異世界で寿司職人を育てる!
「タカミザワ様・・・お仕え出来たのは短い間でしたが楽しゅう御座いました。私は此度の任務を遂げられそうも有りませんが、それでもタカミザワ様に感謝しております・・・・・」
「諦めるなっ、オマエならきっとやり遂げられる!」
そう言ったがスケさんは完全に諦めている。
「駄目ですよっ!だって私の指って骨しか無いんですよ?これで寿司を握れって無理ゲーじゃ無いですか?」
まぁそうは思うけど・・・お前いつの間に無理ゲーなんて言葉覚えた?
「こう言うのはヤッパリちゃんと肉の付いてる指で握ら無いと・・・ゾンビを召喚しては?」
「オマエ馬鹿かっ!確実に匂いが、いやソレ以外のモノだって付くだろ?」
「ゴブリン・・・」
「アイツ等は衛生観念が薄いから心配で・・・」
「オークは?」
「不器用過ぎるし言葉が満足に通じ無い」
「オーガとか?」
「仕事が大雑把過ぎる」
適任者はスケルトンのスケさんしか居ないのだ!
「いや適任じゃ無いでしょ?この指で寿司を握れなんて、大体タカミザワ様が握れるんだから・・・・・」
「それじゃボクが座って寿司を食べられない、カウンターで座ってボクがお寿司を食べたいんだ!」
その為には・・・スケさんの指に無理矢理、肉を付けて・・・・・
「あの~~~?」
リディアが横から申し訳なさそうに、
「お寿司と言うモノをタカミザワ様は握れるんですよね?」
「素人芸だけどね」
ぶっきら棒にボクは言った。
「チャンと肉の付いてる身体を持つ者で極端に手指が大きく無く、衛生的な考えを出来る知能と人間で普通レベルの器用さを持ってる・・・そんな使用人が居れば良いだけですよね?」
「その通りだね・・・」
ボクは考えながら言った。
「それなら召喚した魔物を使おうとし無くても城の人間に教え込めば良いのでは?うちの料理長とか・・・・・」
全く持って❝その通り❞であった。
その後、オルブライトでは・・・
何故か余り衛生的な生活を送って来なかった筈のオークやゴブリンがヤケに清潔に成り身綺麗に成った・・・寿司が食べたいからだ。
戦うこと以外は不器用で大雑把だったオーガの一族が器用に成り、最近は一族の間で知恵の輪が流行っていると言う・・・寿司が食べたいからだ!
スケルトンの間で手袋状の疑似皮膚が造られ着用し、結局上手くは行か無かったが寿司を握る訓練を始めた・・・諄い様だが、寿司が食べたいからだった!!!
ゾンビに関しては・・・そんな知識はアイツ等に無く、抑々ボクも召喚出来ると言うだけで呼び出した事も無かった・・・だってアイツ等コントロールして無いと見境無く敵味方関係無しで襲い掛かって食べに来るんだもん!
「オヤジ・・・次は赤貝とトコブシを」
「へいっ!」
そう言えばリディアの城の厨房で料理長が代替わりをした・・・ボクに寿司を教え込まれた彼は其の奥深さに感銘を受け、料理長を辞した後にボクと数か月かけ流浪の旅に㊟ボクは執務が有るので魔法でチョクチョク城に帰って来る♪
そしてオルブライトの城下町に満を持して自分の店を開き、店名は元料理長が料理の道に入る前は城で弓兵をしてた事から❝当り寿司❞と名付けられ・・・寿司屋で❝当り❞は拙く無いか?それとも❝中り❞じゃ無いからセーフなのか?
