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第8話 濡れ衣

「レオ様、今日のご予定は?」


 素性の知れぬメイドは、何故だか俺の隣を歩きながら聞いてきた。


「そうだな、ちょっとぶらぶらしようかと」

「それにしては……」


 メイドが訝しむように首を振る。つまり、なんでこんな路地裏を歩いているんだと。


「とある人に会わなくちゃいけないんだ」

「とある人って?」

「なんでお前に教えなくちゃいけないんだ」

「メイドですから」

「自称だろ……」


 むっとした表情でメイドは黙りこむ。


「まあ、もうそろそろ分かるはずだ」


 そうして、俺達が来たのは路地裏にしては少し開けたところだった。


「ここに何か?」

「まあ……待ってればわかる。と言っても、その会いたい奴ってのが死んでなきゃの話だけど」


 うん、もう彼が死んでたら俺がここに来た意味もないし、たいして入っていない予定を全てキャンセルした意味もなくなる。それくらいの覚悟で……俺はここにきた。


 しかし、そんな心配は杞憂だった。


 近くにあったマンホールがカタリと音を鳴らすと、そこから這いつくばるようにして不潔な男が姿をあらわした。その男は、顔を半分上に出して、俺達をみると表情を固めた。


「レオ、私を殺しに来たのか?」

「んなワケないだろ。まあ、恩返しみたいなもんだ。それよりも……随分と汚らしい恰好をしてるが……どうしちまったんだ――ハドリオ財務大臣」


 マンホールから出てきたのは、ハドリオ財務大臣だった。いや、ハドリオの爺さんというべきか。俺がこっちの国に来た頃に随分と世話になった人だ。


「なんで私の居場所が分かったのかわからんが……ともかく殺しに来たのじゃないなら助かる」


 ちなみに、俺がここと分かったのには理由がある。

 というのも、この共和国の首都にはいたるところに魔力感知センサーがあって、同時にそれらは人々を監視する役割を果たしている……が、下水道だけは別だ。


 これはまだ国家機密だが、下水道にまでは魔力感知センサーも監視範囲も及んでいないのだ。


「にしても、ここに逃げるとは……さすがこの首都の大改造計画の責任者――ハドリオ財務大臣なだけはある」

「なんだ、知ってたのか」

「もちろん、ここがポンペイウス将軍の家に近いってことも含めて」

「そこまでバレてたか」


 当然だ、俺もそうだが……ハドリオ将軍は政府に左右される人間じゃないし、ハドリオの爺さんとも昔馴染みで、さらに『国民の為の政治』というところで意見が一致している。


 だから、ポンペイウス将軍は自分を庇ってくれると思ったのだろう。


「ハドリオの爺さん……悪いが、ポンペイウス将軍の邸宅は、今、厳重な警備がつけられている」


 そう、『財務大臣の誘拐に伴う厳重な警備』と言えば聞こえはいいが……実際ところはポンペイウス将軍のところにハドリオの爺さんが来ることを見越してのことだろう。その報告を聞いて、爺さんは落胆する。


「そうか、忠告感謝するよ。アテが外れたが、これから私は首都からの脱出を試みてみる。もしうまく行ったら……君にも知らせをだそう」

「いいや爺さん。今度は俺が恩を返す番だとは思わないか?」

「……いいのか?」

「まあ、爺さんには俺がこっちの国に来た時、世話になったからな。これくらい安いもんさ」

「けど、お前の身が危険に……」


 ハドリオの爺さんは黙りこむ。


「俺は仮にも、常に魔人から命を狙われてる勇者だ。その数が一人二人増えた程度、変わらねえよ」

「なら……お願いしよう」

「ああ、任せとけ」


 そう言って、ハドリオの爺さんの手を掴むと、マンホールから引き揚げた。


「そういえばレオ、そのお嬢さんは?」

「ああ、魔人だとよ」

「え?」

「安心しろ……悪い奴じゃなさそうだ」


 俺がそう言うと、メイドは目を輝かせて詰め寄ってきた。


「……私を信じてくれてたんですね! さすがですレオ! やはりあなたには人を見る目があります」

「おい、近寄るな。そうやって俺を殺すつもりだろ」

「なんですか、せっかく信頼してくれたと思ったのに」


 どうしてか、すねてしまった。


「ともかくだ爺さん、安心してくれ。必ず爺さんのことは守るからさ――」




 昼過ぎ、俺は奇麗になった家に帰ってきていた。今朝どこかの誰かが買ってきたばかりのテレビには、美人なお姉さんと、爽やかイケメンが映し出されていた。


『未だハドリオ財務大臣は見つからず、財務大臣代理にはデプレーティス将軍が就任しました』


「まったく、頭まで筋肉の将軍が財務大臣など務まるものか!」


 ハドリオの爺さんはテレビの前で唸り声をあげた。


「そんで爺さん、いったい何があったんだよ」

「聞いて驚くな? 襲われたんだよ、魔人じゃない方の人に」


 俺が聞くと、爺さんはさらに唸り声をあげならが語りだした。


「四日前のことだ。私のところに前線の視察をしろと、総統からの直接の命令が届いたんだ。最初、私は驚いた。しかし何かイヤな予感がしてな」


「というと?」


「警備があまりに少なかったんだよ、しかも全員私は一度も見たことのない者達ばかり。ほら、普段の警備する者というのは大抵、同じ顔ぶれだからな、自然と名前も覚えるんだよ」


 俺は勇者といえど、警備はかたっ苦しいし、俺を守れるレベルの警備なんて……この世に存在するとしたら魔王くらいものだからつけていない。故に、そうなのかと、とりあえず納得した。


「それで、怪しく思って……実費で傭兵を雇おうとしたらどうだ……奴ら傭兵と私が合流する前に私を殺そうとしてきたんだ」

「で、美味いこと逃げてきたと」

「まあ、そういうことになる」


 なら……安全なのはあそこしかないな。


「なあ爺さん、魔人は好きか?」

「……わ、私になにをするつもりだ! まさか私達を裏切ったのか!」


 俺……というよりはメイドが、爺さんは一瞬にして縄で縛った。これがもし女ならば、あるいは少女ならば完全に……俺は犯罪者だっただろう。いや、爺さんからしたら完全に裏切られたと思っているのだろうが。


 まあ、安心して欲しい。全て――


 ――濡れ衣を晴らすための濡れ衣だ。

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