第79話
ソフィアがルイスと旅行から帰って来た次の日の昼下がり、【まんぷく亭】の2階はとても賑やかだった。
「「おかえりなさい、お父さんお母さん」」
「ただいま、ソフィアちゃん、レティちゃん」
「ソフィアちゃんレティちゃん元気してた?変わりない?」
「うん、元気だったよ」
「ええ、変わりないわ。お父さんとお母さんが今日帰って来てくれて良かった、私も昨日旅行から帰って来たの」
「グラシア領に行ってきたのよね、どうだったの?」
「とても楽しかったわよ。海も湖もとても綺麗で特にお屋敷のバルコニーから見る夕陽が最高に綺麗だったの。
お父さんがアクアパッツァを教えたレストランにも行ったのよ、お父さんが作るのと同じ味で美味しかったわ」
ソフィアは旅行中の出来事を思い出しうっとりした。
思い返してるソフィアの顔を見てヴァレンティナはソフィアの恋が順調なのだとわかり安心した。
「楽しめて良かったわね。グラシア伯爵は元気?」
「ええ、もう今日から仕事だって言ってたわ。そうそうお父さんとお母さんにお土産沢山買ってきたの」
「あら、嬉しいわ!」
ソフィアはインベントリの中から次から次へと取り出して見せた。
ソフィアがお土産のマグカップを見た時、両親に言わなきゃいけないことを思い出した。
「あ、そうだ。夕方にルイスが来るからお父さんとお母さんに会って欲しいの」
「まぁ!それって」
「ソ、ソフィアちゃん…それって」
「ふふっ、プロポーズされて正式に婚約することになったから、お父さんお母さんご挨拶したいって」
ソフィアは薬指につけたルイスから貰った指輪を嬉しそうに両親に見せる。
「そうなのねぇ〜!!」
「遂に…この日が来ると覚悟はしていたが…うぅ」
夏にソフィアからルイスを紹介されていたから何時かはその日が来るとは思っていたが、こんなに早く来るとは…とアルセニオは半泣き状態だ。
「あ!私も!ロベルトさんにあって欲しいんだ、二人一緒に来るから」
父の気持ち子知らず…。レティシアは慢心の笑みで両親に告げた。
「「!!!?」」
レティシアから発せられた、男性であろう名前にヴァレンティナとアルセニオが驚愕し目を見開いた。
「レ…レティちゃん?ロベルトさんって」
「結婚を前提にお付き合いしてる人だよ」
「まぁまぁまぁまぁ!夏に帰って来た時にはいないって言っていたのに~」
ヴァレンティナはソフィアに続きレティシアにも彼氏が出来たことをとても喜んだ。
「レティちゃんまで……」
照れくさそうにするレティシアにヴァレンティナは嬉しそうに声を上げる一方、アルセニオは膝から崩れ落ち男泣きした。
日が暮れ、そろそろルイスとロベルトが来るであろう時間になると、アルセニオとヴァレンティナはソワソワし始めた。
ドアをノックする音が聞こえたソフィアは、早足でドアを開けるために向かう。
「いらっしゃいませ…ってあら?」
ドアを開けるとソフィアが想像していたルイスの姿はなく、ロベルトの姿だけであった。
「ロベルトさん、いらっしゃいませ。ルイスと一緒に来ると思っていたんですが」
「すみません…団長は王城に急遽呼ばれてしまいまして、要件が片付きしだい伺うとの事です」
「あら、それは残念ね」
仕事ならば仕方がないとソフィアは頷き、ロベルトを中に招き入れた。
「ロベルトさん、ここに座ってお待ち下さいね、今お茶を入れてくるので」
「ロベルトさん、いらっしゃい!今日は来てくれてありがとう。紹介するね、父のアルセニオと母のヴァレンティナです、お父さんお母さん、お付き合いしているロベルト・ディアスさんです。第三騎士団の副団長してるの」
ロベルトがアルセニオとヴァレンティナに向かい深々とお辞儀をする。
「初めまして。レティシアさんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いております、ロベルト・ディアスと申します。
本日は時間を頂き誠にありがとうございます、そして急な訪問で申し訳ございません」
「貴方がロベルトさんね!レティちゃんたら凄いイケメンな人とお付き合いしてるのね!挨拶に来てくれるなんて嬉しいわ」
本日ロベルトが身に纏っている服は新しく仕立てられ竜騎士団の礼服であり、黒い詰め襟に肩から下がる金のエギュレットが、ロベルトの容姿に相まってよりイケメン度を増していた。
「大切な娘さんとお付き合いさせて頂いているので当然の事です」
「ふふっ、レティちゃんも素敵な人と出会えて嬉しいわ、レティちゃんの事よろしくね」
「はい」
レティシアはロベルトの挨拶が終わったので、ロベルトを席に案内し、ソフィアからお茶を受け取りに厨房へ行くため席をはずした。
「ロベルトさん、ちょっと待ってて下さいね」
「はい」
「ねぇ、ロベルトさんは…」ヴァレンティナがレティシアが居ないことをいいことに、レティシアとの馴れ初めなどを根掘り葉掘り聞こうとしたその瞬間、突然隣のアルセニオが立ち上がる。
「君に娘は、やらん!!!!!!!!!!」
今まで言葉を発していなかったアルセニオの声が部屋中に響き渡った。
その言葉にロベルトは背筋に嫌な汗が流れた。
やはり自分ではレティシアにふさわしく無いのだとロベルトは手を握りしめたが、ここで素直に引き下がるわけにはいかないと、口を開こうとした瞬間、部屋中に大きな音が鳴り響いた。
ガッシャーン
何事かと、皆が音の正体へと目を向ける。
その正体はレティシアの手から滑り落ちたコップ達が砕け散る音だった。
「あ、いや…これはその…」
父親の言葉を聞いていたレティシアは今にも泣きそうな顔をしていた、それを見たアルセニオは慌てて言い訳を言おうとするが焦って言葉にならない。
「お父さんの馬鹿!大っ嫌い!」
レティシアの目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
「レティ!!」
レティシアは勢いよく家から飛び出した。ロベルトは慌ててレティシアを追いかける。
「レティ、待って!」




