第69話
林を抜けた馬車は背の高い鉄の柵で出来た門の前に止まった。門番二人が馬車に付いた紋章を見て急ぎ門を開けると、敬礼をしながら大きな声でルイス達を出迎えた。
「「お帰りなさいませルイス様」」
その声を聞いてルイスが窓を開けて親しげに門番に声をかけた。
「久しぶりだなお前達、元気にしてたか?」
「「はい!」」
「なによりだ」
「ルイス様、私はご到着されたことを屋敷の者に知らせる為失礼させていただきます」
「あぁ、分かった」
門番の1人が門の脇に繋いでいた馬に乗り走り去って行った。馬車は門をくぐり屋敷へと進んで行く。屋敷までの道の両脇には秋の薔薇が綺麗に咲き誇り見る者の目を楽しませる。
「薔薇が道沿いに沢山咲いていて凄いですね」
「ああ、今年のバラも綺麗に咲いているな。
初代の領主の奥方が大層花好きで、特に薔薇が大好きだったらしく、庭だけでなく屋敷に行き来する時も眺められる様にと領主である夫が妻の喜ぶ顔見たさに植えさせたらしい。それからずっと今まで大事にしてきたんだ。中庭はもっと綺麗だから明日街から帰ってきたら案内しよう」
「そうなんですね、楽しみにしてます!」
馬車の速度が落ちてゆっくりと止まり、馬車から降りると屋敷の扉の前にはロマンスグレーの短髪でがっしりした体躯の六十歳くらいの男性が二人を出迎え、脇には何人もの侍女達が立っていた。
「ルイス様お帰りなさいませ」
「ダニエル、ただいま。皆変わりないか?」
「はい、おかげさまで皆元気でございます」
「そうか良かった」
ルイスは隣に立っていたソフィアの腰を抱き寄せて執事に紹介した。
「ダニエル、紹介しよう恋人のソフィア嬢だ」
「初めましてソフィアと申します」
ソフィアはダニエルに向かい頭を下げ挨拶をすると、ダニエルは深々と腰を曲げ頭を下げてソフィアに自己紹介をした。
「ソフィア様、グラシア邸へようこそおいで下さいました。私、執事のダニエルと申します」
「よろしくお願い致します」
「ルイス様ソフィア様、エントランスではマルセロ様とカミラ夫人がお待ちしてます」
「ああ、では行こうか」
家令が扉を開け、ルイスがソフィアをエスコートしながら屋敷の中へと入って行くと、エントランスで叔父夫婦がソワソワしながら待っていた。入って来たルイスとソフィアを見て嬉しそうにマルセロは早歩きでルイスの元へと歩いて行った。
「おかえり!ルイス」
「ただいま、叔父上、叔母上」
「叔父上、叔母上、こちらが手紙に書いた恋人のソフィア嬢だ。ソフィア、こちらがマルセロ叔父上とカミラ叔母上だ」
「マルセロ・グラシアだ」「カミラ・グラシアですわ」
「初めましてソフィアと申します」
ソフィアはスカートの脇を摘みカーテシーをして挨拶をし頭を上げると、カミラと目が合った。
「ソフィア様、大きくなられて…」
「えっ、私のことご存知なんですか?」
「昔、夫と王城へ行った時にお庭で王太子妃様と遊んでいるお姿を拝見したことがあるんです。あんなに小さかったソフィア様がお美しく大人になられて、お会い出来て嬉しいですわ」
とカミラが突然ポロポロと涙を流しはじめた。突然泣き出したカミラにマルセロは「カミラ、ルイスやソフィア様が驚いているよ」とハンカチで涙を拭った。
「驚かしてごめんなさいね、ルイス、ソフィア様。こんなにお美しくなられたソフィア様をまさかルイスが恋人としてお連れするなんて思ってもみなくて、私、嬉しくて嬉しくて」
「叔母上…」
ルイスはこの年になるまで付き合う女性はおろかお見合いも全線全敗で叔父夫婦に心配をかけていたことは分かっていたが、ソフィアを連れてきてまさか泣かれるとは思ってもみなかった。
しんみりしてきた雰囲気を壊すようにマルセロが明るく声を上げる。
「立ち話も何だし、話の続きは晩餐の時にしようか。ルイスもソフィア様も旅で疲れだだろう部屋でゆっくりと休んでくれ」
