第58話
「んっ…ここは…」
ふかふかなベットの上でレティシアは目を覚した。
3、4人くらいが余裕で寝れそうな豪華なベットで何故自分は寝ているのだろうかと、寝ぼけて動かない頭でレティシアは考えた。
「あぁ…そうだった、この部屋はライ兄様に案内された部屋だった」
徐々に状況を理解して、何があったか思い出したレティシアは、自分がお風呂でのぼせてしまった事を思い出したのだった。
「侍女さん達が運んでくれたのかな?申し訳ない事しちゃった…」
後で謝ろうと思ったレティシアは、何だかまだ身体が暑いなと思い、ベットから降りた。
「もう、すっかり夜だ…。雨もいつの間にかやんでる」
惹かれるようにバルコニーへと向かい硝子の大きな窓を開けて外へと出た。
「綺麗…」
目の前に広がる中庭は満月に照らされ、雨で濡れた花々がキラキラと輝いていた。
空を見上げると、雨を降らせた黒い雲は無くなっており、雲一つない空が広がっている。
「冷たくて気持ちい」
暑く火照った身体を夜風が冷して気持ちが良い。
ボーッと満月を眺めていると、後ろから気配がした。
「こら、こんな夜更けに何してるんだ」
「ライ兄様…」
気配だけで誰が来たが分かっていたレティシアは後ろを向くとライムンドが呆れた顔で腕を組んで立っていた。
「もう夏ではないんだ、そんな薄着でいると風邪を引くだろ」
そう言ってレティシアの元まで来たライムンドは自分の着ていたジャケットを脱いでレティシアの肩にかけた。
「ありがとうライ兄様…まだお仕事してたの?」
「あぁ、少しやる事があってな」
第二王子であるライムンドは、軍の最高統括者を任されており、成人してからの仕事は多忙であった。
「お疲れ様」
「ありがとう、レティ」
ライムンドはレティシアの腰を抱いて寒くない様に風除けになる。
「レティ、今日何があったのか聞いても良いか?…嫌だったら別に構わないのだが」
ライムンドはレティシアに気遣いながらもレティシアに何があったのか聞いた。
もし話す事すらしたくない出来事があったのならば影に調べさせれば良いとライムンドは頭の中で考えた。
「ううん…ライ兄様には凄く迷惑かけたから話す」
そう言って、また泣きそうな顔をしながら今日起きた出来事をポツリ…ポツリとレティシアはライムンドに話始めた。
レティシアの話を聞きながらライムンドは優しく相槌を打っていた。
だけど頭の中では、レティシアが言った子爵令嬢とか言う女をどうしてやろうかと考え、腸が煮えくり返っていた。
「……………それで、一人になりたくて歩いてたんだ」
「そうか…辛かったな…」
「うん……グスッ……だって、婚約者がいるって知らなかったんだ…」
「あぁ…」
「好き…なのに…私じゃ駄目なんだって…」
思い出してまた、涙を流すレティシアをライムンドはそっと抱き締めて頭を撫でる。
ライムンドは、やっぱりレティシアはあの男の事が好きだったのだと知った。
武闘大会で見たロベルトの姿を思い出して、少し顔をしかめた。
「そいつが好きだったんだな…」
「うん…好き…好きだったの…」
腕の中で他の男を好きだと言って泣きじゃくるレティシアにライムンドは胸が締め付けられる。
「レティ…」
そんな男じゃなくて俺の事を選べと、言いそうになるが、ライムンドは既の所で止めた。
俺の方がレティの事を愛していると、俺ならば絶対に泣かせたりしないと、守ってやれると、ライムンドは心の中で叫ぶが、それを隠すように優しくレティシアの身体を抱き締める。
慰めるように、昔の様にポンポンと背中を叩いていると、いつの間にかレティシアの嗚咽が止み、そしてスゥスゥと穏やかな寝息が聞こえてきた。
「おっと…」
本格的に眠って足に力が入らなくなり倒れそうになるレティシアをライムンドは抱き抱えた。
やっぱり昔と変わらないなとライムンドは思った。
レティシアは子どもの頃からどんなに泣いていようが、こうやって抱き締めて背中を優しく叩いていると、直ぐに寝てしまうのだ。
「よっと…」
眠ってしまったレティシアをライムンドは丁寧にベットへと横たわらせた。
レティシアの泣いて赤くなった目元をライムンドは優しく撫でる。
「俺にしとけよ…レティ」
俺だったらお前をこんな風に泣かせたりしないのに。
ライムンドの呟きは、眠っているレティシアの耳に届かず静かに消えていく。
「愛してる…」
そう言ってライムンドはレティシアの額にそっと口付けを落として、静かに部屋から出ていった。
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部屋を出たライムンドの前には闇夜に溶け込むように従者が一人待機していた。
「明日、日が明けると共に第三騎士団副団長であるロベルト・ディアスを呼び出せ」
「はっ…」
淡々と口にしたライムンドの命に従者は返事をした。
そしてライムンドは従者が下がったのを確認し、人がいる筈のない方向に目を向け、小さな声で呟く。
「マルティン子爵の内情を調べろ」
「…畏まりました」
ライムンドの言った命に同意する声が、どこからか聞こえ、そして消えた。
確かマルティン子爵は最近羽振りが良いと耳にした、少し突けば何か出てくるかもしれないとライムンドは黒い笑みを浮かべた。
「レティの為なら…俺は」




