【第5話】 『暗号』
「え、奈美か、?」
7月20日23時55分頃、昴流曰く、奈美によく似た人が、暗い中、硬いコンクリートの道路の上で血を流して倒れていたらしい。
それに気付いた仕事帰りの1人の男性が、大声で呼びかけ、それに対して来たのが昴流だった。
この事か、と昴流はラプラスが言っていた事件だとすぐに察した。
「奈美なわけないもんな、ただの似ている人か。」
目は閉じてしまっているが、くっきりとしていて、高いその鼻。化粧もしていないのに、赤いくちびる。
さらに、透き通った白い肌。
何をとっても奈美に似ているような気がしてたまらなかった。
しかし、そんなことを考えている暇などなかった。
「誰か、すぐに救急車を呼んでください。」
そう昴流は呼びかけ、周りを捜索しだした。
なにか手がかりとなるものを探したのだ。
そしたら、死体とは、ほんの数十m離れた場所で犯人と思われる人物の置き手紙のようなものが置いてあった。
ちなみに、置き手紙があった場所は、ギリギリ石倉市である。
恐る恐る昴流は、その2つ折りの紙を開いた。
[きわひぬむかふ、もるくめ へをらけ。
家がない。二宮市に戻れ。]
小さな紙に、2行に渡って暗号のようなものが書かれてあった。
「やっぱり暗号か。何書いてあるかさっぱりだな。」
昴流はため息と同時にそう言った。お先真っ暗かのような表情をしていた。
「恐らく家がないっていうのも、二宮市に戻れっていうのも何か示しているんだろうな。」
昴流は、1人立ち尽くしたまま、暗号は何なのか考えていた。
もちろんこの時、警察やら探偵やらにこの暗号を渡して、解いて貰うことだって出来た。
でも、それはなにか違う気がした。
ラプラスも、自分を頼って、この任務を与えてきたのだと、昴流は感じていた。
そんな時だ。
その紙の右下にさらに何か書いてあるのを昴流は見つけた。
[17年後にまた会おう。]
昴流は、目をまん丸にさせた。
衝撃が走った。
やはりラプラスが言っていた同一犯というのは、本当のようだ。
暗号とは関係ないと思った昴流は、21日になったくらいの頃、ひたすら解読を続けた。
しかし、疲れもあってか、近くの公園のベンチに移動した直後、彼が朝の9時頃まで目を覚ますことはなかった。




