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天国に住む神

 素性の分からない男が王城に侵入してきた一件は国王に任された。

 と言っても国王が何かするわけではない。

 国王の側近がアクリスの言っていたように拷問をして情報を引き出すのだ。

 

 正直あの男に然程興味がないレインからするともうすでに事件は解決扱いだ。

 それよりも勝手に部屋から出て庭で物思いにふけていた事がバレて怒られる方が彼からすると事件だった。

 アクリスに逃がさないぞと言わんばかりに抱き着かれてしまう。

 それを見たソフィアが黙っているはずもなくこの悪乗りは連鎖してしまった。


 この年頃の人が寝るにはかなり遅い時間、ソレは現れた。レインの前だけに。

 真っ白な空間。あの時と同じ光景だが真下に建物は無かった。


(ここは――あの時の――)


「初めまして、千雪くん。レインくんと読んだ方がいいですか?」


「懐かしい名前だな。レインでいい、こっちの方が慣れてる」


「分かりました、レイ」


(愛称――距離の詰め方異常だろ)


 レインはソレを見た。前に会った時とはまるで違うその少女を。

 モヤなんてかかっていない、その姿ははっきりと見える。

 透き通った白髪白目は神秘的な輝きを放っている。

 レインと同じくらい、もしくは少し年上の少女の見た目。

 

「初めましてって言ったか?」


「ええ。あ、もしかしてもう会いました?」


「あのモヤのかかった奴ならな」


「そうそう、そいつの事です。唐突なのですが、そいつの事殺してくれませんか?」


 ニッコリとした表情で恐ろしいことを言う。


「理由を聞いても?」


 少女は語りだした。

 あのモヤのかかった自称神は自分の魂の半分であると。

 そして本当に神であると。

 別の星の神に貶められて魂が半分に分かれてソレはできてしまった。

 その神はソレを使って全世界にいる神を殺そうとしている。

 それを阻止するために少女は自分の魂の欠片を二つ違う星に落とした。

 その魂を持ったのがノワ・カラーラとエマ・ウリオスである。


「母さんと……ああ、あの女の子か」


 それは今でも鮮明に思い出す初めての異世界での出来事だ。


「私の魔法はね、簡単に言えば魂を操る魔法なんだ。ノワは自分と私の魂をキミにあげて死んだの。そしてキミは転生した。これも私の魔法だよ」


「ノワって女はなんで俺に魂を預けたんだ?自分が死んでも転生するはずだろ?」


「うんそうだよ。ただ欠片と言っても神の魂だ。人間の体では耐えられない。事実ノワもあの年にして死にかけていたしね。彼女は転生するなんて知らなかったんだよ」


「なら、なおさらだ。転生するなんて知らずに何で俺に――」


「彼女は死ぬ前にキミにどこか違う星に行く魔法をかけたんだ。それよりも先に死んで転生の魔法が発動する方が早かったけどね」


 少女はバカにするかのようにクスクスと笑う。


「神の魂は人間の体では耐えられないって言ったよな?ならどうして俺はまだ生きているんだ」


「はあ、キミはバカなのかい?何故自分が転生を繰り返したか分かっていないようだね」


 レインは少女の言っていることが理解できなかった。

 何故転生するかなんて等の昔に考えるのをやめた。

 

「神の魂に耐えられるだけの器を作るためだろう?だから生き返るたびに生みの親の魂を奪ってきんだ」


「っ――」


 レインは昔考えたことの答え合わせをされている気分だった。


「キミの親は不可解な死に方をするから呪いの子なんて言われて捨てられたね」

「前世で親を殺したから、友も育ててくれた恩人も殺されたんだよ!!」


 彼の頭の中では自分を突き落とした男が言っていたことが反芻される。

 今にも吐きそうな気分だった。この世で一番無意味に命を奪っていたのは自分だという事実を知って。

 

「なあ何で母さん、エマは生きていたんだ?俺は魂を奪うんだろ?」


「一つはもう器が完成したから。もう一つは魂を奪えないくらい彼女が強いという事だ」


 少女は間抜けな顔をして「ほんとに人間?」と疑う。

 神には二種類存在する。種族として神に進化する者と生まれながらにして神な者。

 この少女は後者である。しかもこの世で最も最初に生まれた神だ。

 そんな神にエマは片足を踏み込んでいたのだ。


「勘違いしちゃいけないけど魂は奪ってるよ。全部じゃないって言うだけで」


「魔法は魂に保存されるって聞いたことがあるんだけど」


「ああそうだよ。だからキミは固有魔法を複数持っているんだ」


「もし俺が生まれなかったら母さんは勝っていたか?あの魔人に」


「もっちろん!余裕で勝ってたよ」

 

 少女は満面の笑みを張り付けたまま言う。

 残酷な現実を突きつける。


「あいつ――そうだな邪神って呼ぼう。邪神を殺すの手伝ってくれるかい?」


「…………」


 レインは考え込む。

 この誘いに乗るべきかそうでないか。だが答えは出ていたのだ。

 

「分かったよ。やってやるよ」


「へえ、いいんだ。ここまで聞いたら断るかと思ってたよ」


 少女は心底驚いた顔をする。

 彼女自身悪いことを言った自覚はある。それが事実かどうかは置いといてだ。

 声に出ていたように正直断られるとすら思っていた。

 

「俺がこれまで殺した人の分の償いだ。まあそこまで大層なものじゃないけどな。殺した人の死が無意味じゃないって表明するためにあいつを殺すんだ」


「へぇ、強いんだね」


「ほざけ。弱さを言い訳で隠してるだけだ」


 少女は笑顔になる。

 これまでとは違う。素の、一人の少女の笑顔だ。


「名前、なんて言うんだ?」


「無いよ、そんなの。ずっと一人なんだ。必要ない」


「たった今必要になっただろ」


「っ!はは、おかしな人間だキミは。じゃあキミがつけてよ、名前」


「えぇ……ソラ。ここが空みたいだから」


「安直だなぁ」


 ソラはそう文句を言うがその顔は満足そうだった。

 空、からとも読むそれは彼女の心を表しているようだ。


「また来てよ。この名前がいらなくならないようにさ」


「どうやって来るんだよ、ここ」


「ここは私の作った亜空間だ。同じ魔法を使えるキミならこれると思うよ」


「なるほどね。また来るよ」


「うん、楽しみにしてるよ」


 それはソラにとっての初めての感情。

 まだ地球の人間も魔法を使えていたころ戦争中の人々の不安な気持ちが集まった結果、ソラが生まれた。

 無意識のうちに地球に住む全人類の魔素を使って。

 そしてソラは記憶を奪った。もう二度と魔法を使おうと思わせないために。

 それが天国に生まれた統制の神、ソラである。

 だが天国には誰もいなかった。ソラ一人だけだったのだ。

 レインはそんな神の初めての友になろうとしていた。

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