〜閑話休題〜戦闘(ルイス目線)
出立の朝、肌に刺さるような冷たい空気に吐く息は白く、今回の戦争が竜騎士団にとって初陣になる為どんな戦闘になるか想像が出来ず、集まった竜騎士団員達は緊張と寒さで口数が少なかった。
アルバ隊長が飛び立つと、続いて全員飛び立った。
上空ではアルバ隊長を先頭にし俺はその後ろに並び、オルティス殿がしんがりを務めていた。
魔の森へ向かう時に城の一番高い塔の屋上にソフィア達の姿が見え、寒いのに俺達を見送ってくれた事がとても嬉しかった。
「ソフィア、行ってくる。無事に帰ってくるから待っててくれ」
俺はそう呟いて胸ポケットに入っているソフィアから貰った魔石に手を置いた。
昼過ぎ、我々は北の森と魔の森の間に到着し相手を待つことになった。
目視出来る位の所まで来てから一刻ほど過ぎた頃、空飛ぶ船がやっと攻撃が届く所まで近くに来た為全員臨戦態勢に入ったのだが待てど暮せど相手から攻撃してくる気配はない。
我々としては出来るだけ戦争を回避したい為こちらから攻撃はせず、北の国から何かしてくるのを待つしかない。
ずっと睨み合ったまま時間だけが過ぎていった。
どれ程時間が経っただろうか、突然しんがりを務めていたオルティス殿が何かあったのか、慌てた様子でアルバ隊長の元へと飛んできた。
「隊長、報告させていただきます。魔の森と北の森の境界の辺りで狼煙の様なものが見え、風にのって魔物避けの匂いがほのかに香ります」
「オルティス、それは本当か?」
「はい、かなり遠くですが何かしらの異変を感じます」
「そうか…」
オルティス殿は弓の名手だが、どれだけ目が良いのだろうか?鼻も凄く良いみたいだ。
俺はアルバ隊長とオルティス殿の会話を聞いて辺りを見渡し大きく鼻から息を吸ってみたが、何処にも狼煙の様な煙は見えず、魔物避けの匂いもしない。
「ではオルティス、グラシアと共に狼煙が見えた場所へと向かい様子を見てくるよう命ずる。グラシア、オルティスと一緒に探索へ行け。二人共もし何かあって戻れない場合は煙筒又は救命弾を打ち上げるように」
「はっ、かしこまりました」
「はい、かしこまりました」
即座にオルティス殿の後に続き、未だ動きもしない空飛ぶ船を横目に狼煙が見えた方角へと飛び出した。
かなりの距離を進むとオルティス殿が下に降りる合図をしてきた。
俺は後ろを振り向いたが竜騎士団の姿は見えず、先程居た場所から狼煙が見えただなんてオルティス殿はどれだけ遠くのものが見えるのだろう。
木々が倒れ少し開けた場所があったのでそこへ俺達は降りたのだが、どうもこの木の倒れ方を見ると人の手によって倒されているようだ。
辺りは靄の様に魔物避けの香が漂い視界が悪かったのだが、どこかで魔物の呻き声と人の声がする。
アンデとオルティス殿の相棒である竜のジェードをその場で待たせ、オルティス殿と音のする方へと向かうとそこには魔物に襲われて戦っている者がいた。
ただならぬ様子に俺達は近くの木に隠れて様子を見ることにした。
「何故こんなところに人が?」
「あの格好は北の国の装束ですね、あとは冒険者か?」
「そうですね。北の国の者と護衛の者でしょう、たぶんB級位の冒険者ではないかと」
「何をする為にここへ来たのか分かりませんが悪い事を考えてそうですね、この魔物避けも奴らの仕業か…」
「ここは強い魔物ばかりいるので多く焚いたのでしょうが上位の魔物には魔物避けが効きにくいと聞きます。やつらも魔物を甘くみたのでしょう」
「このあと如何しますか?」
「そうですね…」
とりあえずアンデとジェードを竜しか聞こえない笛で呼ぶ。
竜の存在である程度の魔物達は逃げて行くだろうから、残った北の国の者達と冒険者達はオルティス殿の魔法で縛って捕まえようと言う事になった。
しかし魔物と戦い負傷してるであろう者を捕まえようと近づいた俺達は甘かった。倒れている者達に気を取られていた俺達に大きな体躯の男が大剣を振り下ろし襲ってきたのだ。
「!!」
咄嗟にオルティス殿と左右に分かれ大剣をかわすと大男は大きな声で笑いだした。
「がははっ、俺の剣を避けやがったかっ!」
驚きながらも俺達は剣を構え、次の攻撃に備えると大男は強さを誇示する様に大剣を振り回してきた。
その大男の後ろで俺達から見えないようにこそこそしてる者がいたのをオルティス殿が見つけて驚きの声を上げたんだ。
「あっ貴方はパブロ・アロソン元第二副騎士団長の兄ハイメ・アロソン様ではありませんか!なぜ貴方がこんなところに?!」
「あっ貴方はラウル・オルティス子爵…」
「…どうやら貴方には聞かなきゃいけないことがありそうですね。逃げないで下さいね、逃げる素振りをしたら私は貴方を捕縛しなければならなくなる」
「わ、私は…」
オルティス殿の言葉にハイメ・アロソン様は走り出そうとするが、オルティス殿の魔法で手足が縛られ動けなくなった。
「はっ外せっ」
「貴方が逃げようとするからです。迎えが来るまでおとなしくしてて下さい」
「私は次期侯爵だぞ、こんな事して許されると思うなよ」
「はいはい、後でゆっくり話させてもらいます」
そう言ってオルティス殿は魔法で口を閉じてしまった。
