いっと六県大回り
さて、この連休。筆者はJRの「大回り」による〝乗り鉄旅〟を敢行した。
この「大回り」、「A駅からB駅までの運賃は、大都市近郊区間内のみを利用する場合、最短経路を辿ったものとして計算される」という、「運賃計算の特例」を活用したものだ。
極論、関東一周しても初乗り料金しかかからないという、貧乏乗り鉄にとってはとてもリーズナブルな旅行が楽しめる。
これは、別にルール違反じゃない。時々この特例を知らない駅員さんや乗務員さんがいるようだけど、逆にみどりの窓口などでは「大回りガイドブック」を用意してくれていたりする場合もあるくらい、メジャーな乗車方法だということが出来る。
ちなみにその分、ルールは厳格だ。
1. 定められた範囲を逸脱してはいけない。
2. コースは一筆書き。同じ経路を二度乗車したり、或いは同じ路線を往復したりしてはならない(但し首都圏近郊区の場合、JR代々木駅――JR新宿駅間、JR倉賀野駅――JR高崎駅間、JR上野駅――JR日暮里駅間の通過を理由にした往復は例外)。
3. 同じ駅を二度通過してはならない。例えばJR武蔵野線で府中方面から所沢方面に抜けた後、JR中央線特別快速で新宿方面から高尾方面に抜けてはならない(JR西国分寺駅を二度通過する――JR中央線特別快速は、JR西国分寺駅に停車しないけど――ことになるから)。
4. 途中下車してはならない。下車(駅構内から退場)する場合はそこで経路がリセットされ、乗車駅から下車駅するまでの最短運賃を一旦精算しなければならない。
5. 有効期間は一日。その日(選択される最初経路の初電から最終経路の終電)までに、改札口から退場しなければならない。
ちなみに紙の切符だと、自動改札機では(不正入場を防ぐ為)一定時間経過後は退場出来なくなる場合もあるが、その場合は窓口に行って「大回りして来ました」と主張すればOK。前述の通り大回り特例を知らない駅員さんがたまにいたり、大回りのルールを守っているか経路の確認を要求したりする駅員さんがいる場合もあるが、そこはルールを守っているのなら毅然とした態度で事実を伝えればいい。
この「大回り」。ガイドブック等によると色々なテーマで旅が出来る。北関東周遊だとか、房総半島一周だとか。筆者が好むのは、「一都六県大回り」。乗車距離が最も長く、最もお得感あふれているから。
そしてこの日、朝6時36分。JR八王子駅(以下駅名並びに路線名に「JR」の表記は省略。JR以外の駅を利用した「大回り」自体があり得ないから)に入場。
この大回り、それも一都六県コースのような長距離ルートは、事前の設計が意外に重要だ。そうでなければ、乗り継ぎに一時間、なんていうことにもなりかねないから。そしてコツは、「ローカル線は先に、幹線は後に」。何故ならローカル線は本数が少ないから、それに合わせて経路設定をしておくことで、その後の乗り継ぎがスムースに進む。幹線は本数が多いから、次の電車を待っても大した時間的ロスにはならないから。
だから、最初に乗車する電車は、八高線(八高南線)を予定していた。が、八高線高麗川行きは、6時35分に発車。次は59分(川越線直通川越行き)。駅入場でいきなり20分待ちは、さすがに興が殺がれた。
ちなみに八高線のダイヤは、平日日中は「毎時8分」と「38分」に発車。これは「八高線」の「8」にあやかり、そう設定したという話を聞いていた。けれど朝6時台のダイヤはこのルールが無視されていた。ちなみに日中のダイヤも、現在では9分と39分に変更されていた。どうやら筆者の情報は、かなり古かったようだ。
その為、まだ始まってもいない段階で、ルート変更。すぐに発車する横浜線に乗って、茅ケ崎まで。(東京都・神奈川県)
そして、「貧乏乗り鉄旅」の代名詞にもなっている大回りで、掟破りのことをする。
なんと、東海道本線のグリーン券を購入。といっても、これもかなりリーズナブルな買い方になる。
グリーン券は、車内購入と駅(モバイル)購入の二通りの手段があり、駅(モバイル)購入だとかなり割安になる。
休日料金だと、走行距離50kmまでなら、車内購入で840円、駅(モバイル)購入で580円。51km以上だと、車内購入で1,060円、駅(モバイル)購入で800円。そして今回購入したグリーン券の区間は、東海道本線茅ケ崎駅から常磐線土浦駅まで。総走行距離、128.2km。ちなみに関東首都圏近郊区間(大回りの乗換駅間)で、グリーン車搭乗可能の最長距離は、163.6km。上野東京ラインで高崎駅まで乗車した場合。だけどそれだと今回の旅の趣旨から外れるから。(神奈川県・東京都・千葉県・茨城県)
東海道本線から常磐線への乗換駅である品川駅で、駅弁を購入。車内で食べる駅弁は、高級レストランで食べるディナーとは違った趣のある、でも楽しい食事。けれど、筆者はタイミングを間違えてしまった。
常磐線グリーン車で、実は前の座席に家族連れがいて。なんとなく、テーブルを出して食事する気になれなかったのだ。だから土浦駅から乗り継いだ、常磐線普通列車の車内で食べることに。
けれど、GWの中日、天気は晴天。だから行楽客も多く。
その時間、常磐線水戸行きは、満員御礼(3密はどこに行った?)。
ボックスシートで、対面の旅行客が慎ましくランチパックを食べている時に、駅弁の鶏飯をがっつくのは、少々はしたない、と思ってしまった。
さて、常磐線友部駅で下車し、対面のホームに停車中の水戸線に乗り換え。これで今度は小山駅に。(茨城県・栃木県)
こっちは単線ローカルで、風景は一気に長閑なものに。でもそろそろお尻が痛い(笑)。
