第87話
城に着いたソフィアとレティシアはレイナルド王太子の執務室に通された。
「ソフィア、レティ夜遅くに来てもらって悪いな」
「ごきげんよう、レイお兄様。あの…」
「ああ、少し待ってくれ。直ぐに終わらすから先に座ってお茶でも飲んでいてくれ」
「「はい」」
レイナルドが忙しそうに山の様な書類に目を通しているのを横目にソフィアとレティシアは二人がけのソファに座った。
二人が侍女の入れた香りの良い紅茶を飲んでいると「待たせたね」とレイナルドが足早にやって来て一人がけのソファにドカッと座り大きなため息をつきながら天を仰いだ。
「はぁぁ疲れたーまったく勘弁して欲しいよ、北の国は何考えてるんだ…」
「大変ですね。ところでレイお兄様、私達をお呼びになった理由をお聞きしても?」
「ああ、それなんだが二人は今度の戦争のことは知っているかな?」
「はい、ここへ来る前にルイスから聞きました」
「そうか、それでは話が早い。二人には戦争が終わるまでは城に滞在するように」
レイナルドは決定事項かの様に言うのでソフィアとレティシアは戸惑いを隠せない。
「えっ?あ、あの…レイお兄様、私達は明日から戦争が終わるまでルイスのタウンハウスに滞在する予定で…」
レイナルドの顔が強ばり、そして眉毛がピクリと動いた。
「…却下だ」
「で…でも…」
「却下と言ったら却下だ。ソフィアとレティシアは嫁入り前なんだよ、結婚前に相手の家に泊まるなんて私はゆるしません!アルセニオ様とヴァレンティナ様には二人が来たことを私から言っておく。二人はいつもの部屋で過ごすように!」
レイナルドの眉間に皺ができ、二人に聞こえない位の声で何やらブツブツと呟いている。
「そ…そんなぁ……わかりました」
ソフィアはこんな状況とはいえルイスの家に行けることがちょっと楽しみだった。だが兄の様なレイナルドに却下されたら諦めざるをえなかった。
ソフィアとレティシアが了承したのでレイナルドはこの話は終わったと判断していつもの優しい顔に戻ったのだった。
「ソフィア、レティシア、夕食は食べたのか?」
「いえ、まだ食べてないです。お店が終わって直ぐにルイスとロベルトさんが来て、話をしている最中に馬車が迎えに来たので」
「そうか、では応接室で待っててくれ何か作らせよう。話はこれで終わりだ、ゆっくり休んでくれ」
「「はい、ありがとうございます」」
ソフィアとレティシアはレイナルドに退室の挨拶をし、応接室へと向かった。
応接室に入ると二人は気が抜けたかの様にソファに座り一息ついた。
「はぁ〜なんか疲れたね」
「そうね、今日は1日バタバタしてたものね」
「お姉ちゃん、ルイス義兄さんのタウンハウスに行けなくなって残念だったね」
「えっ、ええ…そうね、ちょっと残念かな。でもレイお兄様は言い出したら何言っても無理だもの」
「レイお兄様優しいけど頑固だし、私達に過保護だもんね〜」
まるで兄というより第二の父の様な気がして、レティシアは苦笑いを浮かべる。
「でも、私達を心配して言ってくれたのだから今回はレイお兄様の言う通りお城で過ごしましょ」
「わかった〜、じゃあロベルトさんに明日連絡しなくちゃ」
「そうね、私も明日ルイスに連絡しないとね」
そんな会話をしていると二人の元へ夕食が運ばれてきた。
お腹が空いていた二人は早速食事を取ることにする。
「何時間ぶりの食事だろー、はぁ〜美味し〜い。このサンドイッチはトマトとベーコン、玉子焼きにレタスが挟んである!トマトケチャップとマヨネーズがよく合うね」
「本当、美味しいね。そういえばこのマヨネーズは昔お父さんがリオおじ様に作ってあげて以来大好物になったって聞いたわ」
「へー、だったらザッハトルテみたいに王国直営店作って売ればいいのに」
