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第84話




「珍しいね、ライムンドがレティシアの他にここまで肩入れする人物がいるとは。

時間を縫ってはその者の特訓に付き合っているのだろう?」


「兄上、久しぶりに共に酒を呑みたいと仰るから何事かと思えば、そんな事を聞きたかったのですか」


城の一室であるレイナルドの部屋にて兄弟二人が部屋でゆったりと酒を呑み交わしていると兄であるレイナルドが発した言葉にライムンドは眉を顰めた。


「だって気になるじゃないか、自分の恋を破った恋敵をわざわざ鍛えている弟の考えが」


レイナルドが手に持つグラスの中の氷がカランと音を立てる。


「…」


「外堀囲ってさっさと自分のものにしていれば良かったのに、ぽっと出の男に取られるとは」


「…」


レイナルドの一言が心の傷を抉り、ライムンドは思わず心の中でため息を吐いた。


「ソフィアはとりあえず、グラシア伯との婚約が正式に決まったよ。

伯爵だが貴族と結婚する事になるだろう。

出来れば侯爵以上が良かったが、とりあえず貴族とくっついてくれて助かった」


レイナルドはグラスの中の氷をカラカラて回しながら、何か思いふけるような表情を浮かべて、一口酒を飲んだ。


「父は私とソフィアを結婚させたがっていたが、私にはセラフィナがいたからね。

だからせめて、ライムンドはレティシアと結婚して貰おうと思っていたのだろうが宛が外れたね」


「父が英雄様と血縁になりたがっている事は遠に知っております。

きっとレティがディアス副団長と付き合い始めたと知ったら、別れさせようと仕向ける可能性がありますね。

…嫌、きっともうご存知なのでしょう。

最近ディアス副団長の仕事の量が徐々に増えています。

小賢しくもレティと会えないように仕事を多く振ってるみたいですよ、軍の最高責任者は俺だというのに勝手な事を…」


「そうだね、流石は父上だ。

まぁ、もし色々しても別れなかったら父はディアス副団長を高位貴族にさせようとするかもしれないね。

騎士爵程度では、英雄様の娘と結婚するには低すぎる。

騎士爵なら直ぐに返上出来て、レティシアと国を出ていく事も容易だからね」


英雄様の子を他国に渡らせる訳にはいかない。

そしてこの国に彼女達を縛り付けるには高位貴族と結婚してもらう他ないのだ。

ソフィアもレティシアも気付かない内に、平民とは恋仲にならない様に仕向けられていた。


基本的に魔法の才能も魔力量も遺伝だとされている。

その証拠に英雄の血は見事に娘達に継がれている。

そして、きっと娘が産む子も素晴らしい魔法の才能を持って生まれてくるだろう。

だから是が非でも王族に交えたいと、国王は考えているのだ。


「ふふっ、父なら子の代が駄目なら孫にって思ってるだろうからね。

ソフィアの産んだ娘か、レティシアの産んだ娘を王族と結婚させようとするだろうね。

王族と結婚するには伯爵以上の位が必要だ。

出来ればグラシア伯爵も功績を立たせて侯爵くらいにはしたいけどね、確実に次代の王族と結婚させるなら尚更。

あぁ、ソフィアの産む子供は可愛いだろうね、私も息子とソフィアの娘が結婚するのは賛成だしね」


まだ見ぬソフィアの娘を想像して笑うレイナルドをライムンドは引き気味に苦笑いする。


「グラシア伯爵に似るとは考えていないのですか?