「そうですね、では私達は失礼します。ソフィア行こうか」
「はい」
「また晩餐でな」
「「はい」」
ルイスはソフィアの部屋を案内する為、案内する侍女と2階の部屋ヘと進んだ。しばらく廊下を進み侍女が大きな扉の前で止まる。
「こちらがソフィア様のお部屋になります」
そう言って扉を開けた。
侍女が案内した部屋の場所を見てルイスは困惑するが、案内してしまったからにはしかたがないとソフィアと一緒に部屋へと入って行った。
大きな扉の先は白と淡いピンクを基調とした可愛らしい部屋だった。
ソフィアは部屋を見渡し、「可愛らしい素敵なお部屋ですね!でも良いのですか?私がこんなに素敵なお部屋使っても…」
「もちろんだ、私が恋人を連れて帰ると手紙に書いたから、叔母上がきっと張り切ってくれたのだろう」
「嬉しいです、後でカミラ様にお礼を言わないといけませんね」
「ああ、ソフィアが気に入ったと知ったら叔母上も喜ぶだろう」
「そういえば、ルイスさんのお部屋はどこなんですか?」
「…と、隣だ」
ルイスが真っ赤な顔をして答えた。ルイスが困惑した理由、それは自分の部屋の隣が将来ルイスの妻の部屋になるからだ。
叔父夫婦の気持はありがたいが、まだ婚約してないのにこの部屋の意味がソフィアに知られて重いと思われたらどうしようとルイスは不安だった。
「まぁ隣なんですね、ルイスさんが近くに居てくれて良かったです」
「そ…そうか、俺もソフィアが隣の部屋で嬉しいよ。ではまた晩餐の時に迎えに行くから、それまでゆっくりしててくれ。なにかあったら机の上のベルを鳴らせば侍女が来るから」
ルイスはソフィアの部屋を出て、自分の部屋に入ったあと大きく安堵の息を吐いた。
ソフィアが侍女の入れたお茶を一人で飲んでくつろいでいると、扉をノックする音が聞こえてきたので返事をすると侍女達が大小の箱を持って入って来た。
「こちらはルイス様からの贈り物でございます」
「あら、何かしら?」
ソフィアは侍女達に手伝ってもらいながら箱を開けると淡いグリーンのドレスがカードと共に入っていた。
「愛するソフィアへ
良かったら晩餐の時に着てほしい
ルイスより」
ルイスは建国祭の時ソフィアにオーダーメイドでドレスを送れなかったことを悔やんでいた。一緒に領地へ行く事が決まった時にルナ・ルースに注文していたのだった。
「ルイスさん…」
ソフィアはルイスからのプレゼントが嬉しくて、ドレスをそっと抱きしめた。
そして、他の箱にはホワイトゴールドと真珠で造られたネックレスとイヤリングのセット、ドレスに合わせた靴も入っていた。
ソフィアは侍女に髪をセットしてもらいドレスを着るのを手伝ってもらった。セットした髪には侍女の1人が途中退席し持ってきた赤い小さな薔薇の花と白い小花を差してある。
(ふふ、きっとこの花はルイスさんの髪と目の色に合わせてくれたのね)
ソフィアはルイスから贈ってもらったドレスが嬉しくて鏡の前でスカートをひるがえし回って見ている。その後では仕度の出来上がったソフィアが余りにも美しくて侍女達は見惚れていた。
しばらくして、ルイスがソフィアを迎えに来たのでソフィアはエスコートされて部屋を出て行こうとしたが、急に後ろを振り返り侍女達に向かって満身の笑みでお礼を告げた。
「綺麗にしてくださりありがとうございました」
「ソフィア様!」
侍女達は二人を見送るため頭を下げていたが扉がしまるなり、床にへたり込んだ。
「英雄様のご息女であるソフィア様、想像以上にお綺麗だったわ…」
「えぇ、あの笑顔は破壊的よね…女神だわ」
「初めて見た時、美し過ぎて腰が抜けると思ったわよ」
「ソフィア様とルイス様、ご結婚されたら良いな!!一生お仕えしたい」
「うんうん」
このあと、二人には内緒で侍女達によるソフィアのファンクラブが出来たのだった。




