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第101話

寒さが緩んできたガルシア王国のある晴れた日の午後、王城の中の王族の住む居住区入り口にある庭にソフィアの姿があった。


居住区入り口の庭とその奥にある王族専用の庭は、四季折々代々の王妃が好きな花々が植えてあり、王妃の庭といわれ一年中花が咲き乱れている。




ソフィアはエレノア王妃とセラフィナ王太子妃に王城内の教会で挙げる結婚式の相談をする為昼餐をかねて登城していた。

昼餐を済ませたソフィアは、竜騎士の仕事で登城していたルイスが昼過ぎには仕事が終わるというので一緒に帰ろうと約束をしている。


第一騎士団が警備していて防犯は完璧にみえるが万が一の為セラフィナ王太子妃の侍女がソフィアに付き添うことになった。


建物から出ると、ソフィアの目に一足早い春の花々が飛び込んでくる。ソフィアはゆっくりと花を眺めながら歩みを進めると、約束の待ち合わせの王族専用の庭の入り口近くにあるベンチに着き、侍女と他愛のない話をしながら約束の時間までルイスを待っていた。




暫くすると庭の奥から声がしてくる。

その声は次第にソフィアの方へ向かってきた。


突然、ソフィアの目の前にひょろっとした細身にくすんだ灰色の髪色の男が現れ、大きな声でソフィアに話しかけてくる。



「ああ、やっと見つけた。

お前が俺様の嫁になる者か。ふむ、可愛いと聞いていたが中々の美人ではないか」



ソフィアを上から下へと舐め回すように見定めたかとおもうと、ふんぞり返って偉そうにべらべらと喋り始めた。



ソフィアは見知らぬ男に怪訝な表情を隠さないままその男を見上げた。

着ている物は上質に見えるが、不躾で品が無い男とは関わりたくないとソフィアは視線をそらし無視をする。



「おい、俺様が話しかけてやってるのに何故無視するんだ?生意気な!」



男はソフィアに向かって手を伸ばしてきた。



「お辞めください」



側にいた侍女が咄嗟に間に入りソフィアをかばう。



「うるさいっ、そこをどけっ」


「きゃあ」



振り払う男の手が侍女に当たり勢いよく地面に倒れてしまった。



「エレナさんっ」



ソフィアは侍女に駆け寄り何度も声をかけるが、打ちどころが悪かったのか意識を失って侍女は動かない。

意識がない侍女にヒールをかけようとするが、それを阻むようにソフィアの腕を男が掴み取りソフィアを立ち上がらせた。



「痛いっ、離して下さい!」


「はん、そんな侍女より俺様の相手をするのが先だろう?」


「はっ?」



男はソフィアの腰に手を回すと自分に引き寄せようと力を入れた。



「嫌っ、何するんですか、止めてください!人違いです」



ソフィアは掴まれた腕の反対側の手で男の体を必死に押し返そうとする。



「人違いだと?今日、俺様はお前に合うために来てやったというのに間違うわけないだろう」


「本当に違います、私は」



ソフィアの否定する言葉を遮り男は捲し立てる。



「お前のその紫色のドレスに金のネックレス、俺様が聞いていた色と同じではないか」


「??」



この男は何を言っているんだろうかと不思議に思いつつソフィアはどうにか男から離れようと更に抵抗した。



「この手を離して下さい!」


「ドミンゲス公爵から聞いている、お前との婚姻はもう決まっているのだと。夫婦になるんだ、これから俺様の部屋で二人きりで親睦を深めようではないか」




握られた腕と腰に回された手がソフィアをがっちりと離さず、ずるずると連れていかれそうになり、耐えきれなくなったソフィアは大きく声を上げる。



「だ、誰か!!ルイス、ルイス助けてっ」



ソフィアの声が聞こえたのか、凄い勢いでルイスがソフィアの元へと走ってきた。


「助けてルイスっ」


「ソフィア!」


ルイスがソフィアの腰を抱き寄せる男を見た瞬間、ルイスの髪の毛は逆立ち、顔が強ばり、眼光鋭く般若のごとく男を睨みつける。



「そこの男、俺の妻に何してるんだっ、さっさとその手を離せ、さもなくば…」


「ひっ、ひぃぃぃぃぃ」



高身長でがたいが大きい強面のルイスに睨みつかれた男は悲鳴をあげ、腰を抜かし手足をばたつかせ後ずさった。



「貴様、どこのどいつだか知らないが俺の妻に手を出すなど死にたいようだな」


「つ、妻?」


「そうだ、俺の妻のソフィアだ」


「う…嘘だ、お…俺様は今日この国のドミンゲス公爵に言われて、見合いに来たのだ。シャルロット王女は紫色のドレスに金のネックレスをしていると聞いた、それが王族の色だと…」


「貴様がシャルロット王女の見合い相手だと?