兎に角、ディアス副団長は元は平民、今は騎士爵だけどレティと結婚するなら貴族位をもう大分上げてもらわないと困るんですよ。

もし無理なら本当にレティと無理矢理でも別れさせ、俺と既成事実を作る可能性もありそうなので…。

この前の時も既成事実寸前だったけど」


「あぁ、あの時のレティシアを城に泊めた時の噂は父がワザと広めた噂だからね。

父としてはそのまま婚約させるつもりだったのだろう」


「俺だって、ディアス副団長がレティに相応しく無ければ、レティから離すつもりだった。

だけど、レティはあの男が良いと泣いたんだ…。

だから、俺はレティの為にもディアス副団長をリカルド並に強くさせようと考えているんです」


「リカルド並にか…。ライムンドはディアス副団長を第一騎士団長にしようとしてるのか?」


「リカルドには他にして欲しい事がありますから、第一騎士団長を引き継ぎ出来る人材が欲しかったので丁度いいかと、実力は十分ありますしね」


「うむ…なるほどね。

確かにディアス副団長が第一騎士団長になれば引き継ぎ問題もレティシアの結婚問題も一気に片付くね。

第一騎士団長になれれば父もレティシアの相手に相応しいと思うだろう、第一騎士団長になった後に無理矢理でも功績を立てさせて爵位を上げれば良いのだから。

領地も与えてこの国に縛り付けれれば尚良しだね」


「はい、なので恋敵であろうが、なんだろうが、俺はレティの為になる事をしますよ」


「相変わらず、レティシア至上主義だね。一種の病気のようだよ」


「兄上だってセラフィナ姉様、至上主義じゃないですか。

勿論ソフィア姉様の事もですが。

俺は子供頃、兄上がずっと、どちらと結婚するのか謎でしたよ」


子供頃の兄の記憶は、片方にセラフィナ、もう片方にソフィアがいて、両手に花の様な状態だった。


「セラフィナは女性として好きだよ、ソフィアは妹として好きなんだ。

セラフィナもソフィアを実の妹の様に可愛がっているから、ずっと三人でいたいだけだ。

なのに父は事あるごとにソフィアと結婚させようとしていたからね、皆が勘違いするのも仕方がない」


父が余計な事をしたせいで、色んな貴族の思惑に巻き込まれ、ソフィアは貴族社会が苦手になってしまった。

そのせいで、成人すると共にソフィアは妹を連れて平民街で暮らし始めたのだ。

ソフィアが成人するまでは英雄様が忙しいから城が託児所代わりになっていたのに、レティシアが城からいなくなった時、ライムンドが膝から崩れ落ちたのがレイナルドの記憶に鮮明に残っている。


「まぁ…ソフィア姉様は兄上に全く恋愛感情を抱いていなかったから良かったものの、もし恋愛感情が芽生えていたら修羅場ですよ」


「ふふっ、大丈夫だよ。ソフィアの趣味は変わっているからね。

私の様に線が細い男には目もくれないよ」


1000人中999人がレイナルドの容姿を好きだと答えるだろうが、ソフィアは残りの1人に分類され、特に好みでは無いと答えるだろう。


「確かに…ソフィア姉様の好みはだいぶ偏ってますね」


今でも思い出す。

子供の頃、皆で騎士団の訓練を見学している時、身体が筋肉に覆われている体格の良い騎士を見てソフィアは、うっとりとした顔をして素敵と言ったのだ。

1000000人中999999人が好みと言わないであろうゴツい騎士に向かってだ。

その後、シャロも同じ趣味に目覚め、今現在もリカルドにアタックしているのだが。


「もう少しリカルドの歳が近ければ、ソフィアとくっつく事もあったのだろうが…」


「そんな事を言ってるとシャロに睨まれますよ」


「ははっ、そうだね。リカルドも王族の血を継いでいるから、年が近ければ父の思惑に巻き込まれただろうにね」


「リカルドの祖母は降嫁した王女で、父の叔母ですから、十分王族と近い方ですね」


「シャロはリカルドの心を射止めることが出来るかな?

私としては政に妹を巻き込みたくないから他国の王族と結婚させるつもりはないし、あの子の恋が実れば良いね」


「そうですね、少しアルバ公爵家に流れる血が王族と近すぎると言われるかもしれませんが、アルバ公爵家は王族派のトップなので問題もないでしょう」


「うん、アルバ公爵家の始まりも元は臣下した王族だからね」


「王族に対しての忠誠も強いですしシャロが降嫁するにも最適ですね」


実の妹の行く末が幸せであれば良いと兄二人は考えた。


「それにしても、ロベルト・ディアスは平民出だというのに魔力量が一貴族以上にあるのは稀だね」


「そうですね。…珍しいと言えばディアス副団長の黒曜石とも言われるほどの漆黒の髪も珍しいですよね。

あれで目も黒色でしたらまるで初代様の様ですね」


その後、二人は他愛もない話をしながら酒を酌み交わすのだった。








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