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4話「命のタイムリミット」

「まず良い知らせと悪い知らせがあるんだが……良い知らせの方から教えようか。優司君の友人達は廃墟内で私達が発見し、無事に病院まで搬送したよ。だがここからが悪い知らせだ。見つかった三人は悪霊に魂を抜き取られており、意識不明の状態が続いているんだ」

「そ、そんな……魂が抜き取られてるって何ですか……。そもそもあの黒い人型のもやは一体……」


 鳳二から親友達が無事に発見されて病院まで搬送されたと聞くと一先ず優司は安堵したが、悪い知らせを聞いた途端に全身の力が抜けていく感覚に陥り、その場にへたり込んでしまった。


「すまないね……。私達がもっと早くに駆けつけていれば、こんな事にはならなかったんだけどね。……それとこれは気休め程度にしかならないけど、三人とも専門機関に搬送したから”暫く”は”命の問題”は大丈夫だよ」

「し、暫くってどういう事ですか……? 暫くが過ぎたらアイツらは死んでしまうんですか!」


 彼は鳳二が妙な含みを込めて放った言葉を聞き逃さなかった。自分だけがあの場から生き残って、親友達は意味の分からない状態で意識不明……しかも命の問題すらある。

 そんな状況で優司は楽観的に思えるほど人間は出来ていない。


「俺は俺は……一体どうしたら、いいんだよ……」


 彼の心と思考回路は絵の具をグチャグチャに混ぜたように入り乱れて、とめどなく深い後悔が底から湧き上がってくる。


「優司君、確かに君の友人達には命のタイムリミットが存在する。だがこれからの君の行動次第でそれは大きく変わるかも知れないよ。もともと優司君はこちら側の人間なのだから」


 鳳二は優しく暖かそうな視線を向けながら行動次第で親友達の命が救えると言うと、


「それは一体どういう意味なんですか……? それに俺がこちら側の人間って……」


 その言葉を聞いた瞬間に彼は顔を上げてその言葉に縋る思いで聞き返した。

 親友達が救えるのなら、命だって投げ捨てる覚悟はある。

 それぐらい優司と彼らとの絆は永遠に絶対的なものなのだ。


「……こうなってしまっては全てを知るために話さないといけないね。ああ、後で優司君のお父さんとお母さんに怒られるなぁ……はぁ。だけどしょうがないね、催眠術も解けてしまったからね」


 鳳二は何故か優司の父と母の事を呟いて溜息をつくと少しだけ弱った表情を見せる。


「お父さん、それを話してしまったらもう優司は”普通”には戻れませんよ……?」


 だが矢継ぎ早に幽香が鳳二に向かって、心配そうな声色で彼の事について何かを聞いているようだった。


「そうだね。だからこそ改めて今一度覚悟を問おう。優司君はこれから先、自分の知らない未知の事象や事柄、そしてこの話を聞いたらもういつもの日常には戻れないという覚悟はあるかい?」

 

 鳳二は幽香から言われた事に頷いてから彼の方に顔を向けると、視線は先程の優しいものではなく力強く本当に覚悟を問うという目的の目付きであった。だが優司は親友達の救える方法があるのなら、それを全力で掴み取るのみだと既に腹は決まっていた。


「……はい、覚悟を既に出来ています。だから俺に親友達を救う方法を教えて下さい! お願いします!」


 鳳二の力の篭った視線に動じずに覇気を込めた言葉を返すと、彼は口角を上げて微笑んだように見えた。まるで最初から優司がその言葉を言うと分かっていたかのように。


「ならまずは、あの廃墟に封印されていた悪霊の正体を知るべきだろう。それが優司君の友人達を襲い魂を抜きった張本人だからね」


 鳳二はそう言って、あの廃墟の事と悪霊について淡々と語り始めた。

 優司は黙って聞く姿勢を取ると隣では幽香が不安げな表情で彼を見ていた。


「あの廃墟は元々、悪霊を封じ込める為に敢えて作った箱みたいな物なんだ。ほらよく言うじゃないか、木を隠すなら森の中ってね。そしてあの廃墟に封印されていたのは、かつて人を何人も何十人も何百人にも喰らい続けた男性の霊魂で、当時は私たちの先祖が多くの犠牲を払いつつその悪霊と戦い、なんとか手鏡に封じ込める事に成功したんだ。それからあの廃墟には誰も近づかないように近隣住人に噂を流して今の今まで均衡が保たれていたという訳だよ」


 鳳二は次々と新事実を語っていくと話の途中で彼が拾った手鏡の詳細についても話してくれた。 

 優司は咄嗟に右手で手鏡を入れていたポケットに触れるが、そこには何の感触もなかった。

 

「あ、優司君が拾ってくれた手鏡は私達が大事に保管してあるから安心してね。これが手元にある限り希望はまだ残っているから。それとあの状況下で手鏡を持ち帰ってくれてありがとうね」


 話を聞いている途中で手鏡を探していると鳳二は動きで察したのか、手鏡は現在御巫家が保管していると教えてくれた。


「は、はい……!」


 しかし急に褒められると優司は何だがむず痒い気分になった。

 だがそれと同時に自分の行動が少しでも役に立った事が嬉しかったのだ。

 逆に言えばあの時はそれぐらいしか彼には出来なかったのだから……。


「それでその悪霊は長年の封印のおかげで、まだ完全には復活していない筈だ。しかし優司君の友人達の生力と魂を抜き取ったという事は時間の経過と共に奴は完全に復活するだろう。その時が優司君の”友人達の命も尽きる”。……だからこそ、優司君はこれからあの悪霊を探し出して払わなければならない。もう封印なんぞという手は通用しないと思った方がいいからね」


