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第98話

来年も亀の歩みの様に投稿していきますー。

12月もあと2日で終わろうとしている。


まんぷく亭も冬季休暇に入り、ソフィアは年明け早々新年を祝う王城での舞踏会へ出席する為に明日からルイスのタウンハウスへ泊まりに行く準備をしている。


「お姉ちゃん準備終わった?」


レティシアがソフィアの部屋のドアを開けて顔を出した。


「うん、今回は大丈夫そうだね」


「この前の旅行とは違うから大丈夫よ、そんなに持っていかなくても良いし、それにもし忘れてたら取りに帰って来られる距離だもの」


「それもそうだねー。お姉ちゃん、良いタイミングでお父さんとお母さんが急な討伐依頼で出かけちゃって良かったね。お姉ちゃんがルイスお義兄さんの所へ泊まりに行くなんてお父さんか知ったら反対されてたよ」


「そうね…とりあえずお母さんには許可もらったけど、お父さんが知ったら反対するわね」


「お母さんOKしてくれたんだ!?」


「うん。ただいろいろ言われたけどね」


ソフィアはヴァレンティナに言われた事を思い出し顔が真っ赤になった。


「いろいろって?」


「な・い・しょ、レティもそのうち言われると思うわよ」


「え、余計に気になるー」


「うふふ、レティが成人したらね」


「ぶーぶー」


レティシアは子供扱いされて怒っている。


ふくれっ面のレティシアを見てソフィアは笑っていた。


「ほらほら、そんなことより明日の準備は出来たの?」


「うん、明日のお弁当も作ってインベントリに入れたから大丈夫!」


「気をつけてね、無茶しないでね」


「大丈夫大丈夫!明日はピクニックだから、狩りはしないから心配しないで」


「…約束よ?」


「うん、約束する!」


にっこり笑って小指を出したレティシアに、

自分が留守中にレティシアがロベルトと過ごしても大丈夫だと安心し、ソフィアはレティシアの小指を絡めて指切りげんまんをしたのだった。





翌日


12月の最後の日、冬だというのに朝から寒さが和らいでいて出かけるのにはとても良い日だ。


まんぷく亭の前でレティシアとロベルトがソフィアを見送る為に一緒に馬車を待っていた。


「お姉ちゃん、ルイスお義兄さんによろしくね」


「うん。レティシアもロベルトさんと気をつけて行ってきてね」


「はーい、大丈夫、約束したからねっ」


レティシアは小指を見せて笑ってみせる。


ソフィアはロベルトへと向きなおし、微笑むと、腰を折りお辞儀をした。


「ロベルトさん、お誕生日おめでとうございます。今日は気をつけて、楽しんできてくださいね。私は新年の舞踏会まで留守にするのでレティシアのことをよろしくお願いします」


