表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

第20話 人探しと、人攫い

「この場所に来るのも久しぶりだな」


 そう言う俺はアナスタシア様を探すために、トウリス学園の城門前に訪れていた。


 トウリス学園の敷地は三つの塀によって区切られている。

 貴族が通い、政治や経済を学ぶ トウリス第一学園。平民などが通い、読み書きや多様な技術を習得するトウリス第二学園。そして、学園都市全体を統治する 城 がある。基本的に学園長は城にいるため、城を訪れればたいてい会えるのだ。


 俺が城を見上げていると、若い門番が俺に鋭い視線を俺に向けて近づいて来ると強い口調で言い放った。


 「何の用だ、用がないなら立ち去れ!」


 俺はアイテムボックスから金でできたペンダントを取り出した。それには精巧な紋章が彫られ、中心には宝石が埋め込まれている。俺は若い門番にペンダントを見せながら言った。


「学園長のエルセリア会いたい」


 そう、このペンダントはエルセリアが開発したもので、登録された所有者の魔力に反応して光る仕組みになっている。300年前から貴族の身分証明として使用されてきた。

 

 俺はペンダントの紋章を若い門番に見せたが若い門番は、その紋章の事を知らないのか気にも止めなかった。


「何だこれは」「用がないならたち……」


 若い門番がそう言いかけた所で丁度、先輩門番が城の中から出てきた。先輩門番は俺の顔と光る紋章を見ると顔面蒼白になり勢いよく門番を叱責した。


「馬鹿者、この人を誰だと思っている!」「申し訳ありませんシン殿この者は新人で」


 先輩門番は若い門番と一緒謝ると、俺は少し笑いながら謝罪を受け入れた。

 

「いいよ、間違えは誰にでもある」「それに、同じ間違いをした奴が昔いたからな」


 俺は少し嫌味ぽくそう言うと、先輩門番は少し恥ずかしそうに答えた。

 

「お恥ずかしい話です」


 そう、先輩門番がまだ若い頃、同じ事をして当時の先輩門番に同じ様に叱責されていたのだ。


「その門番も、今では立派な門番だ」


 俺は先輩門番を見てそう言うと城の門を門を潜り、城の中を小走りして、エルセリアの執務室へ向かった。俺が部屋へ着き中に入ろうと扉をノックすると、部屋の中から学園長であるエルセリアの声が聞こえた。


「シンだエルセリアいるか?」


「おるぞ、今手が離せないから勝手に入って来てくれ」


 俺はエルセリアに促され、扉を開けて部屋へ足を踏み入れた。そこには白い髪をなびかせ、毛先に黄緑色の輝きを帯びた幼い姿のエルフが座っている。そう、この人物こそが学園長、エルセリアだった。


 彼女は机に向かい、静かに書類仕事をこなしている。その小柄な体と幼い容姿とは裏腹に、醸し出す雰囲気には確かな威厳が感じられた。


「久しぶりじゃなシン、10年ぶりくらいか?」「今日は何の用じゃ?」「学園への入学までばしばらくあるが……」


 エルセリアはペン書類仕事をしながら俺には目もくれず忙しそうにしながら俺に話しかけた。


「今日は入学の話しではなくて、姫様が屋敷から抜け出し、居なくなってしまった」「アナスタシア様を探して欲しい!!」


 俺は頭を下げてエルセリアにお願いした。エルセリアはペンを止め、深いため息とともに頭を抱えた。


「次から次へと厄介事が………」


 俺は、頭を抱えるエルセリアへ申し訳なさそうに言った。

 

「すまん……」


 エルセリアは申し訳なさそうに言う俺を見てふっと息をつくと直ぐに気持ちを切り替え、真剣な表情で答えた。

 

「よい……」「ただし、アナスタシア様を探す変わりに、わしの厄介事を片付けて欲しい」

 

「話しを聞こう……」


 俺がそう告げると、その後のエルセリアの仕事は早かった。エルセリアはアナスタシア様が向かいそうな場所を俺に尋ねると、一枚の紙を取り出し、何やら書き始めた。エルセリアは書き終えると、その紙を筒状に丸め蝋封を施し、ベルを鳴らし使用人らしき者を呼び出すと、その筒状の紙を冒険者ギルドへ届けるよう指示を出した。


