第73話
女性蔑視な発言があります、地雷な方はUターンお願いしますm(_ _)m
クラロの屋敷に着いて3日目
朝食を済ませたソフィアは侍女と二人で庭を散歩している。
一方ルイスは叔父と一緒に執務室で仕事をしていた。
屋敷に着いた日、ルイスはソフィアに庭を案内すると言っていたのだが昨日はバタバタしていてソフィアに庭を見せることが出来なかった。
今日、本当はルイスがソフィアを庭の案内したかったのだが、ルイスは領主としての仕事が溜まっていた為、泣く泣くその役目を侍女に託し執務室へ消えて行った。
ソフィアは、ソフィアの部屋付きの侍女アマリアと仲良く庭を眺めながらガゼボに着いた。ソフィアは一緒にお茶を飲もうとアマリアを誘う。
「ソフィア様、本当に宜しいのですか?私もお茶をご一緒させて頂いても」
「ええ、もちろん。二人で飲んだほうが楽しいわ」
「ありがとうございます、ソフィア様とお茶を飲めるなんて嬉しいです(他の侍女達にソフィア様とお茶を飲んだのがばれたら怒られそう…)」
秋の優しい陽射しの中、二人は話しが合ったのか楽しく会話をしながらお茶を飲んでいる。
「ソフィア様の住んでいる王都へいつか行ってみたいです」
「来る時は声をかけてね。案内させてもらうわ」
「はい!」
「ふふっ。ねぇ、アマリアさん、どなたかいらっしったみたい」
「あっ、あれはクラウディオ様じゃないですか。なぜこちらに?」
庭の小道をソフィアの方へ歩いてくるクラウディオが目に入った。
昨日ルイスがクラウディオを出禁にすると言ってたのになぜ入ってこられたのだろうとソフィアが疑問に思っていると、後ろから追いかけてきた門番がクラウディオに追いつき話しかけた。
「クラウディオ様、勝手に入られては困ります。それにルイス様は執務室でございます、こちらではございません。それと昨日、ルイス様が街から帰って来たあと屋敷の者達にクラウディオ様が来ても敷地内に入れないよう通達がありました。しかしここまで来られてしまってはしかたがありません、ルイス様に連絡してまいりますのでクラウディオ様、屋敷内へ速やかに移動をお願いします」
「まあまあ、いいじゃん〜気にしない気にしない。それに今日はルイスじゃなくてソフィアちゃんに話しがあってね~」
ずかずかとガゼボの中へ入って来たクラウディオはソフィアを見るなり「おはようソフィアちゃん、今日も綺麗だね〜」と言いながらどかっとソフィアの前に座った。
アマリアがソフィアの前の席に断りもなく腰掛けたクラウディオを
諌めるが聞く耳を持たない。
門番に連絡を貰ったルイスが慌ててガゼボへと走って来た。
「クラウディオ、何しに来た」
クラウディオは声をかけてきたルイスを無視してソフィアに向かいペラペラと喋りだした。
「ねぇ、ソフィアちゃんってルイスなんかのどこを好きになったの?
