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第90話




「ここは私の寝室?確かレイお兄様の執務室にいて…その後」


薄暗い部屋で目を覚ましたソフィアはまだ夢の中にいるような朦朧とした感覚に戸惑っていた。

ベッドサイドに座っていたレティシアはソフィアが目を覚ましたことに喜びで飛びつき抱きついた。


「お姉ちゃん気がついて良かった!」


「レティ…私、気を失ってしまったのね。心配かけてごめんね、あれからどれくらい経ったの?」


「そんなに時間は経ってないよ」


「…そう。あらもう外は暗いのね、竜騎士団の方達は帰って来たのかしら?」


「帰ってきたら連絡くれるってリカ兄様が」


「そうなのね、ルイスとオルティス様見つかったら良いけど…」


「そうだね、二人共きっと大丈夫だよ」


レティシアは明るく返事を返すがルイス達がもし万が一見つかってなかったらと思うとソフィアに次に何を話していいのか分からずその先の言葉が出ずいた。


ソフィアもルイスの事で頭がいっぱいで会話する余裕もなく、ただ時計の秒針の音だけが部屋の中に静かに響き渡っていた。


だが、そんな静寂は突然扉をノックする音で破られた。


「俺だ」


「はーい」


声で誰が来たか分かったレティシアは早足で駆け寄りドアを開ける。


「ソフィアは目を覚ましたか?」


「うん。お姉ちゃんリカ兄様が来たよ!…お姉ちゃん?」


「なぁにレティ?あっ、リカ兄様」


上の空で外を見ていたソフィアはレティシアの呼ぶ声でようやくリカルドが部屋に訪ねてきたことに気がついた。


「入っても大丈夫か?」


「ええ、どうぞ」


部屋に入ってきたリカルドは仕事の途中でソフィアの元へ来たのだろう騎士の服のままだった。


「ごめんなさい、リカ兄様。リカ兄様もお仕事があるのに…」


「いや、問題ない。

先程、捜索に当たっていた者達が全員帰ってきた。報告によると、魔の森入口近くで争った形跡が見られ、十数名の者達が倒れていた。だがそこにはオルティス第二騎士団長とルイス第三騎士団長、竜二体の姿は無く時間ギリギリまで探したのだが見つからなかったそうだ」


リカルドの言葉に目の前が真っ暗になりソフィアは再び気を失いそうになるが、隣にいたレティシアに支えられなんとか気を戻しリカルドの話の続きを聞くことが出来た。


「ソフィア、大丈夫か?」


「すみません、大丈夫です。あの、続きを…」


「ああ…、我々竜騎士団は明日の早朝再び全員で二人の捜索に出発することになった。アルセニオ様も私と同行し広域探査魔法を使い捜索に協力して下さる」


「父まで?」


「ああ、今回は特別だそうだ。英雄様は本来戦争に関わらないようにしていらっしゃる。自分達が一つの国に肩入れすれば国々のバランスが崩れるからと」


「そうですね…父も母もよく言ってました。自分達は魔物を退治する冒険者なのだから、どんなに仲が良い国であろうとも戦争に加担することはしないと」


「アルセニオ様は今回は戦闘に加わるわけではないからと言って同行を決めて下さった」


「そうですか、後で父にお礼を言わないと」


「ソフィア、心配だろうが案ずるな」


「はい、ありがとうございますリカ兄様」


「では、私はまだ王太子と話があるので退室するとしよう。ソフィア、今日は早く休むがいい、ルイス第三騎士団長が帰って来た時には元気な姿を見せないとな。レティシア、ソフィアのことを頼む」


