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第83話

深い森の中、日が殆ど当たらない鬱蒼と茂る場所は街よりも冷たく、吐く息が白くなる。

そんな深い森の中を歩く、三人の姿があった。


「今日はリカ兄様ですら苦戦していた、とても危険で難しい特訓をしてもらいます。

私は一度もしたことがないから、今日は付き添いとしてライ兄様にも来てもらいました!」


「よ、よろしくお願いします…」


「あぁ…」


((気まずっ))


ロベルトとライムンドの間に起きた出来事を知らないレティシアは、二人の心の声に気が付くことなく、サクサクと北の森の奥へと進んでいく。


ロベルトは、まさか第二王子が自分の特訓に来るとは思うはずもなく


ライムンドはレティシアのお願いを断れる訳もなく


微妙な空気が二人の間に流れる。


「それにしてもレティ。ソフィー姉様の側についていなくても良かったのか?」


ライムンドは少し心配そうな顔をしてレティシアに問いかけた。

実はソフィアは昨日から体調不良で寝込んでいるのだ。

グラシア領へ行った疲れか、季節の変わり目のせいか、はたまた両方か。


「お母さんがいてくれるから大丈夫だって。それよりお店再開する為のお肉調達宜しくって追い出されちゃったよ」


しばらく狩りに行っていなかったのでインベントリの中のお肉は殆ど無くなってしまっている。

食べ盛りな騎士たちで賑わう【まんぷく亭】を営業するにはお肉は必需品である。


なのでレティシアはロベルトの特訓のついでに美味しいお肉を調達するつもりだ。


「よし!この当たりが良いかな」


しばらく歩き目的地に着いたレティシアはインベントリの中からゴソゴソと物を取り出していく。


「先ず初めにライ兄様にお手本を見せて欲しいんだ、ライ兄様もリカ兄様と一緒にこの訓練受けた事あるんだよね?」


「あぁ…そうだな」


レティシアの問にライムンドは昔の死ぬ程キツい特訓の日々を思い出して苦笑いを零した。


「お願い、ライ兄様」


「分かった」


了承したライムンドはレティシアから渡された眼帯で左目を覆い、レティシアはライムンドの左腕を使えない様に専用の拘束ベルトで後ろに固定した。


「これは…いったい」


「この特訓は負傷しても尚、戦い続ける為の特訓です。

だから、今回は左目と左腕が使えなくなった状態を仮定して魔物と戦うんですよ」


「なるほど、必ずしも治癒魔法が使える魔法士がいるとは限らない、負傷したからといって敵が攻撃を止めてくれるわけでもないって事ですか」


「うん、本当は私もこの特訓してみたいんだけど」


「駄目だ」


すかさずライムンドがレティシアに突っ込む。


「って言われるから出来ないんだ。過保護過ぎるよね」


「レティは魔法も十分使えるんだ、だから手足を負傷しても、剣でなく魔法で戦えばいい。

それに、レティの魔力がそう簡単に尽きるとは思わないが、もし万が一魔力が底を尽きてもインベントリの中に魔力ポーションが腐るほど持ってるだろ。

この訓練は魔法よりも剣で戦う人間がしてこそ意味がある、ディアス副団長は魔法も使えるが剣で戦うことの方が多し、インベントリ持ちでない者が魔力ポーションもそこまで持ち歩けないだろう」


「分かってるよ〜お父さんにも耳タコくらい言われたから」


「なら、一人で絶対にやろうとするなよ」


「はーい」


「そうだ、レティ。ちゃんと治癒ポーションは持ってきているよな?」


「も、勿論!持ってきてるよ」


ロベルトと恋人になる前、森で足を怪我したときは治癒ポーションを補充するのを忘れていて持っていなかった。

それを姉に怒られた事を思い出し、背中に冷や汗が伝った。


レティシアは全属性の魔法が使えるが、実は聖属性魔法の中で治癒魔法だけが唯一、下手なのである。

傷が治せない訳ではないのだがレティシアに治癒魔法をかけられた暁には、傷の痛みが10倍に跳ね上がり、しかも時間をかけて治っていく。

レティシアの治癒魔法をかけられた者を見たレイナルドやライムンドには拷問にはもってこいだと、謎の励ましがあったぐらいにレティシアの治癒魔法は酷いのだ。


なので人に向かっての使用禁止である。

もしかしたらアンデットを倒すには有効かもしれないがダンジョンや朽ちた墓場ぐらいにしかいないのでレティシアは試した事がない。


そんなこんなで、レティシアは一人で森に入る時は必ず治癒ポーションを持ち歩かないといけないのであった。


「よし。じゃあ、もしもがあった時にちゃんと使えるように出しといてくれ」


「はーい、じゃあ笛吹くからライ兄様スタンバイお願いね」


「あぁ、いつでも大丈夫だ」


レティシアとロベルトはライムンドから少し離れた大きな木の上に登ると、レティシアは口に笛を咥えた。


「いくよ、3.2.1.」


ピィィーーーーーーーー!!!