「うーうー」
じたばたしているハイメ・アロソン様を見ていた大男がオルティス殿に向かって大剣を振り回してきた。
「俺様の依頼主になにしやがる」
「はっ」
咄嗟に剣で大剣を受け止めるが、剣ごとオルティス殿は吹き飛ばされ、大木に叩きつけられてしまった。
「ぐはっ!」
「オルティス殿!」
大木の下で蹲るオルティス殿を助けるために俺は再びオルティス殿に大剣を振り下ろす大男の前に立ち塞がり剣を向けた。
「お前の相手は俺だ」
「お前が?ふん、さっきのひょろひょろの兄ちゃんよりは手応えありそうだが俺様の相手になるかな?」
「さあな、やってみなければ分からないだろう?」
俺は剣を構えながら大男の顔を改めて見ると、その顔は以前仕事で見たことがあった。
「お前、我が国で指名手配されてる元A級ランクの冒険者のクーガーか、何故お前が我が国の貴族の護衛をしている?」
「がはははっ!!!気づかれてしまったか、何故かって?そんなに知りたいか?そんなに聞きたいなら冥土の土産に聞かせてやろう」
クーガーは剣を振り回し、俺を攻撃しながらベラベラと喋りだした。
指名手配後北の国へ逃げ北の国に雇われた事。
北の国が、魔の森と北の森の境界にある結界石を壊しガルシア王国を魔物に襲わせる計画を建てた事。
北の国と裏で繋がっているアロソン侯爵家の長男に結界石の在り処を案内させ、クーガーはアロソン侯爵家長男の護衛だと言う事。
それに境界に今いる空飛ぶ船は竜騎士団の目を向ける為の囮だと言う事も。
「教えてくれて礼を言う、お前のおかげで今回の戦の意図が分かった」
「聞いたところでお前は報告することはできないがな!」
俺はクーガーの大剣を受けて今にも自分の剣が折れそうになっている事に焦っていた。
次に剣を受けたら確実に折れるだろう。
「これで最後だ!よく俺様の剣に耐えたもんだ褒めてやろう」
クーガーの大剣が振り下ろされ大剣は俺の剣を折る。それと同時に右腕に激痛が走った。
剣がクッションになったおかげで右腕は切れ落ちることはなかったが相当深く切れ、骨も折れたようだ。
俺は激痛で剣を落とし腕を押さえながら膝をつき倒れた。
「俺様は優しいから苦しまずに逝かせてやるよ」
痛みと出血で霞んで見えるクーガーの振りかぶった大剣を見て、もう駄目かと目を瞑り「ソフィアすまない」と呟いた。
だが、目を閉じていると突然森に強風が吹き「ギャウー」と声がした。
ぷちっ
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」
クーガーらしき叫び声が聞こえたので恐る恐る目を開けると、目の前でアンデがクーガーを踏みつけていた。
足の下敷きになったクーガーはピクリともしない、アンデの体重だクーガーも生きてはいないだろう。
「アンデありがとう、お前のおかげで助かった」
「ギャウギャウ」
ドヤ顔のアンデを褒めたあと、オルティス殿へ向かう為立ち上がろうとするが痛みで右足が動かない。俺は靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾をめくると足首が赤紫に腫れていたんだ。
「あぁ、戦っている最中は夢中になってたから痛くなかったが、そういえばバランスを崩した時があったな、あの時痛めてたのか…」
ひとりごちて納得した後、動く左腕と左足でなんとかオルティス殿の元へと辿り着いて様子を伺った。
「オルティス殿、大丈夫ですか?」
「グラシア殿、すみませんが体を木に打ち付けたせいか両足が動かないのです」
オルティス殿は背中を強打したせいで神経をやられたのだろう。このままでは竜に乗って帰ることは難しいか。
「オルティス殿、日が落ちてきました。救命弾を打ち上げ救出を待ちましょう」
「そうですね。すみませんグラシア殿、自分の鞄が見当たらないのです。グラシア殿の救命弾を打ち上げていただけますか」
「了解しました」
俺は鞄の中から救命弾を取り出したのだが、アンデが救命弾を見ると素早く俺から奪い遠くに放り出してしまった。
「アンデ、なんでそんなことをするんだ?」
「ギャウーギャウギャウ」
なにか理由があるのか、何を言ってるかわからないがアンデがイタズラにそんなことをするわけないと思い、諦めて発煙筒に火を着けようとしたら再びアンデが発煙筒を咥えて遠く放ってしまった。
「アンデっ!?」
「ギャウー」
自分は悪くないと言ってるようにアンデはそっぽを向いてしまった。
そうこうしてる間に日が落ちて森はすっかり暗くなってしまい今日救出してもらうのは無理だろう。
幸い今日は満月で薄っすらと明るいので意外と恐怖を感じずにいた。
今夜は連絡を諦め、俺はオルティス殿に腕を止血してもらい、その後アンデとジェードが側へやって来て俺達を魔物達から守るように大きな体で優しく包んでくれた。
(明日は探しに来てくれると良いが…)
戦いの疲れとアンデの温もりでうとうとしている時だった。突然木々が折れる音と強風に驚き目を開けるとそこには見慣れたピンクの竜がそびえ立っていた。
「ギャウーー!(アンデとルイスみーつけたー)」