ドミンゲス公爵からどう聞いたんだか知らないが、どういう聞き間違えをしたんだ?王族特有の色とは紫の瞳に金の髪だ、服装などではない」


「そ、そんな」



男は辺りをきょろきょろと見回し叫んだ。



「……ドミンゲス公爵!ドミンゲス公爵はいないのか!俺様を助けに来ないかっ、どこにいるんだー」


「ジャコブ王子ー!私はここにおりますー」



低木の間から前頭部が禿げたでっぷりとした腹を揺らしながら初老の男性が飛び出してきた。



「ドミンゲス公爵、遅いではないか。近くに隠れて俺様を見守っていると言ってたではないか。

そ、それよりもだ、ドミンゲス公爵よこの男が俺様の妻になる王女を自分の妻と言い切るのだ」


「…ジャコブ王子、残念ながらこの女性はシャルロット王女ではありません」



ドミンゲス公爵は大量の汗をかきながら、しどろもどろに小さな声で答える。



「なっ、なんだって」


「こ、こちらの女性は英雄様のご息女のソフィア様でルイス侯爵の奥方です」


「俺様の間違いだったと?」


「はい」


「…ちっ、紛らわしい格好したこの女が悪いんだ、俺様は悪くない」



ジャコブ王子は舌打ちをしソフィアとルイスを睨んだが、ルイスと目が合うもルイスが怖すぎて慌てて目を反らした。




ルイスはソフィアに絡んだジャコブと名乗る王子とドミンゲス公爵が親しげなので不審に思い疑いの目を向ける。



「ドミンゲス公爵、この方と親しげだが…お知り合いか?」


「えっ…あっ、あの、そうだ…、この方は北の国のジャコブ王子で次期王となる方でな、私はガルシア王にジャコブ王子を接待するように頼まれてだな…」


「はぁ…(そうだ、って…今言い訳思いついたのか…)」



誤魔化すドミンゲス公爵にルイスは余計に不信感が増した。



ルイスとソフィアはこの後どうしたら良いのか困っていると、大勢の騎士を連れたガルシア王が息を切らしながらルイス達の元へと走ってきた。

ルイスとソフィア、ドミンゲス公爵は猊下の礼をとり、ジャコブ王子だけは腰が抜けていて立てずに地面に座ったままガルシア王を見上げている。


「皆、頭を上げるがいい。…ソフィア、大丈夫か?」


「はい、ルイスが助けてくれたので大丈夫です」


「そうか、良かった。

ソフィアすまない、騎士達がもっと早く王子を見つけることが出来ていたら嫌な思いをさせずに済んだだろうに。

案内の者が庭の入り口から少し入った木の影に倒れていて、庭の警備にあたっていた騎士が発見した時には王子は近くにいなくてな、人手を増やし探していたと聞いた」



ガルシア王が地面に座り込む王子を見下し、怒りをあらわにした。



「ジャコブ王子、今日はシャルロットと見合いだというのに何をやっているんだ?

わしが執務室からシャルロットがいる四阿の様子を見ようと双眼鏡で見ていたらその近くで其方がソフィアを襲っているではないか。

ソフィアを助けなければと思い、わしは思わず騎士を呼ぶのも忘れて走り出してしまったわ!!」



ジャコブ王子を睨み、更に問い詰める。



「ジャコブ王子、お前案内の者に何をした?」


「そ、それは…、俺様は二人きりで話しをしたいと言ってるのに聞いてくれなかったから邪魔だなって思って…ちょっと眠ってもらおうとスプレーをシュっと」


「ほほう、何故シャルロットと二人きりになりたかったんだ?」


「いや、悪気はないんだ…ただ二人きりで話しをしたかっただけで〜……」


「はぁ?貴族の未婚が二人きりなど非常識なことを?」



ソフィアが追い打ちを掛けるように口を挟んだ。


「ガルシア王、発言してもよろしいでしょうか」


「許可しよう」


「この方は私をシャルロット王女殿下と間違え、私を御自分の部屋にて二人きりで親睦を深めようと仰り、連れて行こうとしました」


「「なにぃ!!!?」」



ルイスが剣を抜くと同時に、いつの間にか護衛から抜き取った剣を持つガルシア王がジャコブ王子の首先へ剣先を突きつけた。


「ひっ」


「俺のソフィアを部屋に連れ込んで親睦をだと?貴様…やはり死にたいようだな」



ルイスの剣がジャコブ王子の首の皮に触れる寸前、ガルシア王に止められた。


「グラシア侯爵、怒りはわかるが剣をしまえ。ここはわしに任せろ」


「はっ」


「シャルロットだろうと、ソフィアだろうとわしがそんなこと許すわけないだろう…このエロガッパ王子がっ!!剣の錆にしてくれようぞ」



周りがあっと思った瞬間、ガルシア王の剣がジャコブ王子の頭の上を通り過ぎた。

髪の毛は頭皮ぎりぎりのところで切られ、まるでガルシア王国北部の川に出てくるガッパという魔物にそっくりなてっぺん禿になった。


ジャコブ王子の目の前に落ちてくる髪を見て自分の頭に手を当てると、てっぺんの髪の毛が無くなったのがわかった。



「お…俺様の自慢の髪が…」



ジャコブ王子は頭に手を当てて地面に膝をつき泣き叫ぶ。



「うわーん、俺様の髪がー。ドミンゲス公爵どうしてくれるのだードミンゲス公爵がそうしろって言ったから俺様は王女を部屋に連れて行こうとしただけなのにー、見合いは形だけでもう夫婦同然なのだから大丈夫だって、王女も俺様を望んでいると言ったではないかー」