やっぱり伯爵家当主だからかな。それなら俺も将来伯爵家継ぐし、見た目もルイスなんかよりも全然良いと思うんだ。
ソフィアちゃん程に美人なら平民だろうと貴族でも引く手数多だよ、だからルイスなんか止めて俺にしなよ。好きな物も、宝石でもドレスでも何でも買ってあげるから〜」
「クラウディオ!巫山戯るのもいい加減にしろ、お前はさっきから何を言ってるのか分かってるのか!?」
「…………」
クラウディオは声を荒らげるルイスを再び無視し、何も言わないソフィアの手を掴み引き寄せ、手の甲に軽く口付けた。
「なっ!!」
「ね、ソフィアちゃん。ソフィアちゃんが俺と結婚してくれるなら、ずっと君だけを愛するって誓うよ?」
整った顔と線の細いクラウディオがパチッとソフィアに向かってウインクをする。
容姿の良い男に言い寄られる状況は面食いな女性に喜ばれそうだがソフィアは眉を顰め、クラウディオの手をバシッと払い除けた。
「私の事をソフィアちゃんと馴れ馴れしく呼ぶのはおやめ下さい。
ルイスさんの幼馴染だからと、失礼にならないように大人しく聞いておりましたが、先程から何なのです?私の大切な方を“なんか”呼ばわりとは失礼過ぎて開いた口が塞がりません」
「ソ、ソフィア?」
いつもニコニコしているソフィアの表情がゴッソリと抜け落ち、真顔でクラウディオを見るソフィアにルイスはオロオロとする。
(もしかしなくてもソフィア怒ってるよな?)とルイスは慌てる。
この場にレティシアがいたら、そそくさとこの場から離れていただろう。
間違いなくソフィアは怒っている。
怒らせた姉はこの世の何より怖いのだとレティシアは知っているからだ。
いつもの様な、物腰の柔らかい話し方が嘘のように冷たく、この場が凍り付きそうなオーラがソフィアから漂ってくる。
「貴方が先程申し上げたセリフは、まるで私がお金や地位を目当てで仕方なくルイスさんとお付き合いしている様に聞こえますね。
貴族の、伯爵家の嫁になるのが目的だと。
そして、貴方は自分の方がルイスさんよりも見た目が良いと自負しておられるようですわ…大変な自信をお持ちのようで素晴らしいです」
クラウディオの、その自信はどこから来るのだとソフィアはクラウディオを上から下まで見る。
ソフィアにとってクラウディオは、筋肉が1周りも2周りも足りない、もっと身体を鍛え直してから自慢しに来いとソフィアは心の中で罵倒するが、世間一般にクラウディオは上の見た目で自信がある方が貴族の男にとって普通なのだ。
「言葉の意味が分かってるなら君は見た目だけでは無いみたいだ、狡猾な女性だね。
そうだよ、光栄だろ?こんな筋肉バカのルイスなんかではなく、俺の妻にしてやると言ってるんだら」
ソフィアの趣味が世間一般から大分ズレている事を知らないクラウディオはルイスより自分と付き合える事がソフィアにとって本当に光栄な事だと思い、鼻で笑った。
「お前っ!!」
余りにも黙っていられない程に酷いクラウディオの態度とセリフにルイスがクラウディオに掴みかかろうとするが、ソフィアがそれを止めた。
「ルイスさん、今は私がお話してますので少々お待ちくださいね」
「あ、あぁ。すまない」
クラウディオに向ける冷たい言葉ではなく、いつものソフィアの柔らかい言葉にルイスはホッとするが、何故だがソフィアの言葉に逆らってはいけないと本能で悟りソフィアの言われた通り、大人しくする事にした。
「ふふっ。直ぐに終わりますから大丈夫ですよ。
あぁ、本当に久し振りです、こんなにも頭にきたのは」
怒りが振り切れ、笑えるとソフィアの口角が上がり笑っているように見えるが、目は全く笑っていない。
そんなソフィアに畳み掛けるようにクラウディオは失礼な言葉を次々に口に出す。
「君だって資産も地位も一緒な男だったら見た目が良いほうが良いだろ?将来夫にして床を共にするなら尚更」
お前と床を共にするなど想像すらしたくないと、ソフィアの顔が歪む。
「貴方を夫にするなどこの世界が滅んでもあり得ません。