「はーい」


リカルドが退室したので、レティシアはソフィアのためにお茶を入れようとミニキッチンで何やらゴソゴソ作り始めた。


「レティ、何してるの?」


「えっ?お姉ちゃんが元気になる様に薬草茶を煎れてあげようかなって」


「えっ、レティが?」


「大丈夫だよ〜。最近私も料理の腕が上がっているし、この前ロベルトさんに煎れてあげたら美味しいって飲んでくれたよ」


「それは楽しみね」


レティシアはソフィアと話しながらお茶を煎れる音とはかけ離れた、ゴリゴリと音をたてながら鼻歌交じりに楽しそうに作っている。


「出来たー!お姉ちゃん、さあどうぞ!」


「ありがとうレティ」


レティシアから受け取った薬草茶はティーカップではなく両手で持たないといけない位大きな器だった。


「…ねぇレティ、これ全部飲まなきゃ駄目?」


「もちろんだよ!これを飲んだらすっきりするよっ、さっ!飲んで飲んでっ」


ソフィアは手の中にある器にドロドロした黒緑の液体が入っていて不安しかないが、レティシアが煎れてくれたのだからと一口口に含んだ。


「うぅ、に…にが…い(まーずーいー!でもレティが私の為に煎れてくれたのだから我慢しなくちゃ…)」


ソフィアはあまりの不味さに吐きそうになるが、息を止め一気に流し込んだ。


「ご…ごちそうさま。ねぇレティ、これ本当にロベルトさん美味しいって?」


「うん!」


「そ、そう…(愛ゆえかしら…)」


「お姉ちゃんまだ薬草茶あるよ、飲む?」


「も、もうお腹いっぱいだから大丈夫よ。私は夕飯食べられそうにないから、悪いけどレティ一人で食べに行ってきてちょうだい」


「うん、分かった!でもお姉ちゃん一人にしても大丈夫?」


「もう大丈夫!レティの作ってくれた薬草茶のおかげで元気になったわ」


レティシアはソフィアの笑顔を見て安心したのか軽い足取りで食堂へと向かったのだった。




レティシアが部屋から出て行った後、ソフィアは皆に気を使わせてしまった自分の弱さを反省し、気持ちを切り替えるため一人バルコニーへと出て行く。


「寒い…。この寒さの中ルイスは森にいるのね。…大丈夫、ルイスと約束したもの、ちゃんと帰ってくるって。リカ兄様や竜騎士団の方達が見つけてきてくれるから。ふぅ…駄目ね、もっとしっかりしなきゃ、皆に心配ばかりかけてしまって騎士の婚約者失格だわ」


冬の夜空を見上げ、瞼を閉じ両手を強く握り合わせたソフィアは遠くの魔の森の方角に向かいルイスの無事を祈った。



どの位時間が過ぎたのだろうか、夢中に祈るソフィアの前に影が落ち、気配を感じたソフィアが目を開けると目の前にはベリーの姿があった。


「ベリーちゃん、どうしてここに?」


「ソフィアの悲しい気持ちがベリーに伝わってきた。ソフィア悲しいの?どうした?」


「ベリーちゃん、あのね…」


ソフィアはベリーに今日あった事を全て話した。ベリーは話を聞いたあと、魔の森の方角をじっと見つめていた。


ベリーは「キュルルルー」と城中に聞こえる声を上げると翼を羽ばたかせながら一言「森ね……待っててソフィア…」と言い残し暗闇の中へ飛び去ってしまった。



「えっ?どう言うこと?ベリーちゃん!どこ行くの?待って、ベリーちゃーーん!!」



ソフィアが大きな声でベリーを呼ぶが、もうすでにベリーの姿は見えなくなっていた。


「…ベリーちゃん、どこへ…?」


突然のベリーの行動に驚き、ソフィアはバルコニーにへたり込んでしまった。


そこへ突然部屋の扉がもの凄い勢いで開き、両親とレティシアが勢いよく入ってきた。後に続きライムンドとリカルドが慌てて入って来た。


「ソフィア、大きな声がしたがどうした?大丈夫か?!」


「お父さん、わ、私は大丈夫よ。でも、あの、ベリーちゃんが…」


「ベリーって、あのソフィアと従魔契約した竜か?」


「ええ。今、ベリーちゃんが私の所へ来たと思ったら、急に城を出て行ってしまったの」


「「「「「えーーーっ!」」」」」


ソフィアの話を聞いてライムンドとリカルドは慌てだし、ベリーが本当に城から出て行ったのか確認する為に人を走らせたのだった。

























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