「はい、レティのことは私が守るのでご安心下さい」


ロベルトも深々と腰を折り誠意を見せる。


「レティ、ロベルトさん、いってきます」


「「いってらっしゃい」」


ソフィアは迎えに来た馬車に乗り込むと、小さな窓から顔を見せ手を振る。


レティシアとロベルトは手を振り返し、馬車が小さく見えるまで見送った。


「ロベルトさん、お姉ちゃんも出かけたし早くローズちゃんの所へ行こう」


「ああ」


ロベルトは借りてきた馬にレティシアと乗り、王城内にある竜舎へと走り出した。


数十分後、竜舎に着いた二人をローズとラピスが待っていた。


「ローズちゃんお待たせー」


「ギャウー(レティ遅いー、待ちくたびれたよー)」


「ごめん、ごめん」


「ギャウギャウ(ほらレティ、早く乗って!ロベルトさんも〜)」


「はいはい。あっ、ちょっと待って」


レティシアはラピスに向かって、


「ラピス、ごめんね連れて行けなくて。お土産沢山取ってくるからね〜」


ラピスは「ギャウー」と拗ねたように寂しそうに鳴いた。


「じゃあ行ってくるねー」


「ギャウー」


二人を乗せたローズは勢いよく飛び出し、あっと言う間に城が小さく見えるほどになる。


西の森の奥まで飛んで来ると、一面白銀だった雪景色の間にぽっかりと緑の森と小さな湖が見えてきた。


ローズは湖から流れ落ちる滝の下の脇にある草むらに降り立った。


「ここは?」


ロベルトが目を見開き驚いている。


レティシアも驚きの声を上げた。


「なにここ!?なんで雪がないの?あちこち花まで咲いてるし、辺り一帯なんか暖かいね」


「ギャウーギャウギャウ(ここは前に獲物を探しながらお散歩してたらみつけたのーなんか暖かくてお昼寝には最適な場所なの。

でね、いつかレティを連れて来たかったの。

それにこの上の湖で取れる魚がラピスの好物なのー、この川でも美味しい魚がいるよ)」


「へー、ローズちゃん連れてきてくれてありがとう!」


「ありがとうローズ」


「ギャウー(どういたしましてー、私は愛するラピスの為に魚を取りに行ってくるね、二人はこの辺りで楽しんでねー)」


二人を置いてローズは飛び去って行った。




「ローズは取った魚をどうやって持って帰るんですか?」


ロベルトはローズの疑問をレティシアに聞いてみる。


「あっ、ローズちゃんにマジックバック上げたって言ってなかったっけ?」


「ええ、知りませんでした…」


「子供の頃、まだインベントリが使えなかったからお父さんがお姉ちゃんと私に作ってくれたの。もう使わなかったから、獲物を持って帰るのに困ってたローズちゃんに着けてあげたの」


「使いこなせてるなんてローズは器用なんですね」


「お姉ちゃんもベリーちゃんに上げてたよ」


「……」


ベリーとローズが竜騎士団の竜達より数段器用だし知能が高いのは元野生だからなのだろうか?とロベルトは思った。




いつの間にか離れていたレティシアがロベルトを呼んだ。


「ロベルトさーん、ここにシート敷いてお茶しましょー」


「ああ、今行きます」


滝の見える景色のいい場所にシートを敷くと二人は並んで寄り添い座った。


レティシアは少し照れくさそうにポケットの中から手のひらサイズの箱を渡した。


「お誕生日おめでとうございます、ロベルトさん。気に入ってくれたら嬉しいなっ」


「ありがとうございます。嬉しいです、開けても良いですか?」


「はいっ」


ロベルトがリボンを解き、箱を開けるとそこには銀色に光るプレートが付いたネックレスとブレスレットがあった。


プレートには小さな黄色い石が埋め込まれてあり竜の刻印が彫られている。


「ロベルトさんに似合うかなって思って作ってみたの。黄色い石は私の魔力で作った魔石なんだけど時間がなくて小さいのが二つしか作れなくて…」


「嬉しいです、レティはケーキを作るのが上手いのは知ってますがこんな素敵なアクセサリーまで作れるなんて、魔石だって普通はこのサイズを二個も作ろうと思ったら1年以上かかりますよ」