 鳳二は親友達にタイムリミットが存在すると、更に優司があの黒いもや……いいや、あの悪霊とやらを払わないといけないと神妙な面持ちで語っていた。


 しかし彼ににその悪霊を払う事ができるのだろうか、そもそも払うとは一体どういう事なのか。

 鳳二から話を聞くたびに優司の頭の中は色んな情報が交差している。


「その……悪霊を払うとは一体どういう事なんですか? それに俺にはそんな霊感的な力は……」


 このまま自分で考えていも埓が明かないので彼は思い切って鳳二に尋ねる事にした。

 すると鳳二は手を顎に添えて少しだけ頷く素振りを見せたあと口を開いた。


「優司君、君はまだ忘れていると思うが君の体には”悪霊払いのエキスパート”の血が流れているんだよ。そして何よりも君のその独特な苗字、それは昔に滅んで廃村になってしまった”犬鳴村”という悪霊払い達が住んでいた”村の長”の苗字なんだ。つまり優司君の家系は代々悪霊払いを生業として犬鳴村を統治していたんだよ」


 鳳二の口から飛び出してきた数々の言葉に優司は空いた口が塞がらないでいる。

 それも聞いた事もない事実だからこそ唖然としているのだ。


「そ、それは本当何ですか? 俺は一度もそんな話を親から聞いた事も……」

「それも無理はないよ。君のお父さんとお母さんは優司君をこの血なまぐさい事に関わって欲しくないと態々”催眠術”を使ってまで”記憶を封じ”て遠ざけたんだからね」


 その鳳二の言葉を聞いて彼の頭の中で欠けていたピースが一つがはまったような気がした。

 ……実は優司には小学校一年から三年までの記憶が真っ白に抜け落ちたようにないのだ。

 

 必死に思い出そうとしても何かが邪魔をしていつも真相にはたどり着けない。

 だけど今日、幼馴染の幽香につていは思い出す事が出来たのだ。


「催眠術? それに記憶を封じたって……。俺の親は一体何をどうして……」


 だが鳳二が言っている事が本当なら今優司の親は一体どこで何をしているのだろうか。

 最後に会ったのは小学校卒業の時だけで、それもほんの数分だけだ。

 

 その時に彼の父と母が仕事で海外に行くとだけ言って優司を祖父母の家に預けたのだ。

 それで小学校卒業と同時に地元から離れて中学はここになって親友達と出会い――


「まだ混乱しているようだね。だけど私が言ったのは事実だ。優司君のお父さんやお母さんが君をこの世界に関わらせないようにした事はね。しかし事態は大きく急展開を迎えてしまった。だから君はもうこちら側の世界に来るしか道はないんだ。だけど大丈夫だよ。私の方からちゃんと君の親には連絡しとくからね」


 鳳二から告げられたのは彼がもう普通の日常に戻る事が出来ないという事だった。

 恐らく一度でもその世界に足を踏み入れたら、もう二度と平和に過ごしていたあの日々は帰ってこないだろう。そういう風に優司には聞こえた。


 ……だけど、その他にも彼には気になる事があるのだ。


「鳳二さんは父さん達と連絡が出来るんですか? 俺は連絡先を聞く前に父さん達が海外に行ってしまったので分からないんです。祖父母達に聞いてもはぐらかされちゃいまして……」


 そう、何故鳳二が自分の父の連絡先を知っているのかという事だ。

 恥ずかしながら息子なのに優司は知らないのだ。

 

 更に疑問なのは祖父母達に聞いても知らないという謎の一点張りで教えてくれない事だ。

 だがそれも先程の話を聞けば、恐らくそれは優司をその道から遠ざける為に必要な事だったのかも知れない。


「そりゃそうだよ。だって私は優司君のお父さんと幼馴染で”守護者”を担当していたからね」

「えっ……お、幼馴染だったんですか!? てか、守護者って一体?」


 優司は初めて鳳二が父さんの幼馴染だと言う事実を知った。恐らくこれは記憶を封じられていなくても知らなかった事だろう。

 それと幽香も言っていたが守護者とは一体なんのことだろうかと彼の疑問は尽きない。


「まあ仕事柄あまり言わない方が良いと思って言わなかっただけだよ。それと守護者についてだが……」


 守護者について鳳二が話そうとする。


「あ、父さん! それは僕から話させて! 僕が優司の担当だからさ」


 しかし横から幽香が食い気味な様子で話に割って入ってきた。

 それから鳳二は一呼吸置くと、


「分かった。なら全てを話してあげなさい。守護者についてや、その体質についても」


 幽香に向かってそんな事を言っていた。どうやら優司にはまだ知らない事が多くあるようで、それらを知るには幽香の力が必要のようだ。

 優司は心中で全ての事を自分に教えてくれと、もう引き返す事は出来ないのだと何度も呟く。


「いいかい優司。守護者とは――」


 幽香は彼の方を向いて真剣な表情を見せてくると、ゆっくりと口を開いて守護者や色んな事について話し始めるのだった。

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