 「それで頼みたい内容じゃが……」「ここ1ヶ月、都市内で人攫いが増えておるのじゃ」「さらに言えば学園都市の領地内でも人攫いが起きている」「領地内の人攫いに至っては3ヶ月前からだ」「少しずつ増えており頭を抱えておるのじゃ……」


 どうやら、エルセリアの話によると見回りや警備を増やしたりしても、進展がないそうで、高ランク冒険者に調査もさせているらしいがこちらの方も進展がないそうでお手上げ状態とのこと。


 「なるほどな……」「攫われた人に何か共通点はあるか?」

 

 俺がそう尋ねると、エルセリアは難しい顔をして考え込んだ。エルセリアは攫われた人の共通点が思い浮かばなかったのか、攫われた人の情報が書かれた紙の束を机の上に広げ、俺の方を見て言った。

 

「攫われた人の共通点は、全員が女性で年齢が20歳以下であるという共通点以外は、これと言ってないのう」


 俺は紙の束を手に取り、一枚ずつめくりながら攫われた者たちの特徴をじっくり見た。


「分かった調査する」「それと、このリストもっらってもいいか?」


 俺は手に持っている攫われた人のリストを持っていっても良いかエルセリアに尋ねると二つ返事で承諾した。


「構わぬ」


 俺は攫われた人のリストをアイテムボックスに収納した。俺は部屋を出ようと振り返ると、背後からエルセリアの小さな声が聞こえた。


 「頼んだぞ……」


 俺は立ち止まり、静かに答えた。


 「任せろ……」


 俺は城を離れ、屋台がひしめく大通りへと足を運んだ。大勢の人で賑わうその通りを歩きながら、俺はアナスタシア様の姿を探し、周囲を注意深く見渡した。当然ではあるが、この人混みの中でアナスタシア様を見つけるのは容易ではなく、俺は途方に暮れていた。


 「見つからない……」


 長時間探し続けたものの、手がかりは得られなかった。仕方なく、アナスタシア様が向かうかもしれない冒険者ギルドへ足を進める。その時だった。すれ違いざまに、アナスタシア様と同じ背丈で、水色のローブをまとった人物が俺の視界をかすめた。


「今のは、姫様……?」

 

 俺は慌てて振り返ったが、すでに水色のローブをまとった人物の姿は見えなかった。焦る気持ちを押さえきれず、人波をかき分けながら来た道を引き返し、必死にその人物の姿を探した。

 

「……見失ったか」

 

 水色のローブの人物は、雑踏に紛れるようにあっという間に姿を消していた。俺は息を切らしながら、周囲を見回すと、水色のローブの人物が路地裏に入っていくのが見えた。俺は後を追うように路地裏へ足を踏み入れようとした。そのとき、奥から女性の声が聞こえてきた。


「離してください!」

 

 水色のローブを纏った人物は、路地裏の奥でガラの悪そうな男たち三人に囲まれていた。一人がその腕を掴み、逃げ出そうとするのを抑え込む。その隙に、残りの二人が口を塞ぎ、素早い手つきでその人物を大きな袋に詰め込んだ。その動きには無駄がなく、まるで何度も繰り返してきたかのようだった。


「姫様を探していたら別の物が釣れたな……」


 俺は小声で呟き、スキル《気配遮断》を使い気配を消した。俺は一瞬安堵した。水色のローブの人物はアナスタシア様ではなかったからだ。背格好はよく似ていたが、顔立ちが異なり、何よりも髪の色が決定的に違っていた。姫様は銀髪だが、目の前の彼女の髪は柔らかな茶色をしていたのだ。


(彼女には悪いが、奴らのアジトを突き止めるまで我慢してもらおう)


 俺は慎重に距離を取りながら、三人組の後をつけた。彼らは迷路のように入り組んだ路地裏の奥に進んで行くと、三人組は、人目につかない古びた民家の前で足を止め、周囲を確認することもなく民家に入って行った。俺は扉が閉じきる直前、隙間から滑り込む様にして薄暗い室内に足を踏み入れた。部屋は埃っぽく、中央には煤けた暖炉と、何の変哲もない机と椅子があるだけだった。

投稿日を大幅に過ぎてしまい申し訳ありません。6月末までには2話投稿する予定です。


よろしければ、ブックマークに追加の上、「☆☆☆☆☆」で評価して続きをお読みいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