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第100話

 



新年の舞踏会も終わり、城の中は静けさを取り戻していた。


とある日の昼餐の後、シャルロットは父でありこの国の王であるブラウリオ・ガルシア王に呼び出されていた。


シャルロットが執務室に入ると、ブラウリオが眉間に皺を寄せて怖い顔で執務机に向かっている。


ブラウリオは突然立ち上がり、目の前の紙を持ったかとおもうと勢いよく丸めだしごみ箱へ叩き捨てた。


シャルロットが父に何があったのか分からず呆然としていた所、ブラウリオはシャルロットへ声をかけてくる。


「すまない、待たせたな。大事な話があるのだ、座ってくれ」


「はい」



シャルロットがソファーに座ると目の前にブラウリオが座った。

侍女の入れたお茶がテーブルに置かれると、ブラウリオは二人きりになる為人払いをした。


シャルロットはお茶を飲みながらブラウリオが口を開くのを待つが、先程よりも更に深い眉間の皺を作ったまま黙り込んで話が始まらない。


先にシャルロットが口を開いた。


「お父様、お話って?」


「………」


「お父様、どうされたのですか?」


「…シャルロット…話というのは…」



ブラウリオは重たい口を開き、シャルロットへ話を進めていく。


しかしシャルロットはブラウリオの話を聞いていても内容が頭には入ってこない。


シャルロットの指先は段々と冷たくなり、持っていたカップをカタカタと鳴らしながらテーブルに置いた。


「お父様、も…申し訳ありません、気分が優れないので失礼させていただきますわ」


「シャ、シャルロット…」


血の気が引いて顔色の悪くなったシャルロットはブラウリオと目を合わせることなく執務室から退室して行った。




数日後


レティシアはシャルロットから相談したい事があると手紙を受け、城に当城していた。

見慣れた城を歩いていると、何故か皆の雰囲気がピリピリしているようでレティシアは少し落ち着かなかった。


「レティちゃん、ありがとう。来てくれて嬉しいですわ」


出迎えてくれたシャルロットは笑顔ではあるが、無理して笑っているようにレティシアは思えた。


「ううん、シャロちゃんのお願いなら例え地の中だって水の中だってすぐに駆けつけるよ」


少しおちゃらけた返事をレティシアが返すと、シャルロットはクスクスと肩を震わせて笑った。


「ふふっ、レティちゃんったら。

侍女が天気が良いからってガゼボにお茶の準備をしてくれていますわ。さぁ、行きましょう」


寒さが厳しい季節の中でも外でお茶が出来るように王族プライベートの庭の一部には温度管理の魔法が施されており、いつでも心地よい温度に設定されている。

余談であるが、温度管理の魔法を開発したのはライムンドであり、レティシアが暑いのも寒いのも苦手だと3歳の頃に言った言葉が開発の原因である。

言った本人であるレティシアは勿論覚えていない。


「うん、いちごタルト作ってきたから一緒に食べよ」

「まぁ、レティちゃんのいちごタルト…ワンホール丸々食べられますわね」

「夜ごはん食べれなくなるよ?」


それ以前に胸焼けを起こしそうだとレティシアとシャルロットは笑った。

いちごタルトを食べながらいつもの様に他愛もない話をしていたのだが、ふと会話が途切れた時シャルロットは笑っているのにまるで泣いているような顔をして、このお茶会の本題をポツリと呟く様に話し始めた。