「親方、大変だ!空から・・・じゃ無くて、海から大量の魔物が押し寄せワイドランドの港が襲われてる」
「何だとっ?うちの冬の看板メニューなんだぞ、この寒い時期こそワイドランドのオイスターは最高なのに!お前ら若い奴等を数人連れてワイドランドの応援に行け、足りないなら城の兵士にも声を掛けて・・・魔物を皆殺しにするまで帰って来るなよ!」
「へいっ!」
寿司屋の店員数名が転移魔法を使い瞬間移動する・・・そんな高等魔法を寿司屋の店員が、しかも寿司屋の店員って戦闘要員なのかと客は皆で呆れた顔をしてる。
「大将・・・手を貸そうか?」
「いや漁港に押し寄せる魔物位、ウチの若いので十分でしょう」
すると暫くして転移した若い人が自分の身長より長いカニ爪を持って現れ、
「親方っ、粗方片付いたんで旨そうな魔物を持って来やした!もう少しで片付きますんで・・・・・」
「せっせと片付けな、客が待ってるんだ」
この世界で間違った寿司屋のイメージが定着しないと良いのだが、再び消える店員に寿司屋の店員って何者なのかと客の眼が物語ってる。
「ウチに弟子入りした若いのには先ず転移魔法を覚えさせるんです・・・世界中から美味い新鮮な食材を集められる様にね」
他の客に淡々と語る大将だが言われたボクの横の客は顔を引き攣らせていた・・・転移魔法は強力な軍事魔法で単身でも偵察や伝令として、集団なら敵陣の中心に部隊を送り込める強力な魔法だ。
寿司屋に居無くても高禄で召し抱えられるスキルなのだが・・・
「そう言う人が良く城からも海外からも勧誘に来られるんですけど、ウチの弟子に成った奴等で誘いに乗る奴は今の所一人も・・・まあウチの奴等は皆、寿司に惚れ込んでますからね」
いやチョッと何か間違えて無いだろうか?
「その次に覚えさせるのはストレージ、しかも時間の停止させられる奴を・・・ネタ等の食材を運べないと話に成ら無いし腐らせたら元も子も無いですから、次に状態を確認出来る様に鑑定魔法を覚えさせ火炎魔法と氷結魔法も・・・それ等をクリアしてから漸く食材に手を触れる様に成れますが、その後も最後は呪殺を覚えさせウイルスやバイ菌・寄生虫を消毒する方と、特定の物質だけ転移出来るように訓練し毒の取り除き方を教えます」
そこまで出来たら寿司屋で無くとも高給取りに成れるのだが・・・・・
「大将、アッチは片付きました・・・裏でサク取り始めます。後こんなのが上がってたんですが?」
「おぅトラフグじゃ無いか・・・タカミザワ様、チョッと待ってて下さい」
バケツの中からトラフグが浮かび上がり一瞬で大将の眼の前の俎板に移動、そのトラフグが消えた場所から何か粉の様なモノがバケツの中に落ちて行った。
「毒を残してフグだけ転移させました・・・これで肝まで食べられますよ♪」
すると若い職人が、
「大将、申し訳アリマセン!この南洋で仕入れたハタを鑑定したら、シガテラとサポニン持ってる事が・・・・・」
「情け無えなぁ・・・ハハッ、すいません。実は弟子たち、俺以外まだ毒だけ残して転移させるトコまでは達して無くてね」
そう言って裏に行く大将・・・魔法で調理?する彼にボクも少々呆れている。
「へいっ、フグの卵巣です!タカミザワ様の故郷じゃ毒が無いって解かってても、食べられ無かったんですよね?」
大将が得意げに言った。
「お役人が面倒くさがりで怠け者だから・・・毒の無いフグ類って一杯居るんだけどな」
卵巣は湯通しと煮付けで出て来たが実にまろやかで奥深い味わいだ。
「次はフグの千枚切りの重ね寿司です・・・タカミザワ様と一緒に旅してる時、タブレットお借りして勉強した甲斐が有りました♪」
大将が感慨深げに言った。
するとリディアが・・・
「そうですよ・・・タカミザワ様を何か月も独占して、これで美味しいお寿司が食べられ無かったら首が落ちてましたよ・・・あっ私トロお願いします」
「冗談キツイなぁ・・・姫様には大トロ中の大トロ、超大トロ出しますから勘弁して下さい」
薄っすらピンクがかった白いネタの寿司が握られ、カウンターに並んで他の客が・・・・・
「アレは・・・私には食え無い」
「アレを楽しめるのは若い奴の特権だ」
「僕は頂きますよ、大将ボクにも・・・・・」
「私は中トロで良い・・・・・」
と賑やかに成った。
そんなカウンターでリディアが舌鼓を打ってるが、彼女と反対側のボクの隣で・・・・・
「こんな旨い物が食べられるなんて・・・私タカミザワ様の召喚獣やってて良かった!一生付いて行きます♪」
スケさんが涙を流しながら寿司を食ってるのだが、
「いやオマエさ・・・骸骨のオマエが寿司食ってドコに入っているの?抑々その涙ドコから出てるの?舌が無いのに味が解かってるの?大体いつの間について来たの?ってよりオマエはアンデッドのスケルトン何だから一生付いてくって表現おかしく無い!?」
突っ込む所が満載である!