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第6話 財務大臣誘拐事件

この回から数話、ちょっと小難しい話が続いたり……続かなかったり。

 俺達こと賢人の国は共和政であり、その指導者として総統がいる。

 だがしかし――総統の姿は誰も見たことがない。




週刊誌ウィークリーをくれ」


 小さな新聞売店で、俺は週刊誌を買った。

 曰く『財務大臣代理はデプレーティスか、前財務大臣のハドリオは未だ行方不明』と書かれている。


 最近はもうずっとこの話題で持ち切りだ。聞き飽きたくらいには。




 それはちょうど三日前。

 俺とフィリーと某メイドが、あの高原にいた頃の話だ。


 帰りの車でラジオをかけると『ハドリオ財務大臣が魔人に誘拐された』なんてニュースが流れ込んできた。しかし財務大臣がわざわざ魔人の国との前線にいるわけもなく……当然、誘拐するのは魔王でもなきゃ不可能に近い。


 さらに言えば、彼が誘拐されと思しき時間に、俺はフィリー……つまり魔王と会っている。ということは、ハドリオ財務大臣を誘拐したのはいったい誰だろうか。


 もし本当に魔人ならば――きっとフィリーの命令ではないはずだ。となれば、魔王に対する集団での反乱か、あるいはフィリーと同程度の力を持った魔人の単独犯か。

 どちらにせよ、フィリーに身が危険なのは確かだ。


 ――――しかし。


「もし魔人ではなく、人間の仕業だとしたらどうだろうか」


 つまり、ハドリオ財務大臣を誘拐したのが同じ賢人だとしたら。

 考えられなくはなかった。


 共和国も一枚岩ではないし、当然共和国を支持していない――いわゆる反政府組織なるものも存在する……が、問題はそこではない。なぜなら、そんな反政府組織に誘拐されるほど財務大臣の護衛は甘くないからだ。

 できたとしても、せいぜいが人質にとって監禁する程度。


 行方不明になるはずがない。


 何かイヤな予感がして、俺は西方司令部コマンドーオクシデンターレに連絡を掛けた。




 そうして――ちょうど昼過ぎ。


「わざわざ二人で話したいこととはなんだ?」


 俺は王都にある西方司令部ビル、そこの最高司令官室にやってきていた。

 広い部屋の中央にどっしりと構えた髭面の男。彼が西方戦線の最高司令官にして、共和国建国の英雄――ジュゼッペ・ポンペイウスである。


「なあ将軍、ハドリオ財務大臣が誘拐されたって話は知ってると思うけど……」

「いきなり本題か……ったく、まあいい。続けろ」

「あれは、誰の仕業だと見てる?」

「…………政府の発表によれば、魔人の仕業だと、聞いている」


 さすがに英雄というわけか、答えがうまかった。


「なあレオ、今日の夜は開いているか?」

「ああ、開いてる」

「なら少し話したいことがある、ウチに来い」

「わかった」




 ――夜。


 俺はポンペイウス将軍の屋敷にお邪魔していた。といっても、ポンペイウス将軍は残念ながら独り身なので、大きな屋敷に俺二人だけという……まあまあ悲しい状況ではあるが。


「ところでレオ、お前は何がいいたい?」


 机を一つ挟んで、俺と将軍は向かい合っていた。


「……分かるだろ。誘拐の件、魔人の仕業とは思えない」

「何故そう言い切れる?」

「魔王はいままで、そんな積極的な行動に出たことがあるか? せいぜいが国境での小競り合い程度だろう」


 実際、王国から共和国への革命期――つまり賢人の国が弱っていた時、フィリーは横から殴るような真似はしなかったし、その後も大規模な攻勢には出ていない。

 まあ……敵に優しすぎるのもどうかとは思うが。


「だったら、誰がハドリオ財務大臣を誘拐したと?」

「総統じゃないかと」

「――何故?」


「ハドリオ財務大臣は国民からの人気が高かった。それは今まで国民によりそった政策をしてきたし、実際に税金も王国の時に比べて大きく下げられた。けど、政治的な敵を作ってしまった」


 例えば――国家予算の軍事費に占める割合を下げる、とか。


「確かに、ハドリオ財務大臣と軍部の関係は良くなかったし、政治的に敵も多くいた。だが、何故誘拐までする必要はないだろう。ただ、何かネタをでっちあげて辞任に追い込むだけで十分だ」


 ネタででっちあげて辞任に追い込むって……将軍もなかなかにえげつないことを考えるな。少し警戒しておいた方がいいかもしれない。


「例えば、国民を戦争に駆り立てる為にハドリオ財務大臣を誘拐したとしたら?」


 人気のあるハドリオ財務大臣が誘拐された、あるいはそれで殺されていたとしたら。国民は大規模な戦争を起こす方向に動きかねない。事実、共和国の総統は軍の拡大に積極的だ。


 もしその過程でハドリオ財務大臣が邪魔になったのだとしたら――


「なあレオ、もしそうだとしたら――お前はどうするつもりだ?」

「どうするって、そりゃあ全て白日の下にさらすつもりだ」

「もし総統が絡んでるのだとしたら――厄介だぞ。なんせ総統の正体を我々は誰もしらないのだから」

「なら、暴いてやればいいだろ。その正体とやらを」




 家に帰ってきた頃には、すっかり真夜中になっていた……のだが。


 俺の家の前に誰か、女の人がいた。

 メイド服を身にまとっていて、黒髪ショートの綺麗な女だ。

 少し冷たそうな雰囲気の彼女は、俺の方を見ると、近寄ってきた。


「レオ様、私は魔人の…………ええっと…………闇夜のストレーガと申します」


 魔人――そう聞いて俺は身構える。


「そんな怖がらないでください、私はあなたの味方ですから……と、そういえばハドリオ財務大臣が誘拐されたらしいですね」

「……本当にお前達の仕業なのか?」

「違いますよ、それを伝えに来たのですから」


 ――何故、そう聞きたかったが……こちらの質問に答えてくれる様子でもなかった。


「それと……フィ……ゴホン。あなたの彼女から伝言です」

「俺の……彼女?」

「はい。身体には気を付けて、あんまり無理しちゃダメだよ、あとできればバランスのいい食事を心がけて、それと大人なお店にはいかないこと!……と」

「……なんだそれ」


 しかし彼女は困惑する俺に言った。


「さあ、家に帰りましょう。あ、もちろん私も入れてくださいね?」

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