「私の婚約が決まりそうなのです」

「……相手は誰なの?」

「北の国の第二王子だそうですわ。

先の戦争での責任を取って現王は退任、戦争を主導していた第一王子も王族の籍を剥奪されるので、第二王子が次期王になりますわね」

「私には良く分からないんだけど、敗戦国に戦勝国の姫が嫁ぐ事ってよくある事なの?」


結婚生活が上手くいくようには思えないとレティシアは思うが、こういった婚姻は国同士でよくある事なのだろうかとシャルロットに疑問を投げかける。


「余りありませんが、私が王妃としてかの国の手綱を握り、二度と戦争など馬鹿な行いを起こさせない様に監視すると言うのがこの婚姻の主な理由だそうですわ」


まるで他人事の様に喋るシャルロットの目はまるでお人形の様に生気が無い。


「シャロちゃんはそれで良いの?」

「仕方ありませんわ。王族として生を受けた以上、国の為に生きるのが私の役割だと…」

「ねぇ、シャロちゃん。

今ここにいるのは私だけなんだから“王女様”でいなくて良いんだよ

シャロちゃんの本音を聞かせてほしいな」

「…本音を言ったって仕方がないですわ」


扇子で顔を隠し誤魔化そうとするシャルロットにレティシアは畳み掛ける様に言葉を続ける。


「じゃあこのまま知らない男の人と結婚しても良いの?結婚って恋人以上に色々しなくちゃいけないけど」


キス以上の事、リカルド以外と出来るのかとレティシアは目で問いかけるとシャルロットの仮面がついに崩れ落ちた。


「——っ!本当は嫌に決まってますわ!私はリカルド様以外の男性の妻になどなりたくありませんっ!心も身体もリカルド様以外に捧げたくなどありませんわっ」


レティシアのセリフのせいで、自分がリカルド以外の男性に抱きしめられ、それ以上の事をされているシーンを想像したシャルロットは嫌悪感で取り乱し、声を荒あげた。


「ずっと、ずっとリカルド様だけが好きでした。

リカルド様に好きになって貰えるように苦手なお勉強だってマナーだって頑張ってきましたの。

もっと大人な女性になれたらリカルド様に相応しくなれ、いつか振り向いて貰える、隣に立てると思っていましたのに」


シャルロットの扇子を握りしめた手が震えている。


レティシアは握りしめたシャルロットの手をそっと両手で包み込んだ。

「シャロちゃんの綺麗な手が傷ついちゃうよ…」

そう言いながらレティシアは今にも泣きそうなシャルロットを抱きしめる。

レティシアの言葉に、シャルロットは唇を噛み締めた。

「…わ、私は王族ですわ。王女としての役割を果たさなくては駄目だと分かっていますっ!でも、でも……許されるなら今すぐリカルド様の元へ行きたい」


グズグズと泣き出してしまったシャルロットの背中を撫でながらレティシアは、大きな木に目を向けて声をかけた。

「だって、リカ兄様。シャロちゃんのこの言葉を聞いてもまだ、シャロちゃんの気持ちは兄に対しての好意だって言えるの?」

「え?」

レティシアの言葉に、シャルロットは涙を溜めた目でその木に目を向ける。


「シャルロット殿下申し訳ない。

この木の陰に隠れてお茶会の間、護衛をして欲しいとレティに頼まれまして………不本意ながら全て聞きしてしまいました」


バツが悪そうなリカルドが木の後ろから出てきて、シャルロットは声にならない悲鳴をあげた。


「実はライ兄様にお願いされていたんだよね。

妹の恋路を手伝ってあげて欲しいって」


シャルロットから話を聞く前に、家にやって来たライムンドからレティシアは今回の経緯を事前に聞いていたのだ。

リカルドには押して駄目なら押し倒すまでしなければシャルロットの気持ちは伝わらないだろうと考えたレティシアは、とてつもなく強引で手っ取り早い作戦を決行した。


「じゃあ、後はリカ兄様よろしくね」

「あぁ、ありがとうレティ」


レティシアのおかげでシャルロットの好きの言葉の意味を正しく理解出来たリカルドが礼を言う。


「ううん、私がシャロちゃんに幸せでいて欲しいからしたことだもん」


驚きで目を見開いたまま固まっているシャルロットと、戦場に向う騎士の様に険しい表情のリカルドをガゼボに残し、レティシアはその場を後にした。






「シャルロット殿下」

「リ、カルド様」

「申し訳ございませんでした、今までシャルロット殿下が申して下さっていた言葉を自分はきちんと理解出来ていませんでした」

「リカルド様…私は」

「こんな無骨で見目も悪く面白みの欠ける自分を男として好きだと仰って貰えていたなど露にも考えていませんでした。

歳も離れているので、王子殿下と共に兄として慕って下さっているのだとばかり思っておりました」


シャルロットは首を横に振り、真剣な眼差しでリカルドに自分の想いを打ち明けた。


「違います…私はずっとリカルド様の事を男性として慕っていましたわ。

それに見目が悪いなどとんでもないですわ。私にはリカルド様のお姿が世界で一番素敵に見えますわ。

それに、無骨ではありません。優しくて誠実で、私が幼い頃からこうやって涙を流してしまった時には必ずハンカチを差し出して下さいます。

それに面白さよりも、温かく相手の気持に静かに寄り添ってくださるリカルド様が好きです」

シャルロットの目には嘘偽りなど微塵もなかった。

真っ直ぐに見つめてくるシャルロットからの想いをリカルドは真摯に受け止めた。

「シャルロット殿下、貴女様の気持ちはありがたいと思います。ですが今この場でお気持ちを受け取ることはできません、暫く返事を待ってはいただけないでしょうか」

話すリカルドの表情は辛く苦しげだ。

シャルロットはもう何も言えず黙って頷いた。



シャルロットの元から去って行くリカルドの背中を見つめ、姿が見えなくなると同時にシャルロットの大きな目から抑えきれない涙が止めどなく溢れだした。


「リカルド様…」


























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