第86話
「いらっしゃいませ!」
明るいレティシアの声が店内に広がる。
レティシアが二人組の客を席に案内すると「今日のAランチはオークのカツ玉子とじ丼でBランチはビッグドードーのホットチリソース和えです。Aランチのご飯も大盛りにできます。今日のスープは白菜とキノコの鶏がらスープです」と説明する。
「じゃあ俺はBランチでご飯大盛り」
「俺はAランチで」
「はーい、AランチとBランチですね、少々お待ち下さい」
レティシアは早歩きで厨房へ向かい、「Aランチ1つとBランチ1つ、Bランチは大盛りでー」
「はーい」
元気に返事を返したソフィアだが、ルイスとグラシア領から帰ってきた翌日体調を崩し5日ほど余計に店を休み、今日からやっと店を開けられたのだった。
調子を取り戻したソフィアはてきぱきと料理を作り上げていく。
「お待たせしました」
ソフィアとレティシアがランチのトレーを1つづつ持って行き、
配膳をすませると客の二人がソフィアとレティシアに声をかける。
「ソフィアさん、レティシアちゃん久しぶり!【まんぷく亭】の料理が食べたくて、お店が開くのを楽しみにしてたんだ」
「俺も俺も!本当に待ち遠しくてたまらなかったよ。ここの料理を食べたら他のお店じゃ満足出来ないんだ」
「ありがとうございます、これからもよろしくお願いします。ではごゆっくりお召し上がりください」
ペコっとお辞儀をし二人が席を離れると男性客は嬉しそうにご飯をかきこみ始めた。
「美味しい!」「美味い!」という客の声を聞いてソフィアはやっと店を開店できた喜びでいっぱいになった。
久しぶりの営業でとても忙しく毎日が慌ただしく過ぎていった。
だが1週間を過ぎた頃、常連客の騎士たちの姿が少なく感じ、いつもと違って雰囲気も表情も何か固く、食事をしていても口数が少なく早々に帰ってしまいソフィアもレティシアも異変を感じていた。
「お姉ちゃん、何か騎士の人達変じゃない?」
「そうね…明日は休みだし、ベリーちゃんに会いにお城へ行くから、行ったら何かわかるかしら…」
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翌日、ソフィアは久しぶりに竜騎舎に顔を出していた。
「ベリーちゃん、ただいまー!ごめんね、旅行から帰ってきて直ぐに会いに行くはずだったけどお店始まったから中々休みがとれなくて…」
「ううん、ソフィアが旅行に行く前にも会いに来てくれたから寂しくなかったよ。でも会いに来てくれて嬉しいなっ。旅行楽しかった?」
「ベリーちゃんありがとう!嬉しいわ」
ソフィアは優しいベリーの言葉が嬉しくておもわすベリーに抱きついた。
「おかげさまで旅行中は楽しく過ごせたわ。ベリーちゃんにもお土産を買ってきたのよ、もちろんアンデにもね」
「わーい!ソフィアありがとう!ねっねっ早く見せてっ」
「はいはい、ちょっと待ってねー」
ソフィアはインベントリからポンと箱を取り出した。
箱を開けてソフィアが取り出したのは雫型のガラスや貝殻で出来た大きいモビールだった。
「わぁ!綺麗ね〜ベリーキラキラしたの大好き!!」
「気に入って貰えて良かったわ。街で買い物している時に見かけてね、お店の人に特注でアンデの色とベリーちゃん色のガラスを入れて作って貰ったのよ」
「嬉しい!アンデの色と同じ色のキラキラ。これ見てたらアンデが訓練行ってお留守番してるとき寂しくない、ありがとうソフィア」
ベリーは大きな体を左右に揺らして喜んでいる。
ソフィアはベリーの喜んでる姿を見ていたが、ふとソフィアはベリーのさっき言っていた言葉にひっかかるものを感じた。
「そんなに竜騎士の訓練多いの?」
「うん、最近アンデは訓練でいないことが多いの、だからベリーちょっと寂しいの」
「そうなのね…」
ソフィアは心の中で嫌な予感がして胸がざわつく。この嫌な予感が外れてくれるのを祈るしかないのだった。