「そっ、そうなの?喜んでもらえて良かったー!」


「ありがとうレティ、大切にします」


ロベルトはレティシアを抱き寄せた。


「レティ、レティ、愛してます」


ロベルトはぎゅっと抱きしめるとレティシアへ口づけを落とす。


「レティ…」


「ロベルトさん…、んっ…」


ロベルトの長い口づけにレティシアは頭がくらくらして力が入らなくなってくる。


ロベルトへレティシアはもう限界だと背中をぽんぽんと叩いた。


「あっ、すまない」


「もう!」


またやってしまったと反省するロベルトに苦笑いするレティシアだったが


「今日は特別な日だからもう一度言うね、誕生日おめでとう!私もロベルトさんのこと大好きだよ、愛してる」


レティシアから再び抱きつきロベルトへ口づけをすると、ロベルトも抱きしめ返した。


「ありがとうレティ、次はレティの誕生日ですね」


「うん」




しばらくシートの上で寄り添い、お茶を飲みながら滝から流れる川を眺めていると1匹の魚が跳ねて姿を見せた。


「あっ、ロベルトさん今魚が跳ねたね!ねぇねぇ釣りしない?」


「いいですね、でもレティは釣り出来るんですか?」


「まかせて!子供の頃からよくお父さんとしてたから」


レティシアはインベントリから二本釣り竿を取り出すと、石をひっくり返して川虫を取り付けてロベルトに渡す。


「どっちがいっぱい釣るか競争ね」


「負けませんよ」


二人が離れて釣りを始めて直ぐだった。


「あっ、あーっ!」


もの凄い勢いでレティシアの持っている竿がしなり引っ張られる。レティシアは身体強化を使うがそれでも竿が手から離れそうになっていた。


「レティ!」


ロベルトが慌ててレティシアに駆け寄り一緒に竿を持ち、一気に引き上げる。


バッシャーーン


河原に二m近い魚がバッタンバッタンと魚らしからぬ跳ね音をたてて暴れている。


「えーー!!?この川ってこんなに大きな魚が釣れるのー?びっくりしたぁ」


「この辺り一帯暖かいから大きく育つのかもしれないな」


「そっかー」


レティシアは何気なく川に手を入れてみる。


「この川なんか温かい、上流の何処かに温泉でも湧いてるのかな?」


「温泉ですか?かもしれないですね」


「ロベルトさん、一緒にはい───……」


「一緒に?」


「ううん、一緒に...うん!一緒に釣りまた始めようかな〜って」


「そうですね、あの魚を締めたら続きをしましょう」


「うん」


レティシアは一緒に入ろうと言いそうになり、顔を赤くしながら慌てて口を閉じた。


(危ない危ない…)




レティシアは釣り竿を持ち川辺に座るとロベルトがレティシアを脚の間に入れる様に座った。


「??ロベルトさん?釣りしないの?」


「ああ、さっきみたいなことになったら大変ですから」


「競争は?」


「レティの方が大切なので勝負は二の次ですよ」


「むー」


ロベルトはレティシアの後ろから顔を覗き込むと頬が膨れているのに気が付いた。


「どうしましたか?レティ、怒っていますか?」


「そうじゃなくて、その…丁寧口調じゃなくて。こう、なんかもっとフランクに話して欲しいなって思って」


どんどん語尾が小さくなっていくレティシアにロベルトはクスッと笑った。


「可愛いな…レティは俺のことを無意識に煽りすぎる」


「えっ?煽るって」


「自制するために言葉を崩さなかったけどもう止めるよ。

ねぇレティ、レティももう俺を呼び捨てしてもいいんじゃない?」


「えっ?」


「レティ、俺の名前呼んで?」


「ロ……ロベル…ト」


レティシアの顔が一気に赤くなる。


ロベルトは満身の笑みでレティシアを見つめると髪を一掬いし、わざとちゅっと音をたてて口づける。


「ひゃっ!お、俺って…」


ロベルトが満身の笑みで笑うと世の中の女性は十中八九倒れるのでは?と思うほどの綺麗な顔が目の前にあり、その顔にレティシアは慣れたと思っていたが、実は未だに慣れていなかったことに気づくのだった。

