第19話 シンの忙しい1日
これは、アナスタシアが屋敷を抜け出して学園都市の散策やスライムと戦闘している時のシン目線の話。
アナスタシア様はしょんぼりと部屋へ入っていった。それを見届けた俺は、後ろめたさを感じながら部屋を後にする。
「はぁ~」
アナスタシア様の学園都市を散策したいという願いを叶えたいが、叶えられない事に俺はため息をついた。そして、俺は部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。その間も俺の頭の中ではいろいろなことを考えていた。
(ランソ伯爵領のヨイルの街で起きた事の報告書と視察報告書の作成、エルザが作成したエルキト辺境伯領のシニリアの街の視察報告書の確認と陛下に報告書の送付、やることが山積みだな……)
そんな事を考えつつ部屋に戻った。俺は部屋に戻るとすぐさま机に向かい、羽ペンを手に取ると報告書を書き始めた。そして、報告書にはランソ伯爵領のヨイルの街の酷い状況と、街で起きた事を一言一句書いた。しかし、フェンリルとハイエルフの赤子のことは書かなかった。それもそのはず、下手に権力争いに巻き込まれたらフェンリルの怒りを買うし、それに、ハイエルフであるあの赤子の存在は、エルフの国であるフェアリスティア王国と帝国の間で国際問題に発展する可能性を秘めている。余計な波風を立てない方がいい事には変わりない。
「よし、報告書作成、終わり」
俺は伸びをしてそう言った。続いて俺が始めた作業は俺が寝ている時にエルザが作成したシニリアの街の視察報告書の確認だ。一応目を通さなければならないので、報告書の確認を始めた。そして、書いてある内容は概ね問題なかった。シニリアの街は大きく発展してないものの領主であるエルキト辺境伯は領民から好印象でとても良い領主との声が多く、アナスタシア様との面会時もエルキト辺境伯は礼儀正しくとても好印象な雰囲気だったらしい、幼い御子息と御息女はアナスタシア様と、仲良く接していたらしい。俺はその様子をイメージしたらなんだか微笑ましく感じた。
「さてと、しばらく休む旨の手紙を書くかな……」
俺はそう言って長期間、すなわちアナスタシア様が学園都市にいる間、休むことを陛下宛に手紙を記した。俺は手紙を書きえると、長期間休むことをエルザへ伝えに行くため、エルザの部屋へ向かった。俺はエルザの部屋に到着すると、扉をノックした。
「エルザいるか?」
俺がエルザの部屋の前でそう言うと、しばらくしてメイド服のエルザが出てきた。
「何でしょうシン」
「いや、姫様が学園に入学すると、しばらく俺の仕事はなくなるだろ」「その期間休もうと思って、その事を伝えに来た……」
俺がエルザにそう伝えると、エルザはため息をついた。
「陛下には、その事を報告したのですか」
「まだだが……」
俺はエルザが何でそんな事を聞いてくるのかと思っていた。
「そうですか、ならよかった」「陛下はあなたが、アナスタシア様を密かに守るため休むと予想していました」
「はい?……」
シンは驚いて鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていた。エルザは俺のそんな顔を見てクスッと笑い言った。
「陛下からは、どんな手を使うかは分からんが娘を頼んだぞ、と仰せつかっています」「ですので休みの報告は要りません」
(王様にはバレバレか、食えない人だな……)
俺はそんな事を考えているとエルザが尋ねた。
「それで、正確な日付は?」
「9日後に一度休みます」
「試験当日ではないですか……」
エルザはため息を付き、少し怒り気味で俺に問いただした。
「姫様を誰が守るのですか?」「私一人で守れと……」
「怒るなよ」「しっかり護衛は用意しているから」「当日屋敷にステラ・ヨザクラとレイ・ヨザクラが来るようにしているから」
俺は当日に剣聖の娘と息子が来る事をエルザに伝えると、エルザは呆れた顔で再びため息を付き了承するのだった。
(俺としては、出来る限りレイの姿でエルザの前に出たくはないのだが)
レイ・ヨザクラ、それは、俺が学園へ通うために変装する予定の仮の姿だ。剣聖と俺の関係は絶対に秘密だが、護衛を任せる者が一度も顔を見せないのは、かえって不自然だ。間違いなく調査されるだろう。一度はエルザと会ったほうがいいだろう、とはいえ、ボロが出す可能性もあるから、可能な限りエルザとの接触は最低限に抑えたいというのが俺の考えだ。
「話が逸れたけど、長期的に休むのは14日後から」
「分かりました」「私からも陛下にはそのように報告しますので」
エルザはそう言うと直ぐに扉を締めた。
(機嫌悪そうだな……)
俺はそう思いつつ部屋を後にした。部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、フェリスと出会った。
