと(アナスタシア様はもう準備を終えているだろうか)と考えていた。
屋敷の門を抜け、広々としたエントランスホールへ足を踏み入れると、ちょうど階段を降りてくるアナスタシア様とエルザがいた。アナスタシア様は制服に身を包み、髪にはアルフォンス皇帝陛下とイレイナ皇妃から贈られた髪飾りをつけていた。いつもとは違う可愛さが漂っていた。
俺とステラは礼儀を重んじて、すぐさま軽く一礼し、それぞれ丁寧に自己紹介をした。
「はじめまして、アナスタシア様、エルザ様……」「妹のステラ・ヨザクラです」
ステラは、いつも通りマイペースに、どこか緊張感の薄い調子で名乗りを上げた。
「はじめまして、兄のレイ・ヨザクラです」
俺は軽くお辞儀をして名乗りを上げた。その瞬間、エルザの視線が、鋭く俺を射抜いたように感じる。どうやら彼女は、最初から俺に強い警戒心を抱いているようだった。俺の挨拶が終わると、今度はアナスタシア様がふわりと微笑みながら言葉を紡いだ。
「こちらこそ、はじめまして。私はベルファルス帝国、第三皇女、アナスタシア・エルメス・ベルファルスです」「アナと呼んでください」「砕けた話し方で構いませんよ」
「分かった……」「よろしく、アナ」
ステラは気負いのない口調で、あっさりとした挨拶を返した。
いくら砕けた話し方でいいとは言われていても、その言葉のラフさには、俺も少しハラハラしてしまう。
(砕けすぎだろ、ステラ……)
そんな内心の動揺とは裏腹に、ステラはいつも通りのマイペース。どこ吹く風、といった顔でアナスタシア様を見ていた。そこへエルザが、控えめながらもきっぱりと声をかける。
「姫様お時間です」「そろそろ馬車へ……」
エルザがそう告げると、俺達は表に用意された馬車へと乗り込んだ。馬車に揺られながら、アナとステラは楽しそうに会話を交わしていた。その笑顔を見て、俺は自然と頬がゆるみ、温かい気持ちで二人を見守っていると、エルザもまた、普段は見せない柔らかな表情でアナを見守っていた。しばらく馬車に揺られていると、クラス分け当日だからなのか、学園都市の通りはどの道も馬車で溢れていた。学園側も混雑を予想していたのか、一部の生徒が交通整備を行っており、馬車の誘導に追われていた。ようやく俺たちの馬車が校門前に到着し、順に馬車を降りると、エルザも後に続いて降り、お辞儀をして言った。
「行ってらっしゃいませ」「姫様、ステラ様、レイ様……クラス分け試験、頑張ってください」
「行ってきます」「エルザ」
アナは元気よく笑顔で答え、ステラは相変わらずマイペースに、ぽつりと言った。
「頑張る……」
最後にエルザは、俺の方をじっと見た。その視線に何かを託されたような気がして、俺は言葉を返す。
「任せください」
俺がそう告げると、エルザを乗せた馬車はゆっくりと動き出し、去って行った。
さて話は、クラス分け試験のことになる。
試験は選択式で、武術・魔法学・語学・数学・歴史学・政治学・薬学・錬金学の計8科目のうち、任意で5つを選んで受験する形式だ。武術と魔法学は実技試験で、それ以外の科目は筆記試験になる。それぞれ異なる科目を選ぶことになるため、同行者の試験時間がずれることはあるが護衛ができなくなるわけではない。筆記試験中も、護衛は隣で待機することが可能だという。俺たちのような立場の者にとっては、ありがたい配慮だった。
俺たちは、案内役の生徒の指示に従って移動を始めた。初めに受けるのは筆記試験なので、指定された教室へと向かうことになる。その道中、皇族であるアナが同行していることもあって、周囲の視線は驚くほど鋭かった。学園の廊下に立つ生徒たちは次々と足を止め、こちらを見ていた。そして、アナのすぐ隣に知名度ゼロの俺とステラが並んでいることで、注目度はさらに跳ね上がった。ざわつく空気。ざっくりと交わされるささやき。
「誰?」
「あれ、皇女殿下の付き添い?」
「あのメガネ何者?」
そんな視線の嵐の中を、俺達は歩いて教室へ向かった。教室に入ると先程と変わらない視線の中、俺達が席についた直後、試験官が教室へ入室し、静かに試験形式の説明を始めた。試験官の掛け声とともに試験が始まった。
「試験開始」
俺は試験開始の合図を聞くと、答案用紙を開き、選択した五科目の筆記試験である語学、数学、歴史学の問題を解き始めた。まず取りかかったのは数学。足し算・引き算・掛け算・割り算が中心の計算問題が並び、難度は低めだと即座に判断できた。式を書き終えると、すぐに次へと移動する。
続いて歴史学。この大陸の過去数百年の出来事を問う設問は、300年の寿命を生きる俺にとって問題文を追うだけで答えが頭に浮かび、迷うことはなかった。
三番目は語学。諸言語の文法や語彙を問う内容だが、スキル《言語理解》があるので戸惑いなく解答欄を埋めていった。解答を終えると、さっと自分の答案を見直し、試験官に提出した。これで俺の筆記試験はすべて終了し、俺は席に戻った。アナとステラは実技試験で魔法学を選択したため、筆記科目はアナが政治学、ステラが薬学と残り一科目を受けている。俺はそっと席に戻り、二人の筆記試験終了を待った。しばらくして二人が答案を提出し終えると、俺たちは魔法学の会場である魔法修練場へと向かった。
「レイは筆記試験どうでした?」
俺は迷うことなく答えた。
「それほど難しくはありませんでしたね」「アナはどうでした?」
アナは少し悩んでから苦笑いして答えた。
「政治学の問題で少し……」「悩みましたが、なんとか」
俺はその言葉に納得した。俺は政治のことは専門外なので問題を解けるアナに思わず感心した。そんな会話を交わしながら歩いていると、やがて魔法修練場に到着した。広い練習場にはすでに多くの受験者が集まり、各自が的に魔法を放っていた。
2日ほど遅れてしまいすみませんでした。次の投稿は1週間後です。
よろしければ、ブックマークに追加の上、「☆☆☆☆☆」で評価して続きをお読みいただけますと幸いです。