「リオおじ様は売りたがったみたいだけどお父さんが止めたのよ。保存方法とか賞味期限もあるし、冷蔵庫がないお家もあるから広めたら駄目だって。最近は冷蔵庫のあるレストランや貴族には販売しようかって話があるみたいよ」
「そっかぁ、家では当たり前に食べてたけどそう言われればそうだね。でもこんなに美味しいんだもん早くみんなが食べられるようになるといいね」
「そうね」
ソフィアとレティシアが食事を終えてお茶を飲んでほっこりしてるところ、扉をノックする音と同時にバーンと扉が開いた。
「ソフィーお姉様、レティちゃんお待ちしてましたわ!」
「シャルロット!そんなに勢いよくドアを開けてはいけません」
「ごめんなさい」
いきなりドアが開いてあっけにとられているソフィアとレティシアの前には、セラフィナ王太子妃に説教されて項垂れているシャルロット王女がいる。
しゅんとしているシャルロットを他所にセラフィナは「はっ」と我にかえり当初の目的を思い出し説教を止めると早歩きで二人の元へと向かった。その後ろをシャルロットは慌てて追いかける。
「ソフィア!レティ!心配してたのよ、来てくれて良かったわ」
「セラお姉様、シャロちゃん、こんばんは。心配して下さりありがとうございます。しばらくの間お城に滞在させて頂くことになりました、お世話になります」
「もう!他人行儀みたいなこと言わないで、子供の頃から一緒に過ごした仲なんだから姉妹と変わらないでしょ。堅苦しい挨拶なんていいのよ」
「ふふっ、ありがとうございますセラお姉様。でも親しいなかにも礼儀ありですわ」
「ソフィアは固いんだから」
隣では挨拶もそこそこにレティシアとシャルロット王女がキャッキャッとはしゃいで話している。
「お姉ちゃん、私シャルちゃんの部屋で寝るから先に行くね。セラお姉様、心配して下さりありがとうございました。先に下がらせてもらいます、おやすみなさい」
「ええ、レティおやすみなさい」
「失礼します」
シャルロット王女もセラフィナ王太子妃とソフィアに挨拶し、レティシアと退室したのだった。
ソフィアと二人きりになったセラフィナは自分の知っている戦争の状況をお茶を飲みながら説明していく。
「…と云うわけでソフィアはあまり心配しなくても大丈夫よ。レイナルドも二人を不安にさせたくないからあまり戦争のこと詳しく話してないんでしょ、逆に知らないほうが不安なのにね」
「セラお姉様、ありがとうございます。セラお姉様のおかげで気持ちが楽になりました」
「ふふっ、なら良かったわ。」
そういえば、とセラフィナが慢心の笑みをソフィアに向けた。
「グラシア伯爵と正式に婚約したんですってね、おめでとうソフィア。建国祭でお会いした時ご両親に紹介していらしたから直ぐに婚約届けが出されると思ってたのに、一向にその話がなくてソワソワしていたのよ」
「ありがとうございます。えっと…ちょっといろいろあって…」
ソフィアは苦笑いしながら言葉を濁した。
セラフィナにルイスとの馴れ初めを話したら明日の朝まで根掘り葉掘り聞かれて寝られなくなるコース一直線だ。
「あら、何があったの?私達の仲で水くさいですわ。ねぇ、もっと詳しくお話して欲しいわ?」
「セ…セラお姉様、今日はもう夜遅いですし、また後日お話させて頂きますね」
「もうそんな時間?
ごめんなさいね、今日はお仕事があって疲れているのに長々話してしまって。じゃあまた今度聞かせてね」
「…はい」
セラフィナは恋バナが大好きだから、話が長くなることがわかりきってるソフィアは、後日お茶に呼ばれる事を思うと少しだけ憂鬱になったのだった。
その後セラフィナを扉の所まで見送り出した後、熱めのお湯が張った湯船につかりソフィアは大きなため息を吐き独りごちた。
「はぁ…疲れたぁ…。明日朝一番にルイスに連絡取らなきゃ、タウンハウスに行けなくなったって言ったら何て言うかな…」




