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異世界は転移と転生で

「まあまあ、落ち着けって。キミはね、死んだの」


「え?」


 若園千雪はソレの言っていることに困惑する。

 モヤがかかったように見えているソレはそういう姿をしているのではなくそう見えているだけだ。

 更には突然「キミは死んだ」と言われたら困惑しない人の方が少数派だ。


 夢なのか、現実なのか。

 千雪はあたりを見渡す。辺り一面真っ白で何もない。だが遥か真下には建物があった。


(なんだ?あれ)


 まるで地球の一部を少し上から見たような光景だった。人影1つ無い事を除けば。


「あんた誰なんだよ」


「ん?僕かい?」


 ソレは待ってましたと言わんばかりに答える。


「神、キミたちの間でそう呼ばれているものだよ」


「……俺、無神論者なんだけど」


「そんなの関係ないよ。キミが信じようと信じまいと神はいるの。実在するの」


 ソレは「ほらここに!」と腕の様に見えることろを使って喜々として言う。

 そのおちゃらけた雰囲気は千雪のイメージする神とかけ離れていた。

 そんな光景を千雪は冷めた目で見る。


「超常現象でも見せてくれよ。神、なんだろ?」

 

 千雪が安い挑発をする。相手が何者なのか探ろうとする。

 手品師か奇術師か、地球ではありえない魔術師か。将又、神なのか。

 ソレはうーんと、少し考える素振りを見せてから口を開く。


()()()にはそんな力ないから……そうだ!未来を当ててあげよう」


「ほう?」


「キミね、()()よ」


「え?」


 そこで千雪の意識は途切れその場から体が消える。

 死んだのではない戻されたのだ。

 体ではなくその魂を。


「まあ、死ぬって言うか僕が殺すんだけどね~」


 1人になったその空間はソレの笑い声が響いていた。

 自称、いや正真正銘、神が見た未来だった。

 だがソレは気づいていなかった。その後の未来が見えないことに。




 千雪は初めての()()を果たした。


「あ、起きた」


 3畳ほどもない牢獄。血の匂いが漂う、千雪のイメージ、日本の刑務所とは明らかに違う。

 そんな不気味な牢獄に千雪と、声をかけてくれた女、名をノワ・カラーラがいる。

 本来、この牢獄は1人につき1部屋。この光景は少しおかしなものなのだ。


「えっと、ここは?」


「ごめんなさい、説明している暇はないです」


 ノワはそう言うとずんずんと千雪に近づく。

 従来、宝石のような輝きを誇るであろうその金髪は埃や灰にまみれていた。

 

「最後に、頑張ってください」


「最後?何を?」


 圧倒的な説明不足に千雪は聞き返したがそれは無駄に終わった。

 お互いの息が当たるであろう距離まで近づいたノワは逃げられないように千雪の顔を押さえてキスをした。


「ッッッ!?!?」


 千雪が困惑すると同時にポッカリと腹に穴が開く。

 その穴からはダバダバと血が流れ幕が出来上がる。


(は!?いっっった!!!)


 ある程度魔法に精通したものならばその魔素の流れに畏怖するだろう。

 ノワの持っていた魔素が全て千雪に吸収されたのだから。

 

 その牢獄に2つの死体が出来上がった。

 腹を貫かれた死体と魂が抜けて死因が解明できないであろう死体の2つが。

 




「……本当に死んだな」


「俺の初キスあんなに簡単に取られることある?まあかわいかったからいいか」

 

 千雪は目の前に広がる青空を見ながらそうつぶやくが声には出なかった。

 千雪の2度目の異世界にして初めての()()

 何度も体を動かそうとするが体は言う事を聞かない。


「何なんだ、これ」


 自分の目に映った手は見慣れたものではなく、小さな小さな赤ちゃんの手だった。

 キョロキョロとできる限り目を動かして周りを見渡す。

 千雪は木製のかごの中に入っており、周りには()()姿()どころか人ひとりいなかった。


「自称神と出会って美少女に殺されたかと思えば次は赤ちゃんかよ」


 千雪は困惑を通り越して呆れを覚える。

 動こうとしてもこの体では自由が利かない。

 

 青空を眺めるだけの時間にも飽きてきたころ、頭上の方向から足音が鳴る。

 タッタッタッタッタッタ……


(何だ?)


 千雪は気づいていた。その足音が明らかに人間のものではないことに。

 おおよそ千雪が知っている人間ではこんなに早い足音はでない。


 急に視界が変わる。

 今までいたそのかごが上空から見えた。


(え?)


 今回は声も出なかった。

 異世界特有の生物、魔物。多くの人間の命を奪う力を持った者の前では何もできない。

 千雪の、その赤子の体は完全に胴体と頭が分離した。




「またかよ」


 さすがの千雪とてこの光景には慣れてきた。

 もう1度手を眺める。やはり赤子の手だった。

 これが3度目の異世界、そして2度目の転生。


 またさっきの異世界と同じ、周りに人はいなかった。

 その世界は空も地面も青一色。千雪は氷山に居た。

 寒風が吹き荒れ息を吸うたびに喉が凍てつく痛みに襲われる。

 勿論、この世界に住んでいる人は耐性があるが、いくらその遺伝子を持ち合わせていようと赤子にこの寒さはきついものがあった。


「ゴホッゴホッ」


(喉がっ……早く死んで次の所に行こう。できれば天国がいいな)


 千雪から乾いた咳が出る。

 そして時間が経つごとに思考が鈍っていく。


(あ~これ死ぬなぁ。何で生き返るんだよ。新手の拷問か?)


 そう心の中でぼやく。


(ていうか、俺の姿が赤ちゃんってことは親がいるんだよな?自分の子供こんな場所に捨てるなんてどんな頭してんだよ)

 



 千雪自身、これが何度目の転生なのか覚えていない。

 目が覚めては死んで、目が覚めては死んでを繰り返している。

 正直、さっさと死にたいし、もう転生したくないというのが千雪の本音だ。


「今回は何秒で死ねるかなぁ」


 絶賛異世界即死RTAをお楽しみ中だ。勿論冗談だが。

 そんなイカレた思考をしていないと正気を失ってしまいそうになるから。

 時には腹を貫かれ時には雷に打たれ焼死体に。

 死にたいのに生から離れられない。


「頼むから痛いのだけはやめてくれ」


 もう生きるのは諦めていた。

 この姿で生き延びるのは運が100%である。

 自分ではどうすることもできない。

 仮にその世界が魔物もおらず、気候も穏やかだとする。

 そういう世界に転生することができれば生きながらえるのかもしれない。

 だがそれは外的要因を削除できるだけで餓死などの内的要因は避けられないのだ。


「俺はこうして死に続けるのか……」


 千雪からため息が零れる。

 そんな千雪の耳に足音が届く。


(また魔物か?もう飽きたって。ちょっとは趣を変えてみろよ)


 その足音はゆっくりゆっくり近づいてくる。


(?魔物じゃないのか?)


 千雪脳裏に刻まれている魔物とは明らかに足音が違う。


「どうしてこんなところに赤ちゃんが……」


 そう言って千雪の顔を覗き込むこの女性はモニカ・クエスタ。

 千雪が久しぶりに見た人間だった。

 彼女の発したその言葉の意味は理解できていない。

 異世界の言葉が勝手に分かるなんて便利なものは無いのだ。

 モニカは千雪を優しく抱きかかえると近くにある自分の家まで歩き始める。

 これが初めて長く生きた異世界だった。

 そして地獄の始まりでもあった。

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