第5話 魔王の秘書兼メイド兼宰相兼世話係
「フィリー様、私のこと忘れているのではないですか?」
メイド服に身を包んだその黒髪ショートの少女は、目を細めてこちらを睨みつけた。
そして、俺は彼女の姿に見覚えがあった。
「エルゼ! お前、エルゼだよな」
俺がまだフィリーと一緒に暮らしていた頃、俺達の世話係兼メイド兼親代わりとして育ててくれた恩人だ。
「さすがは吸血鬼だな、あの頃と全く変わってない」
「そうでもないですよ。最近は私もいそがしくて……貧血気味なんです」
「吸血鬼が言う貧血ってのは、大丈夫なのか?」
「いいえ、大丈夫じゃありませんよ。なんせ私は魔王様のメイド兼秘書兼宰相兼世話係ですので」
驚いた。まさかエルゼが宰相になっていたとは。
「お前が魔人の国の宰相なのか?」
「そうなんですよ、忙しいんですよ。なのにです、どこかの誰かさんは私の仕事を増やそうというのですよ。ね、フィリー様」
そういってエルゼやれやれと聞いてもないのに話始めた。
「レオ様、一週間前に魔王様とお会いしておりますよね?」
俺は何も答えなかったが、フィリーの顔が全てを物語っていた。
「フィリー様、あの時置いて行かれた私は見知らぬ敵地で一人迷子になってしまったんですよ、すごい怖かったんですよ」
「ええっと、ごめんなさい」
「それで、今度はなんですか? 世界征服ですか?」
「いや、違くて……」
「禁断の恋といい、世界征服といい、世界よりも愛ってことですかまったくサイコーじゃないですかヤダ」
あれ、今サイコーって言わなかったか?
俺の効き間違いか?
「コホン、いけませんよそんなこと。そんな楽しそうなことを私抜きでしようとするなんて……」
「エルゼ?」
「許せません、私にも手伝わせてください。お二人の花園作り」
「おいエルゼ、なんか言い方に刺がないか?」
「だってそうでしょう? 一緒にいるために世界を、神からかせられた宿命すらも敵に回そうというのですから。世界を二人の花園に作り替えようって言っているのと、変わらなくないですか?」
確かに、俺の言っていることは自己中心的で、子供のわがままと何もかわらない。
だけど俺には、俺とフィリーには。
「俺とフィリーの二人なら、そんな幻想を、作り出すことが出来る」
「でしょうね、最強の二人ですから。ただ、そのお二人のお世話役として……最後までお世話いたしますよ。このエルゼも」
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~余談 エルゼの苦悩~
一週間前、私が魔王様に置いて行かれて独りぼっちになって、心細かった時の話。
賢人の国に魔王様と偵察に来た私だったのですが、魔王様がいったいどこに行ってしまったのか――気づけば魔王様の姿は消えていて、私は迷子?になってしまいました。
つまり、敵地で独り身ということです。
私は心細くて今にも泣いてしまいそうでした。しかし私には偵察という任務が残っているのです。
というわけで、私は近くの店に入ると1500ダリアで『ちょっとリッチなカルボナーラ』という物を頼んでみました。
出てきたのはクリーミーそうなパスタでした。
フォークをくるくると回し、パスタを絡め、そうして口に運ぶ。飛び込んできたのは濃厚な牛乳とチーズの風味、そしてちょうどいい加減にまぶされた黒コショウのスパイスと、少し塩味でした。
メニューには羊の新鮮なミルクと、それでできたチーズを使ってあると書いてありました。
パスタはちょうどいい硬さで、さらにチーズのコリコリとした食感と合わさり舌ざわりが良く、さらに温かくて、外で冷えた身体を温めくれるのです。羊のミルクの濃厚な香りは嗅覚をくすぐって、まるでどこか暖かく、自然豊かな高原にいるんじゃなかとさえ思ってしまう。
気づけば、綺麗に食べ終わっていました。
こうして敵地で一人になってもなお、単身で偵察を続ける私。さすがとしかいいようがありません。
しかしこれで偵察は終わりません、終わっていいはずがないのです。
それから私はティラミスにジェラートなど、様々なスイーツ巡り……もとい偵察を行ったのです。そうして空が赤くなってきた頃。
「あ、エルゼ! ごめん置いて言っちゃって」
ようやく魔王様と再会することができたのでした。
「まおーさまあ、なにしてたんですかあー?」
「ねえ、エルゼ……アルコール臭いんだけど……」
「そんなことないですよおー! というかー、マオー様もなんかいいことあったみたいですけどー?」
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