第12話 アナスタシア、皇都を出立する
翌日の朝、俺はいつもの別館の厨房と違い、城の本館の厨房に来て、朝食を作っていた。なぜなら、今日は姫様が学園都市へ向けて出立する日、その門出を祝って皇家での朝食らしい、俺はその朝食を作っていた。
「おい、シン、こんな感じでいいのか」
「はい、大丈夫です」
俺は料理を作ってる傍らで呼ばれた方を振り向き、作られた料理を見てそう言った。そう、厨房は大勢の料理人が料理を大忙しに作ってるいる。そして料理ができると、皇家の方が待つ食卓にワゴンで続々と料理が運ばれる。
「おう、ようやく来たか」
そう言うこの方は、第二皇子ヒルメス様、大剣の腕前は騎士団の中でも一位、二位を争うレベル、いわゆる脳筋バカというわけだ。
「声が大きいですよ」
この方は第一皇子リアン様、知略に優れていて、アルフォンス陛下の補佐をしていたりする。アナスタシア様の他にもこの場には、皇帝陛下アルフォンス様、皇妃イレイナ様。そして建築関係のユニークスキルを持っていて、様々な人から建築を依頼されるほど有名な第三皇子エルリク様。ベルファルス帝国の図書館の司書、第二皇女アリア様。第一皇女はすでに他家に嫁いでいてこの場には居ない。俺は他の給仕係と食卓に次々と料理を並べていった。
「わりい、兄貴」「アナスタシアのとこの執事の料理は楽しみで」「ついな」
ヒルメスは笑ってそう言うと、リアンはため息をついた。料理が並べ終わると、シンは料理のメニューについて話し始めた。
「今日のメニューは、ドラゴンの肉と様々な野菜を使ったカレーライス」「ドラゴンの肉で作ったカツ」「バターでふんわりと仕上げ、刻んだパセリを少々上に乗せた、スクランブルエッグ」「ドラゴンの肉と野菜のコンソメスープ」「そして、デザートにプリンをご用意しております」
今回、俺が出した料理には俺が持ち込んだ日本のカレーのルウやコンソメキューブが使われている、ちなみにドラゴンの肉にはフロストアイスドラゴンの肉が使われている。
「ドラゴンの肉とは、珍しいな」
ヒルメスは目を輝かせながらカツにナイフを入れた。
「うまい」
その香ばしい香りが一瞬で食卓を包み、他の皇族たちも興味津々でその料理に目を向ける。
リアンは静かにスープを一口飲み、満足げに頷いた。「これは…」「美味しいですね」「特にコンソメスープの風味が素晴らしい。ドラゴンの肉と野菜の旨味がしっかり引き出されている」
アナスタシアはカレーライスを一口食べると、微笑みを浮かべた。
「やっぱり、シンの料理は美味しいです」
エルリクはスクランブルエッグを堪能しながら、感嘆の声を上げた。
「このふわふわのスクランブルエッグ、美味しい」
アリアはデザートのプリンを見つめ一口味わった。
「このプリンというデザート、美しい」「甘さ控えめで、とても上品な味」
その言葉に、シンはほっと胸をなでおろした。こうして、皇家の朝食は和やかな雰囲気の中で進み、全員がシンの料理を堪能した。朝食が終わり、アナスタシアは自室に戻ると部屋を見渡した。
「この部屋もしばらく見ることはないのですね」
アナスタシアがそう呟くと丁度部屋をシンがノックした。
「姫様、出立の準備が整いました」
「今行きます」
そう言って自室を後にした。アナスタシア様と俺は城のロータリーに来るとエルザがいた。ロータリーには大きな5羽の鳥が引く駕籠があり、鳥は駕籠の上に止まっていた。アナスタシア様は鳥車に乗り込もうとすると、そこに丁度皇家の皆さんがきた。
「出立だな」「新たな門出を祝おう」「しかし、祝いの品を準備し忘れた」
そうヒルメスは笑いながらそう言った。
「だが、かわりに言葉を贈ろう」「学園ではパワーだ大抵の事はパワーで何とかなる」
ヒルメスがそう言う横でリアンはやれやれと、ため息を付くと、リアンはアナスタシアに近づいた。