そして、私はルイスさんの資産にも地位にも全く興味がないです」
「はっ、良く言うよ。女性など皆がそれを目当てにしているくせに。
意地を張っても、顔の良い平民の女が非モテな貴族男と付き合ってる時点でバレバレなんだよ」
「違うと言っています、だって両方持っているのにこれ以上必要ないですから」
「両方持っているだと?平民が何を言って…」
(何を言っているのだコイツは)とクラウディオの顔が歪むが、そんなクラウディオにソフィアは満面の笑顔を返す。
「そう言えば正式な自己紹介がまだでしたわね。私は英雄アルセニオとヴァレンティナの娘のソフィアと申します。
えぇ、あの英雄の娘ですから、地位も資産もこれ以上必要がない程、十分に持ち合わせています」
「なっ…英雄様ってあの、公爵家以上に高い地位を持っている娘が何故!ルイスなんかと!!?」
ソフィアの言葉にクラウディオは驚き、その場から立ち上がり後ずさる。
そんなクラウディオから発した言葉にソフィアの堪忍袋の緒が遂にブチ切れた。
「これでルイス“なんか”と言う言葉は昨日を含めて7回目です。
貴方は随分と自分に自信がお有りの様ですが、いったいそんな薄く頼りない身体のどこに自信があるのか私は不思議でたまりません。
筋肉バカとおっしゃいましたが、ルイスさんの鍛え上げられた身体は努力の賜物。
どんな勢いで飛び込んでも揺るがない体幹は安心して身を任せられます。
騎士として努力して得られたこの筋肉はルイスさんの素晴らしい人格を表しています、この世界にはルイスさんの素晴らしい部分を分かっていない方が多過ぎます。
この前の建国祭でのご令嬢も同じです、ルイスさんを馬鹿にして、どれ程私が言い返したかったか。
よろめく私を支えてくれる上腕二頭筋と上腕三頭筋。
肩に寄り添う時に分かる素晴らしい三角筋。
後ろ姿も、騎士の制服の上からも分かる程に逞しい広背筋。
少し緩めた襟元から見える僧帽筋。
ギュッと抱き締められたときに感じる胸筋と腹直筋。
まだまだ言い足りないですが、どれもこれもルイスさんの鍛え上げられた筋肉は素晴らしいというのに。
兎に角!私はルイスさん自身に惹かれて好きになったのです、伯爵家当主だろうが何だろうが関係ありません。
絶対に言い切れます、今ここでルイスさんが平民になろうが、私は一生ルイスさんを愛し続けます」
ルイスを散々馬鹿にされ耐え切れない怒りを爆発させたソフィアの惚気に周りで聞いていたルイス以外の全ての人間が絶句し、固まる。
「ソフィア…」
ルイスは、そんなに俺の(筋肉)事を好きでいてくれたのかと、キュンっと胸をときめかせ感動していた。
「それに、ルイスさんの良いところは筋肉だけではありません。
中身だってそれはそれは素晴らしい方です。
偶然街でお会いした時も私の持つ荷物が重いからと、出かけるはずの所を引き返してまで手伝って下さり…」
「なっ!?ソフィア気がついていたのか?」
「えぇ、だって何かを買われた様子もなくマルシェへ向かう最中にしか見えませんでしたもの」
「なんとっ!」
「この様に、普段余り表情の動かない方ですのに、私の事になると頬を赤く染める姿もとても愛らしくて大好きですわ」
「ソフィア…そろそろ恥ずかしいからその辺で」
ソフィアの言葉を聞いて、ルイスは頭の先からつま先まで真っ赤になっている。
「あら、まだまだルイスさんの好きな所を言い足りないです」
「もう、十分に分かったから大丈夫だ」
途中から黙ってソフィアの弾丸の様な惚気話を聞いていたクラウディオが突然笑い出した。
「はははははっ!!ルイスが平民の女性を連れてきたと知って、貴族位目当ての碌でもない女性かと思っていたけど、まさかここまでルイスの事で惚気られるとは。
英雄様のご息女なら、地位目当てでわざわざ伯爵を選ぶわけない。
元々王太子妃候補で公爵夫人にすらなれる君がルイスを選ぶって事は、本当にルイスの事を愛しているんだな…ホッとした」
