第7話 今日、急遽、同居
今日、急遽、同居人が増えた。
なんだろうか、この早口言葉みたいなものは……
と、まあそれはいいとして。
「お前は誰だ?」
「と聞かれたら……答えてやるのが世の情け……世界の破壊を――」
「おい、それ以上をダメだ! コンプライアンス、略してコンプラに関わる」
そう、この近代化したご時世。コンプライアンスというのはとても、とても大切なのである。
「ところで、なんで俺の家に……何が目的だ?」
家に机とソファーなんて気の利いたものはないので、俺はベッドに腰かけ、目の前に彼女を立たせる。
「それは……えへへ」
「おい、照れるな」
何故か頬を赤く染める彼女に、俺はすかさずツッコミを入れる。
「というかだ、お前は魔人なんだろ。こんなところに来て大丈夫なのか?」
「それを言うならあなたも。私はあなたの敵なんですけど……そう易々と家にいれて大丈夫なんですか?」
「構わない、お前が俺を襲うようには見えない」
というのは実際嘘で、もし仮に俺を本気で殺そうとしているなら……今ここで魔力を押さえている理由がない。なんせ抑えた魔力というのは、そう易々と戻るものでもないのだ。もし本気で俺を殺そうとしていたならば……家にくるのではなく街の外、
つまり魔力を探知されない場所に誘導しなくちゃいけない。
「なら話しますけど、私は今日からあなたのお世話をすることになりました。つまり
専属メイド……ですね」
と言って、また顔を赤らめる。
やめろと言っているのに。
「本当にそれが目的か?」
「はい。そうです」
「まあいい、お前みたいな魔人をほおっておくわけにもいかないしな……しょうがないから家にいさせてやるよ…………で、何をしてくれるんだ?」
「決まってるじゃないですか、夜のお世話ですよ」
「それは結構だ」
やっぱりコイツ、追い出したほうがいいかもしれない。
「では、まあ……料理、家事、洗濯、といったところですかね」
見たところ……と、メイドは俺の部屋に目をやった。
「ご飯は外で済まして、掃除は……年に一回、洗濯はたまったらクリーニングに持っていくといった感じでしょうか?」
「悪かったな汚部屋で」
「いいですよ、分かってたので」
「……まさかストーカーじゃないよな?」
「そんなワケ…………ないじゃないですか」
なんか間があったような気がするが、ひとまず置いておく。大体察したが、おそらくはフィリーがよこしたのだろう。『財務大臣誘拐事件』の汚名を晴らすために。
「じゃあ寝るぞ。俺は今日疲れてんだ」
そうして、俺が寝ようと布団にもぐると、
「そうですね」
と言って、彼女も布団に潜り込んできた。
「何してるんだ?」
「添い寝ですよ、えへへ」
……えへへ、じゃないんだが。
「床で寝ろ、床で」
「まさか、年頃の女の子を床で寝かせるつもりですか?」
「俺は知ってるからな。魔人の中には若そうに見えて百歳平気で越えてる奴」
「へえ、そうなんですね」
まあ、他人事ということは……多分、彼女は違うのだろう。ちなみに某メイドは300歳である。
しかし、そうなると……本当に年頃の女の子(魔人)と寝ることになるが……なんとなくそれは憚られた。
「だったら…………」
としばらく悩んで、結局出た結論というのが。
「クソッ……俺が床で寝るよ」
しかしそう言った時にはもう遅かった。というのも、横から小さくかわいらしいいびきが聞こえたのである。
「――ああ、マジもんの女の子だったのか」
俺は身体をぎゅっと小さな手で掴まれながら、天上を見上げ絶望する。
寝れない……と。
よくじつぅ。
おれは……すごくぅ、ねむいですぅ。
あさひが、のぼってきたのがあ、かーてんごしに、みえました。
「ふわあ」と、隣からあくびが聞こえた。
「おはようございます」
「ウン、オハヨウ。トッテモイイユメガミレタヨ」
「なんだか眠そうですね」
「朝は弱いんだ」
いや朝に弱いというか……そういう次元の話ではないんだが。なんせ俺は寝ていないのだから。
「というわけで、今から朝食を作りますんで……寝てていいですよ?」
「ありがと……おやす……――」
「起きてください、朝食ができました」
そう言われて、俺は目を覚ました。
というよりは、家に他人がいることに驚いて目を覚ました。
「なんか、いい匂いがするな」
鼻腔をくすぐるのは、パンが焼けた香ばしい匂い。
「今何時だ?」
「そうですね、寝不足っぽかったので……ちょっと遅めですけど九時です」
「お前、どっかでメイドやってたことあるか?」
「実は……ないんですねこれが」
「ないのかよ」
そうして俺は着替えて、リビングに行って……驚いた。
リビングに長方形のテーブルが一つと、椅子が四つと、そしてソファーとテレビまで用意されていた。さらに、リビングがキレイに掃除されているではありませんか。
「どどどどど、どうしたんだよこれは!」
驚きを隠せない。あれだけ散らかっていて、さらにゴミ以外は何もなかった、正真正銘の汚部屋が……こうも変貌するものでしょうか。
しかも、机の上にはまるでいつも外で食べているような、いやそれよりも豪華でおいしおうな朝食があるのだ。
「お前、どっかでメイドやったこと……」
「ないです」
そんなまさか……そう思いながら俺は椅子につく。同時に、彼女も向かい側……ではなく隣の椅子に座った。
「なんで隣?」
「ダメですか?」
俺が戸惑いながら尋ねると、彼女は肩を俺にくっつけて、上目遣いで俺をみた。
「わかった、わかったから……肩をくっつけるな。俺にも一応彼女がいるんだ」
「……そうなんですね」
俺は突き放すようなことをいったつもりだったのだが、彼女は何故か微笑を浮かべると、くっつけていた肩を離した。そうして俺は、不思議に思いながらも久々の家での朝食にありつくのであった。
「それじゃあ、いただきます!」
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