レティシアの吹く魔物寄せの笛の音が静かな森の中で響き渡る。


ライムンドは隠された左目だけでなく、右目まで瞑り、神経を研ぎ澄ませる。


「!!?」


隠された左目だけでなく両方の目を使わずに待ち構えるライムンドにロベルトは驚きを隠せないでいた。



そして笛を吹いて数秒後。



ザザザザザッ…


笛の音に惹かれたAランク超えの魔物達が現れたかと思うと、一斉にライムンドへと襲いかかり始める。


魔物達が一斉に向かってくるのに、微動だにしないライムンドにロベルトは咄嗟に身体がライムンドを助けようと動く。

だが、それをレティシアは手で止めた。


「よく、見てて」


ライムンドが鞘から剣を抜いた瞬間、その場から一歩踏み出したかと思うとライムンドの姿が消え、周りの魔物達が一瞬にして胴体から頭が切り離され、血しぶきをあげ絶命する光景が目に入った。


「なっ!!?」


「流石ライ兄様、相変わらず早い」


何秒も経っていないだろう、それよりもライムンドが何をどうしたのかロベルトには分からなかった。

ライムンドが鞘から剣を抜いた後は、彼の姿が見えなかったのだから。


「ここまで…」


強かったのか、とロベルトは唖然とした。

やはりあの時、自分と戦っていた時ライムンドは手加減をしていたのだ。

もし、ライムンドが本気で戦っていれば自分が勝てる訳がなかったと思い知らされた。


その後も次々と襲ってくる魔物をライムンドは一瞬にして首を刎ね続け、ライムンドの周りには魔物の死体が積み重なっていた。


「はい、終わりだよ!笛の効果も切れたから」


「そうか、腕は鈍ってなさそうで良かった」


「ふふっ、ライ兄様眼帯の意味なかったね、結局両目瞑ったままずっと戦ってる」


「リカルドと共に特訓した最後の方はずっと両目を塞がれた状態でやってたから癖でついな」


「魔物も解体しやすいし、状態も良いから高く買い取ってもらえそうだね」


「あぁ、レティに全部あげるからインベントリの中に入れておけ。肉は店で使うと良い。

肉以外の素材は換金したらシャロとお揃いの服でも作れ」


「わーい!ありがとう」


レティシアと、ライムンドが親しげに話す姿をロベルトはただ言葉を発する事も出来ず見つめていた。

やっぱりレティシアにはライムンドと一緒になった方が良かったのではないかと心の奥底で考えてしまう自分がいる事にロベルトは気がついてしまった。

自分よりも地位が高く、強くて気がしれていると。


そんな事を考えて、嫌、駄目だと、ロベルトは頭を振った。

レティシアは自分を選んでくれたのだ、劣等感で逃げようとしては駄目だ。

ライムンドよりも自分が強くなれば良いんだ。

地位だって、努力すれば今より高くなる事だってあるだろう。


レティシアだって、自分の為に特訓に付き合ってくれるんだ。

何時ぞやの、レティシアの発した言葉を思い出す。


『生きて帰ってきて欲しいから』


彼女の想いに応えるためにも、今ここでちっぽけな嫉妬と劣等感で逃げてはいけない。

恋敵に追いついて、追い越して、レティシアの隣に立つべきだ。


「必ず、自分は」


ライムンドよりも強くなってみせるとロベルトは心に誓った。


「じゃあ、次はロベルトさんの番だよ」


「そうですね」


レティシアに眼帯をつけられ、左腕を拘束される。


「強くなったロベルトさんならきっと出来るから、左腕で余裕そうだったら利き手の右腕拘束でも出来るように頑張りましょうね!」


「あぁ」


左腕だろうと利き手だろうと、どちらを拘束されようが、やり遂げてみせようとロベルトは心に誓う。




それから始まった地獄の様な特訓にロベルトは死ぬ気で食らい付くのであった。




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