不安な気持ちを隠し、ベリーに他のお土産を渡し「また来るね」と約束してソフィアは城を後にした。
その日の夜、まるでソフィアの嫌な予感が的中するかの様にルイスとロベルトが【まんぷく亭】を訪ねてきた。
真剣な顔をしたルイスとロベルトを店内に招き入れ、ソフィアがレティシアを呼ぶと挨拶もそこそこにルイスは本題に入った。
「突然夜に来てすまない、緊急な話がある。数日後に北の国がガルシア王国に攻めてくる事がわかった」
「それって!戦争が始まるのですか?」
「ここだけの話なんだが、ここ数ヶ月前から北の国の行動が怪しく密偵が監視していたのだ」
「密偵の話によると北の国からガルシア王国に向けて武装した空飛ぶ舟が飛び立ったそうです」
「そんなっ!もしかしてロベルトさんもルイス義兄さんも戦地へ行っちゃうの?」
「ああ…2日後、我々竜騎士団が先陣として団の半分が出立することになった」
「そんなに早く…」
ルイスは無言のまま青ざめた顔のしているソフィアの元へ行き、カタカタと震える手を握りしめソフィアを立たせるとそっと抱きしめた。
ルイスは優しくソフィアの頭を撫で背中をポンポンと叩く。
「大丈夫だから、直ぐに追い返して帰ってくるから安心してくれ」
「……」
ソフィアはルイスの胸の中に顔を埋めたまま返事がない。
「ソフィア、俺を見て」
ソフィアはゆっくりと顔を上げ、今にも泣きそうな瞳でルイスの瞳と目を合わせる。
ルイスは大きな手でソフィアの頬を覆うと、ソフィアの瞳からひと粒の涙が流れる。
「直ぐに終わらせるから泣かないで」
ルイスはソフィアの小指を自分の小指に絡ませ、指先に口づけをする。
「帰って来たらルナ・ルースの所へ結婚式のドレス頼みに行こう」
「…はい、待ってます」
ソフィアは不安を隠すようにルイスに笑って見せた。
ルイスとソフィアが後ろを振り向くと、少し離れた所でロベルトがレティシアを膝に乗せ優しくすっぽりと覆う様に抱きしめていた。
レティシアの潤んだ目元にロベルトがキスをしているシーンを見てしまったルイスは気まずく目を背けたのであった。
「では、これからソフィアとレティシアには暫くの間俺のタウンハウスへ避難して欲しい。
ここは西門と第三騎士団に近く、戦に巻き込まれる可能性が高い。
俺達が戦いに出ている間、君達が危険な目にあったらと思うと気が気じゃない。だから済まないが戦いが終わるまでは店は休んで貰いたい」
「お気遣いありがとうルイス。もともとお店のお客さんは騎士の方ばかりだからお休みしても問題ないわ、戦争中では誰も来てもらえないもの」
「そうか。皆、ソフィアの料理が食べたくて戦いを早期に終わらせようと躍起になるだろうな」
「では、明日の朝に迎えの馬車を用意するから…」
コンコン…。
ルイスの言葉を遮る様に扉をノックする音が聞こえた。
ソフィアが駆け寄り扉を開けると。
「夜分遅くに失礼します、ソフィア様レティシア様。お迎えにあがりました」
「え?お迎え?」
扉を開けると城からの使者が立っていた。
使者は一礼しソフィアに手紙を渡す。
「レイナルド様からでございます。申し訳ございません、おそれいりますが直ぐにお読みいただけますか」
「…はい、少々お待ち下さい」
ソフィアが手紙を受け取ると直ぐに開けた。
それを脇から覗くようにレティシアも手紙を読む。
その手紙には今すぐ王城まで来て欲しいとだけ書かれていた。
レイナルドからの余りにも短い手紙を読んだソフィアは戦争の事だろうと察し、ルイスとロベルトにも手紙の内容を告げた。
「ルイス、ロベルトさん。レイナルド兄様に呼び出されてしまったので私達これから城へ行ってきます」
「あ、ああ…わかった。気をつけて、俺達も準備出来しだい城に向かうのでまた会えるだろう」
「はい…」
ソフィアとレティシアは後ろ髪を引かれながらも使者に促され馬車に乗りこみ城へと向かったのだった。