「私とアリアからは、この氷魔法の書を贈りましょう」「この氷魔法の書はとある魔法使いが数多くのオリジナル魔法を記した、とても貴重な書です」「これをアナスタシアに贈りましょう」
リアンはそう言って本をアナスタシアに差し出した。
「ありがとう、リアン兄様、アリア姉様」
アナスタシアは嬉しそうに差し出された本を受け取った。その後もエルリクから野営用の特殊なテントをもらったり、アルフォンス陛下とイレイナから髪飾りをもらったりとても嬉しそうだった。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
アナスタシアはアルフォンス陛下の言葉に嬉しくもあったが少し寂しくもあった。
俺とアナスタシア様エルザの三人は鳥車に乗り込んだ、そして鳥車が飛び立つと、アナスタシア様は寂しそうに窓の外を見て、アルフォンス陛下達を見送った。俺はそんな様子のアナスタシア様を見てしばらくは声を掛けられなかった。鳥車に乗ってしばらく時間が経つと、アナスタシア様が話しかけてきた。
「シン、私達はどういうルートで学園都市に向かうの?」
俺は地図を出してアナスタシア様に見せながら説明を始めた。
「皇都を出発して、まずルクセク侯爵領を通り、グレイフの街で1日目の夜を泊まります。それからランソ伯爵領のヨイルの街で2日目の夜を泊まる予定です。そしてエルキト辺境伯領のシニリアの街で3日目の夜を泊まり、次の日の夕方頃には学園都市に到着する予定です」
「4日後には学園都市に着く予定なのですね」
「はい、一応余裕を持って2週間早く皇都を出たのでクラス分け試験が行われる日までには間に合うと思います」
俺は地図をしまいながらそう言うと、アナスタシア様は学園がどんなところか興味があるようで、俺に聞いてきた。
「私が行く学園には、どんな人がいるの?」
「そうですね、アナスタシア様が行く学園の大半ベルファルス帝国の貴族とラタトス王国の貴族ですが、その他にも神聖システイム教国、大和公国、フェアリスティア王国、グロムハル王国などの国からも少ないですが入学する人はいます」
そう俺達がいるアシューラ大陸には六つの国がある。人間族、狼人族、犬人族、猫人族、兎人族、熊人族、などの多種族国家で大陸の大半を占める国がベルファルス帝国。人間の王と貴族が統治する国家、ラタトス王国。システイム教の総本山で教皇が治める宗教国家、神聖システイム教国。国土の大半が森林のエルフの王が治めるエルフの国、フェアリスティア王国。国土の大半が山で、ドワーフの王が治めるドワーフの国、グロムハル王国。人間絶対主義で、アシューラ大陸で唯一、奴隷制度のある国、マルギヌス共和国。他の大陸からの学園入学拒否もそうだが、中でもマルギヌス共和国はアシューラ大陸にある国で唯一学園への入学が拒否されている国である。
また、入学受け入れをしているがアシューラ大陸にはない国がある。それが大和公国だ。大和公国はアシューラ大陸の東にある島国でベルファルス帝国と貿易や交流が頻繁にあり、龍王が国を治めているらしい。
「トウリス学園どんなところなのかしら、楽しみですね」
アナスタシア様はこれからの学園生活に少しワクワクして、楽しそうに窓の外を見ていた。しばらくが経ち、ルクセク侯爵領に入った頃だった。鳥車の外にいる御者が鳥車の小窓を開き、不安そうに話しかけてきた。
「すみません」
「どうした」
「森林にいる魔物や動物たちの声や音がしなくて、奇妙なぐらい静かで……」「まるで森林に魔物や動物たち全く居ないような……」
俺は御者の言葉に少し固まり考え込んだ。
(確かに、少し奇妙だな……)(杞憂で終わればいいいが)
そして、そうこうしているうちに、グレイフの街が見えてきて、辺りは夕方だった。