ジャコブ王子を囲む人だかりからそっと逃げ出そうとしていたドミンゲス公爵へ一斉に目が向いた。


ジャコブ王子は突然起き上がると走り出しドミンゲス公爵の胸に抱きついた。



「ぐすん、ぐすん、ドミンゲス公爵…お前は俺様が王になったら、俺様の後ろ盾になって我が国の宰相になると約束したではないか。

ドミンゲス公爵の言う事を聞いていれば絶対だと言うからその通りにしたのに…元はといえは父王も兄上もお前が空飛ぶ船の設計者の連れてきて、お前の言う通りに船を作ったし、お前が大丈夫だって言うから戦争を始めたのに…あっさり負けてしまった。

そのせいで二人は塔に幽閉されてしまった。ドミンゲス公爵の好きな獣人の奴隷だって融通してやったのに…何もかも失敗だ…俺様ももう終わりだ…お前のせいだ…」



ジャコブ王子はぽかぽかと力なくドミンゲス公爵の胸元を叩きながら更に泣き出した。


ジャコブ王子の発言にドミンゲス公爵の顔色は青から白へとみるみると変わり血の気が引いていく。



怒りの頂点に達したガルシア王は足早にドミンゲス公爵に近づき胸ぐらをつかんだ。



「ぐぬぬっ、ドミンゲス公爵…貴様が裏で繋がっていたとは思ってもみなかった。まさか我が国内に裏切り者がいたとは…許さんぞ、後でゆっくりと話しを聞かせてもらうからな」



ガルシア王はドミンゲス公爵を騎士の足元へ投げて王命を下した。



「この者を地下の牢屋へ連れて行け、貴族牢でなくていい、一番汚い所で十分だ。

北の国のジャコブ王子、貴様の国は周辺国のこともあって我が国の属国とし、シャルロット王女を女王にし貴様を王配にする予定だったが…貴様の今日の行動は愚行過ぎた。

貴様なぞシャルロット王女と婚姻なんてありえない、貴様の国など滅ぼしてくれようぞ。それまで貴様も見晴らしの良い場所で過ごすといいだろう、貴様が見る最後の空かも知れないから有り難く思うが良い」


「あははっ、それは私も賛成だ」



拍手をしながらガルシア王の元に来たのは赤茶の長い髪の男だった。



「フェニーチェ帝国のフィルベルテ皇帝ではないか!何故ここにおるのだ?夕方に着くと聞いておったが?」


「ガルシア王、久しぶりだね。

申し訳ない、予定より少し早く到着してしまったから時間を潰そうと庭をアルバ公爵に案内してもらってたんだ。

しかし、まさかこんな場面に出くわすとは思わなかったよ。


だが、ちょうど良かった。


ガルシア王国に着いたら我が国が開発していた空の船のことで、何か知らないか聞こうと思ってたんだ。

私もそこの王子とドミンゲス公爵?に話しを聞きたいな。

ああ、そうそう、私も北の国を滅ぼすのは賛成だよ!あんな国の王族も貴族も害でしかないからね」


「ここでは落ち着いて話ができんな、場所を移し話の続きをするとしよう」


「ああ、そうだね」


皇帝の目が笑ってない笑顔を見てガルシア王の背中に冷たい汗が流れた。



「あっ、そこのご夫婦頭を上げていいよ、ここは公式の場ではないからね気楽にしてよ」



気楽にできるわけないだろうと頭の中で思いつつソフィアは頭を上げるとフィルベルテ・フェニーチェ皇帝と目が合った。

ソフィアはどこかで見たことがある様な気がして考えていると  皇帝がパチッとウィンクをしてくる。



「あっ」



ソフィアは先日【まんぷく亭】に来た二人組の一人だと気がついた。


(あの時にはもうこの国にいらしてたのね、食べ歩きでもしてたのかしら?)



皇帝はソフィアに向かって笑顔で「またね〜」と手をひらひらさせて去っていった。







ガルシア王がジャコブ王子を城の隅の小さな窓がある塔へと幽閉するように指示を出した後、ドミンゲス公爵とジャコブ王子は騎士に連れて行かれたのだった。




皇帝の案内を務めていたリカルドは足を止め、連れて行かれるジャコブ王子の背中を見ながら


「シャルロット王女殿下…」と呟き、何かを決意するのだった。









心身ともに疲れたルイスとソフィアは庭のベンチに座り、寄り添いながら花々を眺めて癒やされていると、王族専用の庭から出てきたシャルロット王女が二人に話しかけてきた。


「ねぇ、ソフィアお姉様、さっきまで何か騒がしかったけど何があったの?

それと、今日ね、私のお見合いだったんだけどいくら待っても相手が来ないの、何か知らない?」


シャルロットは首をこてんと傾けた。

その後ろで、今回の件をどう説明すればいいのか悩んでいる侍女と従者がなんとも言えない顔をしていたのであった。









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