「クラウディオ?」
「ソフィア嬢、先程の失礼な態度と発言を心からお詫びします。
勝手ながら、ルイスの幼馴染として貴女を試したのです」
今までの態度を一変させ、深々と頭を下げて謝罪するクラウディオに怪訝な表情を見せるソフィア。
「試す…ですか」
「結婚適齢期を過ぎた貴族が、容姿の整った平民の女性に地位目当てで近づかれ、金が底を尽きるまで使わされ捨てられる出来事がここ数年で何件か起きていたんです」
「私がそれだと思ったんですね」
「はい。ルイスが酷い目に合うのが耐え切れないと、勝手ながら心配したのです…。
ソフィア嬢には大変失礼な事をしました。許されるとは思っておりません、今後貴女様の前二度と現れませんので」
「いえ、それを聞いて許せないほど私は心が狭くないです。
貴方の行動がルイスさんの為だと知り怒りも無くなりましたしね」
「そ、そうか…出来た女性だね」
「えぇ、私は心からルイスさんの事を愛しているので」
「ははっ、羨ましいよ。君みたいに素敵な人に俺もいつか出会いたいな。
ルイスを宜しくねソフィア嬢」
「はい、勿論です」
張り詰めていた空気は消え去り、仲直りした三人はガゼボでお茶を飲む事となった。
「そう言えば、クラウディオ。お前は今年の建国祭で見かけなかったが行かなかったのか?」
「あぁ、その日は風邪を引いてしまってね」
「そうか、来て入ればソフィアが英雄様の娘だと知れていただろうに」
「いや…あのピンクゴールドの髪を見て気が付かなかった俺が悪いんだ。ヴァレンティナ様に似てらっしゃるのに気が付かないなど、どうやら俺はルイスの事を心配しすぎて盲目になっていたようだ」
「クラウディオ、心配してくれていた事は嬉しいのだが…人の心配より自分の心配したらどうだ?お前の両親がぼやいてたぞ、そろそろ落ち着いて結婚して領地を継いで欲しいと」
「え〜やぶ蛇だぁ~、これ以上居たらルイスの説教が始まるから帰るよ〜」
クラウディオはソフィアに再び謝ってから、そそくさと帰って行った。
ガゼボで二人きりになったとたん、ルイスはテーブルにぶつけそうな勢いで頭を下げた。
「すまないっ!!!ソフィアにあんな事を言わせてしまった。
ソフィアはご両親の地位を引き出すのは嫌だと言っていたのに、俺のせいで嫌な思いをさせてしまった」
「良いんですよ、私もルイスさんとお付き合いする時に覚悟を決めました。
昔は英雄である両親の威を借るみたいで嫌だったんですが、ああいう貴族には両親の地位を引き出した方が丸く治まりますからね。
私はルイスさんの隣に立つため、ただのソフィアでは無く、英雄の娘としての方が良いと思ったんです」
「ソフィア…」
「どんな事があろうと、私はルイスさんと共にいたいので両親の威もお借りしたいと思います。
ルイスさんは、こんな私はお嫌いですか?」
「嫌いなわけないだろ!!冷静にクラウディオを言い負かしていたソフィアはとても格好良かった」
「嫌われなくて良かったです。でも、あんな姿をいつまでも覚えていられたら恥ずかしいので早く忘れて下さいね」
「ああ。(いや…あんなソフィアの怒る姿、絶対忘れられないと思う)でもソフィア、俺はクラウディオに言ってた言葉がとても嬉しかった。こんな無愛想で筋骨隆々な自分のどこを好きになる要素があるのか俺自身分からなかった。正直、ソフィアは俺の何処が好きなんだろうとずっと思っていたんだ。ソフィアありがとう、こんな俺を愛してくれて、ソフィア愛してる…俺と、けっ」
「ルイス様ー!!いつまで帰ってこないのですかー? マルセロ様が執務室でお待ちです、お早くお戻り下さい」
ルイスの声に被さるように、執事のルイスを呼ぶ声が大きく庭に響き渡る。
「……。ソフィアすまない、仕事終わらせてくる。早く終わらせないとお土産を買いに行けなくなってしまうからな」
「はい、待ってます」
ルイスは不完全燃焼のまま、慌てて執務室へと戻って行った。
「ルイスさん、さっき何を言いかけたのかしら?」