レティシアはさらに顔を赤くし、口をはくはくしながら言葉が出なくなった。


レティシアが真っ赤な顔を隠す様に下を向きながら竿をもっていると後ろからロベルトが叫んだ。


「レティ!竿引いてる!!」


「あっ」


慌てて掴んだ竿を同時に引っ張り上げる。


バシャッと川から上がった魚は先程とは違い五十cmもない位の物だった。

レティシアは小さい魚を見て肩を落とす。


「…残念、小さかったね」


「食べやすいサイズでいいじゃないか、料理しやすそうだしね」


「そっか、それもそうだねー。じゃあ沢山釣って皆にお土産にしなきゃ」


「そうだね」



釣りを始めて数刻過ぎ、魚が沢山釣れたので二人は釣りを止めシートへ戻ってきた。


「あー楽しかったー」


「狩りもいいが釣りもいいな」


「結局大きい魚は最初の一匹だったね」


「川の主かもしれないな」


「そうかもねー」


シートに座った二人に少し冷たいが釣りを頑張って火照った体を冷ます様な風が通り抜ける。


「気持ちいい風、シートの下は地熱のせいで暖かいから過ごしやすい」


「そうだね、…ロ…ロベルト、遅くなっちゃったけどお昼ご飯にしない?」


「ああ、お昼にしようか」


レティシアはインベントリから前にロベルトから貰ったピクニックバスケットを取り出した。


「今日は寒いと思ったのでグラタンコロッケバーガーとホットサラダ、あとコーンスープです。熱いので気をつけて食べてね」


ロベルトはレティシアに手渡されたグラタンコロッケバーガーを一口齧り付く。


「熱っ、でも凄く美味い。ホワイトソースがとろりとしてマカロニと鶏肉が合わさってサクサクしてて、俺、皿に入ったグラタンも好きだけどこれも好きだな」


「ふふっ、気に入ってくれて良かった」


「作ってくれてありがとう」


「うん」


昼食を食べ終わった二人はお茶を飲みながらローズが帰ってくるのを待っていた。


「ギャウー(おまたせ〜)」


「ローズちゃんおかえりー、魚いっぱい取れた?」


「ギャウーギャウギャウ(もちろんよ!ロベルトさんって今日誕生日ってレティが言ってたけど誕生日って何?よくわかんないけどおめでたい日なんでしょ、私からもプレゼントあげるね)」


ローズの首に掛けたリボンに付いたマジックバックから一匹の三m以上ある巨大な魚が飛び出してきた。


「ギャウギャウ(ビックレッドトラウトよ、ほどよく脂がのってて凄く美味いのよ)」


「あ…ありがとうローズちゃん」


「ありがとうローズ、う…嬉しいよ」


「ギャウー(どういたしまして〜)」


レティシアとロベルトは自分達が釣った魚が一番大きいと思っていたのだが、ローズがくれた魚が余りにも大きくて驚きを隠せなかった。


日が傾くと危険なので早々にローズに乗り竜舎へ戻る。

ローズは「ギャウー(ラピスーお土産だよ〜)」とラピスと二人の前にマジックバックからビックレッドトラウトを山のように大量に積みだした。

さらに驚くことにビックレッドトラウトの中に亜種が混じっており、新発見だと城中が大騒ぎとなった。


「ギャウー?(新発見?あれってビックレッドトラウトとは違うんだ、どうりで脂が多くて不味いと思った。魚はほどほどの脂がいいよね)」






新発見となった魚の亜種は王城の人達にまかせ?ローズにお礼を告げて二人はまんぷく亭に帰ってきた。

夕飯をすませた後、二階にあるレティシアの部屋でこたつに向かい合って座り、みかんを食べながら年越しの鐘が鳴るのを待つ。


「このこたつ?というのは良いな」


「こたつ大好き!こたつのこと知らなかった?」


「見たことも聞いたこともないかな」


「そっかー」


「それにしても、このこたつという物は一度入ったら出られなくなる」


「ふふふっ、これでロベルトもこたつ愛好家のメンバーの仲間入りだね」


「そうだな…」


(ふふっ、この前シャロちゃんの部屋の片隅にこたつを設置してきたからきっと今頃はこたつの愛好家の仲間入りになってるだろな)



新年の鐘が鳴り出すと、レティシアがロベルトの隣に入りなおし、ロベルトの肩にもたれ掛かる。


「去年はいろいろとあったけどロベルトと知り合えて良かったし、恋人になれて良かった。こんな私だけど今年もよろしくね」


「ああ、俺もレティと出会えて良かった、恋人になってくれてありがとう。レティは生涯誰にも渡さないし離さない、愛してくれてありがとう。今年もよろしくな、未来の奥さん」


「うん」


いつの間にか繋いだ手の指が絡み合い、ロベルトの影がしだいにレティシアへと傾いて、二人はゆっくり目を閉じる。

鐘の音が鳴り続ける中、二人の影は一つとなり時間だけが過ぎていった。












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