第61話
ガルシア王国が秋深い色に染まり、王都の【まんぷく亭】では明日からソフィアが恋人であるルイス・グラシア伯爵の領地へ行く準備に追われていた。
「レティ、本当に留守番するの?今からでも遅くないわ、一緒に行きましょう」
「もう!お姉ちゃんてば、大丈夫だって!ゆっくり団長さんと仲良く行ってきて、私はシャロちゃんやロベルトさんと遊ぶ約束してるんだから」
「そう?心配だから一人ではあまり出歩かないでね」
「大丈夫だよ」
「私が王都にいない間だけよ、行くときはロベルトさんとね」
「はーい、もうお姉ちゃん前より過保護になったよね」
当たり前でしょ、と少し怒りながらソフィアは先週おきたレティシアの出来事を蒸し返した。
ソフィアは貴族に絡まれたレティシアにまた何かあったらと心配してるのだ。
「レティとこんなに長く離れるなんて初めてだもの、心配だらけよ
」
「ありがとうお姉ちゃん、心配してくれて。何かあったらロベルトさんやシャロちゃん、リオおじ様を頼るから安心して行ってきて」
「…約束よ」
「それよりお姉ちゃん、準備終わったの?」
「大体必要そうな物はインベントリにしまったんだけど…服がなかなか決まらなくて…」
そう言うソフィアの座ってる周りには服が所狭しと置いてある。レティシアが、私が決めてあげると言ってテキパキと決めてソフィアに渡していく。
「明日の着ていく服は決まっているみたいだから、ホテルに着いて食事の時はこれねー、あと他の日はこの方がいいかな、向こうに着いた時に着るのはこれと、あとは街に出る時の外出着はこれとこれ、あとは…」
そう言いながらレティシアは全部決めてしまった。
「選んでくれてありがとうレティ、旅行の準備って大変なのね」
「子供の頃はお母さんがやってくれてたし、大きくなってから長い旅行は行ってないからしかたがないよ。
お姉ちゃんの服を選ぶのは簡単だよ、買い物の時は私が選んでるしお姉ちゃんの好みは把握してるからね」
「ふふっ、そうね。助かったわ」
「もうこれで終わりでしょ?」
「えぇ…」
まだ悩みがあるのかソフィアは小さくため息をついた。
「ねぇ、レティ…ロベルトさんとの…」
「との?」
「キスした時ってどうやってそんな雰囲気になったの?」
ソフィアの悩みとは、ルイスと付き合って半年以上経つのに何の進展もないから、どうやったら進展するのか、ルイスとの旅行で少しは進展したいと思い、先に経験したレティシアに悩みを打ち明けた。
「えぇーっ!?どうやってって…ロベルトさんがね…」
「うん」
「告白してくれて、そっと抱き寄せてから…」
「うんうん」
「もー改めて話すと恥ずかしいよ!」
レティシアが恥ずかしくて話すのを止めてしまったので、せめて何か良い案がないかとソフィアはねだった。
「お願いよレティ、一緒に考えて」
レティシアはとりあえずソフィアにこんなのは?と提案してみる。
「前にも言ったけど、お姉ちゃんからキスしてってねだる?」
「頑張るって言ったけど、やっぱり無理よー」
「馬車の中では二人きりになるんだから、目があったら目を閉じてキスしてくれるのを待つ」
「ルイスさんだと、眠たいのか?着くまで寝てるといいって言ってブランケットを掛けそうよね…」
「団長さんならありえそう…じゃあ、歩きながら腕を密着させて胸を押し当てる?その気になってキスしてくれるかもよ」
「それってキスより無理よー」
お姉ちゃん、自然にまかせたほうが良いって、と言ってレティシアは提案を諦めた。
「そんなー、自然にまかせたから半年以上なにもないのよ」
「焦ってたって無理だよ。とりあえず流れに身を任せて、頑張って!」
「努力する…」
「明日は朝早く出発するんだから、お姉ちゃん早く寝たら?」
「考えても結果でないし、もう寝るわ…」
「おやすみーお姉ちゃん」
「おやすみレティ」
布団に入ったソフィアは、考えても仕方がないと分かっていても明日からの事を考えてしまい、悶々としてなかなか眠れなかった。
余り寝れなかったせいか朝起きる時間になっても起きることが出来ず、結局レティシアに起こされる事になった。
「おはようお姉ちゃん」
「おはようレティ、うぅ…眠い…」
「考えたってしかたないのに」
「だって…」
「なるようになれ!だよお姉ちゃん!」
時間がないから早くご飯食べて準備しないといけないよとレティシアが、いつもとは逆にソフィアを急かす。
朝食を食べ、なんとか支度が済んだソフィアにレティシアが声をかける。
「ほら、もう団長さん来る時間だよ」
「あら!もうそんな時間!?ギリギリ間に合ったわね」
普段のソフィアなら余裕をもって行動出来たのだろうが、ルイスとの旅行先での悩みと寝不足が余裕をなくしていたのだろう。
「ほら来たよ」
コンコンとドアを叩く音が聞こえ、ルイスがソフィアを呼ぶ声がする。
「はーい、今行きます」
慌ててソフィアがドアを開けると目の前にはラフな格好したルイスが立っていた。久しぶりの私服姿のルイスを見てソフィアはドキドキする。
いつもの騎士服姿もかっこいいけど、今日の私服姿もかっこいいとソフィアはルイスの姿をじっと見つめた。
「おはようソフィア、妹君」
「「おはようございます」」
「ソフィア、準備はいいか?」
「えぇ、荷物は全部インベントリに入ってます」
「そうか、便利だな。そろそろ出発したいが大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
ルイスはソフィアとの初めての旅行に少し緊張してるのか、なんとなく声が硬い。そんなルイスに和ませようとレティシアが明るく声をかける。
「団長さん、お姉ちゃんのことお願いしますね。お土産は美味しい特産品を待ってます!楽しみにしてますねー」
「ああ、もちろん無事に帰って来ることを約束しよう。お土産楽しみにしててくれ」
「お姉ちゃん、団長さんと楽しんできてね。気を付けて行ってきてね」
「レティも気を付けてね。じゃあ、いってきます」
「はーい、お姉ちゃん団長さんいってらっしゃーい」
ルイスがソフィアの手を取り馬車に乗り込むと、窓からソフィアがレティシアに手を振り、レティシアも手を振り返す。馬車はゆっくり進み、ルイスとソフィアはグラシア領へと旅立って行った。