「丁度いい所に……」「丁度お主に用があって部屋に行く所だったのだ」
「そうか、それでどんな用だ?」
フェリスは赤子を抱えながら言った。
「人類には個体名があるのだろう」「この子には個体名がないのでな」
「つまり、俺に名前を決めて欲しいと……」
「そういうことだ」
(名前か……)
俺は悩みに悩んだ、それもそのはず、名前にはしっかりとした意味が有るべき物なのだから。俺は数分間悩んだがしっかりとした名前が出てこなかった。
「すまん、思い浮かばない」
「そうか、ではどうしようか……」
フェリスがどうしようか悩んでいると、俺はフェリスに提案をした。
「こう言う時、一人ではなくいろんな人に案を出してもらうのも一つの方法だぞ」
「もうすぐで昼食の時間だからその時にでも」
「そうだな……」
フェリスがそう言うと俺はその場から立ち去ろうとした。しかし、フェリスはまだ話があるようで俺を引き止めた。
「待て、お主にはまだ話がある」
俺は足を止めてフェリスの方を振り向いた。
「この子を人里で育てるのにはお金が必要だ」「いつまでもお主らの世話になる訳にも行かないからな……」
そうフェリスは現在、アナスタシア様の厚意でこの屋敷に住んでいるのだ。
「何か私に出来そうなお金を稼ぐ手段はないか?」
俺は少し考えた。
(お金を稼ぐ手段は沢山あるが、フェリスに合いそうなのは冒険者かな……)(メイドとか他の仕事は向かなそうだし……)
俺は何が良いか考えていたが、フェリスに合いそうな仕事は冒険者だと結論づけた。
「冒険者かな……」
「冒険者?」「アレだろ魔物を殺しまくるヤツだろ」
俺はフェリスの言葉に苦笑いしながら話しを進めた。
「まあ、言い方が悪いけど、そうだな」「でも冒険者が狩るのは基本的に人類に被害を出す魔物だけだぞ」「それに、ダンジョンに潜ると言う手もあるし」
「ダンジョンに行くと言うならアリかもしれないな、あやつらは基本的に知能がないからいい獲物になる」
「決まりだな、簡単に冒険者ギルドまでの地図を書くから、それを渡すよ」
俺はそう言ったがフェンリルであるフェリスに果たして地図が読めるのかと一瞬思いつつも自分の部屋に戻った。俺は部屋に戻ると、机の上にある報告書を手に取り文面を読み返した。俺は読み終えると報告書を鳥ゴーレムに持たせ、鳥ゴーレムを帝国の帝都へ飛ばした。
「よし」「これで終わり」
その後、俺はアナスタシア様の昼食を用意するため、調理場へ向かった。料理が完成すると、その他の準備をエルザに任せ、昼食の時間を知らせるためにアナスタシア様の部屋へ向かった。俺はアナスタシア様の部屋の前に付くと部屋をノックして話しかけた。
「姫様、昼食のお時間です」
しばらく立ったが反応がない。俺はまさかと思いつつアナスタシア様の部屋に入った。
「失礼します」
扉を開くと、そこには風に揺れるカーテンと、開け放たれたバルコニーのドアがあるだけだった。アナスタシア様の姿は、どこにもなかった。俺はその場に座り込み頭を抱えた。
(マジか〜〜)(姫様いないし……)
俺はすごく焦りどうするべきか悩んでいた。
(こんな時どうすればいいんだ……)
俺はしばらくアレコレ考えた末、とりあえずエルザへ報告する為に、ダイニングルームへ戻った。ダイニングルームに戻るとエルザは昼食の準備を終えて待っていた。
「姫様をお迎えに行かれたのでは?」
エルザはアナスタシア様が一緒にいない事を疑問に思い俺に聞いた。
俺の顔はみるみる青ざめ、思わずカタコトで答えてしまった。
「……イナカッタ」
「今なんと……」
エルザは耳を疑いもう一度俺に聞き返した。
「姫様が、部屋にい居なかった」
俺がもう一度告げると、その場は静まり返りそれがしばらく続いた。
「屋敷の者を集めてすぐに姫様を捜索しよう」
俺が慌てそう言うと、エルザは多少慌てつつも冷静に答えた。
「落ち着いてください」「この屋敷には常駐する最低限の兵士しか居ないでしょう」「シンあなたもそれを分かっているはず」
エルザに指摘され、ハッと冷静になった。そうこの屋敷には屋敷を守る最低限の兵士しかいないため、人員を割く事ができない、それに屋敷の人員を減らすと屋敷の守りが手薄になる。屋敷に兵士がいるのにアナスタシア様の学園都市を散策したいと言う要望に答えられない理由でもある。
「そうだな冷静ではなかった」「とりあえず学園長に報告して協力を仰ごう」
「ではお願いします」「私は街なかを探しますから、学園長への報告が終わり次第、あなたも姫様の捜索をお願いします」
そうして、俺とエルザのアナスタシア様、捜索活動が始まった。
申し訳ありませんが、個人的な理由により次回投稿するのは5月末になりそうです。
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