実は、北回りルートを当初予定していた理由の一つには、これがある。ローカル線のシートは、長時間乗車を想定していないから。疲れた頃に、グリーン車でゆっくりしよう、と考えていたんだ。だけど、出だしから計画は狂っているから。
小山駅からは、両毛線に。こちらは30分程度の乗り継ぎ時間。両毛線もまた単線で本数が少ないので、乗り継ぎに多少の手間がかかっても仕方がない。そしてこの両毛線も、満員御礼だった。(栃木県・群馬県)
その乗客の大半は、「足利フラワーパーク駅」で下車したけれど。うん、その時点で、皆様がこの電車を利用した理由がよくわかる。ちなみにフラワーパークの駐車場も、満車状態だった。
なおこの両毛線の乗車中、筆者はマナー違反を行った。何と、車内で携帯電話を使用する、という非常識行為だ。
14時25分と、14時45分。筆者の、お袋に。
14時25分は、万一昼寝をしていたらお袋を起こす為。
14時45分は、透析の為の送迎タクシーが到着する15分前だから。
旅先からでも、タイムキーパーしなければいけないのです。
そして、高崎駅に到着。ここで、南回り最大の不幸に襲われる。乗り継ぎ時間、60分(涙)。
八高線(八高北線)は、関東で唯一の非電化区間(実は他にも非電化区間はある。これは筆者の思い込み)。懐かしいディーゼル車の旅が楽しめる。筆者は幼少時八高線の沿線に住んでいた為、むしろ電化された(川越線直通の)八高南線には違和感があったから。八高線はやはり、八王子と高崎を結ぶから「八高線」なのであって、八王子と高麗川を結ぶから「八高線」なのではない、という意識が強い。
けれど、非電化区間。それだけ利用乗客数が少ないということだから、当然その分本数が少なく。乗り継ぎに失敗すると、こういうことになってしまうのだ。しかも「大回り」では途中下車も出来ないから、諦めて本を読んで時間を潰す。
……『手札が多めのビクトリア』が、セカンドシーズン(n2535hp)だと? これはファーストシーズン(n7308he)から改めて読み返さなければ。
そうしていたら、あっという間に一時間が経過。到着するのは、二両編成のディーゼルカー。
八高北線は、こちらも満員。だけどこの北線は、通勤通学に使われるから、意外にあっさり空いてくる、というのが日常。だから、取り敢えずベンチシートに着座出来たけど、シートが空いたらボックスシートに移動しよう、と思っていたら。……高麗川まで、満員のままだった(涙)。(群馬県・埼玉県)
高麗川で、八高南線に乗り換え。そして、北八王子駅で一旦下車。(埼玉県・東京都)
これで、一都六県大回りの旅が完結する。ちなみに料金は、八王子――北八王子間の190円、そのほか駅弁二つで2,000円強、そしてグリーン券代800円。所要時間、12時間強。三千円とちょっとで、丸一日、関東一円を堪能したのでした。
大回り旅で注意することは、トイレと食事の時間の確保、そして非常時に於ける経路変更を随時に行うこと、だ。
乗り換え時間を短くすることは、大回り旅を効率的に乗り継ぐ秘訣だけど、短くし過ぎるとトイレや買い物の時間が取れなくなる。また、想定外のトラブルで予定通りの旅が出来なくなるとなれば、ルートを変更することも考えなければならない。その際、「大回り」のルールを逸脱してしまう可能性も考えて、予備費となる資金を用意しておく必要がある。
置き石や、車内トラブル。この日は、大阪の方でどこかの馬鹿が駅構内に爆弾を仕掛けたなどと放言して大騒動になっていた。こんなトラブルの渦中にあっては、予定通りの旅など出来ず、そして計画が狂うと「大回り」自体が成立しなくなる可能性さえあるのが、この旅のリスク。
その一方で。例えば今回、高崎駅で60分の乗り継ぎが必要になったけど。湘南新宿ラインで新宿駅まで行き(群馬県・埼玉県・東京都)、中央線快速で豊田駅まで、というルートに切り替えても、「一都六県大回り」は成立した。五条件の全てを満たすルートだから。しかも、その方が所要時間が短いという。
ただ今回は「八高北線のディーゼルカーに乗る」のが一つの目的だったから、敢えて乗り継ぎ60分を受容したけれど。そう、「エスケープ・ルート」(当初の予定を満たせない時の代替ルート)もまた〝一筆書き〟のルールを守れるのであれば、それでも構わないのだから。
また、この「予定変更」は、時間的なものも含まれる。
当初予定のゴール到着予定時刻が23時30分、などというと、途中で例えば三時間の遅延となれば「大回り」が成立しなくなる。けれどゴール到着予定時刻が18時30分であれば、三時間程度の遅延なら許容出来る。そういう、余裕を持った計画が、この大回り旅には必要なのだ。
……本来、4時台の始発からの乗車を予定していたのに、寝坊して6時半になった時点で、当初予定なんか消えてなくなっていたのに。でも逆に、それもまた、「余裕」。
旅の楽しみ方は色々あります。なら、例えばこういう旅も、如何でしょうか?
(4,316文字)
・ JR「運賃計算の特例」(https://www.jreast.co.jp/kippu/1103.html)
・ 関係ないけど、動画投稿サイトで乗り鉄さんたちが、乗換駅のことを「ターミナル駅」と呼ぶのに違和感が。「ターミナル(terminal)」の意味は、「終端」「行き止まり」。乗換駅は「トランスファー(transfer)駅」が妥当ではないかと。ちなみにJRの英語放送では、終着駅のことを「terminal」と言いますが、乗換駅のことは「××station. You can transfer to~」という言い方をしています。